見えないダモクレスの剣。


 突如として日本の全国民にとある義務が追加された。
 それは国営SNS「J’S BOOK」を利用すること。
 自分のプロフィールや行動を「嘘偽りなく」投稿し続けなければ、容赦のない制裁が待っている。
 こうして主人公をはじめとした人々は、今日もスマホを弄る……



「ダモクレスの剣」というエピソードがあります。

 ダモクレスという臣下が「この豪華な玉座に腰掛けられるとは、さぞや幸福でしょうね」と当時の王を讃えたところ、王は彼を玉座に座らせます。
 至福に身を委ねようとしたダモクレスは、自分の頭上に大剣が一本、朽ちたロープに繋がった状態で吊られているのを見て戦慄するのです……


 この物語を読んで、上記の話を思い出さずにはいられませんでした。
 タグにもある通り「監視社会」がテーマとなっています。国民の全員が頭上にある大剣を意識し続けなければならない。
 確かに恐ろしい事態なのだと思われます。

 が、では今の社会は「問題ないんだ」とホッと胸をなでおろせるのでしょうか。
 スマホという誰もが持つ媒体で写真や音声を撮られ、容赦なくアップロードできる時代。
 過熱する反応、徹底的な制裁を望む風潮。
 誰が誰に、どんなきっかけで攻撃されるかも分からない不安。

 見えない大剣が、私達の上にあるのかもしれません。