渋々ですが逆ハーエンドを目指します

杜本

1.女神に拉致られて

「あれ……ここ、どこ?」


 いつの間にこんなところに来たのかしら。


「自分の部屋でゲームしてたと思うんだけど……」


 というかこんな豪華な部屋、三十年以上生きてきた人生の中で初めてだわ。

 うわぁ、この絨毯じゅうたんとかソファとか、すっごく高そう……。


 うーん、寝落ちでもしたのかしら?

 うん、きっと夢ね!


「――これは夢ではないぞ、星野ほしのあいよ」


「ぅひゃっ?! 誰?!」


 目の前にあったソファに、いつの間にか女の子が座っていた。

 喋らなければ人形かと思うほど可愛い子だ。

 ただ今のように、偉そうに脚を組んで着物を着崩しているところを見るに、性格はそれほど可愛いものではないかもしれない。


 今……一瞬で現れたわよね? 誰もいなかったのに。

 

 あっ、そうか、これって夢だったんだわ。

 夢なら何でもアリよね!


「夢ではないと言っておるじゃろうが」


 うわっ、考えること読んでくるの……?

 夢の中とは言え、いい気分じゃないわねぇ。


「で、あなたは誰なのかしら?」


「全く信じておらんのう……」


 のじゃロリ少女は「やれやれ」とでも言いたげな顔だ。


わらわは、神じゃ! もっとあがたてまつっても良いのじゃぞ?」


「……は?」


 神かー、そうきたかー。


 ……なんなのこの夢。


「面倒くさいからサクサク説明するぞ~、しっかりと聞くが良い」


「えっ、一体何を……」


 神と名乗った少女――女神は、私を無視してどんどん話を続けていった。


「今からお主が転生するのは『メテオール』と呼ばれる乙女ゲーム世界じゃ。お主にはそこで『ぎゃくはーえんど』を目指して欲しいのじゃ!」


「……はぁ?」


 さっきよりも随分と低い「は?」の声が出る。


「逆ハーエンド、知っておるじゃろ?」


「それは知ってる……けど……」


 逆ハーレムエンド。

 針に糸を通すように、数多あまたの男キャラを同時に攻略するルートを見つけた者だけが辿り着ける結末。

 乙女ゲームをプレイする者ならば、一度は目指すであろうエンディングよッ!


 かくいう私も、プレイした数々の乙女ゲームで見たわ。

 別にハーレム願望があるわけじゃないんだけど、やっぱせっかくだしね?


「最近、女神わらわ達の間では乙女ゲームのような世界を作って遊ぶのが流行っておってのう。メテオールは友神ゆうじんが作った世界なのじゃが、これがまたやたらと難しくてな。何周もしたのに逆ハーエンドが見れないのじゃ!」


「あ~たまにあるわね、逆ハーエンドだけめちゃくちゃ難しいゲーム」


「そうなのじゃ! 個別エンドはすぐに見れるのじゃが、同時攻略しようとすると難しくてのう……。攻略対象同士にも相性があるみたいでな、攻略順や進行度なんかを調整せんといかんのじゃ。五人もおるもんで、パターンもいっぱいあってのう……」


「あー、そういうタイプね。このキャラとこのキャラは同時にやらないといけないとか、逆にこっちのキャラとあっちのキャラはMAXマックスになるまで同時に手を出しちゃダメ、とか……大変なのよねぇ」


「そうなのじゃそうなのじゃ~! 面倒くさすぎるのじゃ~! でも逆ハーエンドも見たいのじゃのじゃ~! だからお主にやって欲しいのじゃ~!」


「のじゃのじゃウルサ……って、ちょっと待ていッ!」


 いやいや、何キョトンとしてんのよ!

 ツッコミどころしかないじゃない!

 危うく普通に会話を続けそうになるところだったわよ!


「なんじゃ?」


「まず『ゲーム世界に転生』ってどういうことよ! ゲームに生まれ直すとか日本語おかしいじゃない! っていうか、なんで私がそんなことしなくちゃいけないの?!」


「日本の小説……ラノベじゃったか。あれらではゲームに転生する話が流行っておるじゃろ? だからおかしい日本語などではないぞ」


「いやまぁ、そりゃ確かに流行ってるけど……」


 流行ってたら良いとかそういう問題じゃないわよ。


「それにメテオールがあまりにも難しいものでな、めんど……疲れてしまってのう。だから乙女ゲームに詳しくてプレイの上手そうな女子おなごを連れてきて、妾の代わりにやってもらおうと思ったのじゃ!」


「そんな理由で……というか、何で私なの? もっと詳しい人とかいそうじゃない」


「お主を選んだ理由か? ……適当、じゃな」


「適当?」


 それほどに私が適当――つまり『適任』である理由って何?

 確かに乙女ゲームは好きでたくさんやったけど……上には上がいるでしょ。


「運、と言っても良いのう。条件に合う人間を拾ったら、たまたまお主だったというわけじゃ」


「あ……そっちの意味……」


 要するに、意味なんか無いってことね……。

 ある程度の条件はあったみたいだけど、何が何でも私に~って話じゃないっぽいわね。


「別に他の人でも良いのなら、他を当たってもらえないかしら。で、私を元いた場所に戻してちょうだい」


 夢じゃなかったら、の話だけどね。


「それは無理な話じゃな。これは決定事項じゃ」


「はあっ?!」


 女神がそう言うやいなや、自分の体から光が溢れ始めた。


 決定事項って……拒否権ナシ?!

 しかも事情説明はこれで終わりなの?!


「見事、逆ハーエンドに辿り着いたあかつきには、お主の望みを一つ叶えてやろう。だから頑張って攻略するのじゃぞ?」


「ちょっ、そんなっ、待って……せめてキャラの情報ッ!」


「スタートは十六歳の春、王立学院の2年生じゃ。それまでの人生の記憶や知識はちゃんとあるでのう、安心すると良いぞ。では、逆ハーエンドの件、くれぐれも宜しくの~」


 それは主人公キャラの情報でしょ!

 私が聞きたいのは攻略キャラの情報……!!


 ……そう言いたかったのに、声にならなかった。

 私の体は真っ白な光に包まれ、消えていった。

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