Act.161 黒き脅威を越え行く、桃色の嵐

 一方ではテンパロットの殺意に満ちた一撃が。

 もう一方では、ヒュレイカの悲しき怪力が生んだ奇跡の一撃が。


 双方が相手取る、ラブレス軍主力たるそれらを打ち払うのを傍目に――


「どうやらウチの主力が押し切った様だね!? ならば私達もそろそろ決着と行こうか! 」


「なるほど、ここで起死回生を演じるのも悪くはない! 幕を降ろす! 」


「言うね! 流石はラブレスの先見隊を一人で率いただけの事はある――けどね、宿!! 」


 空を舞うリュード。

 そしてそれを直線加速で追う私。

 そもそも雷速加速は彼の様に自在に軌道を変えられぬ弱点が存在し、幸いにもそれがカミュとの戦闘で浮き彫りとなったため対応を準備しての今。


 けれど対応それを敢えて伏せたまま、今なお恐るべき手練れたるラブレス軍総大将との接敵に注力します。


 しかしながら、我が家族の奮闘からも察した事実——すでに私が精霊共振装填を繰り出し優勢を誇れる制限はギリギリ。

 視界の端に映る連星太陽が真っ赤に焼けて、西の空へ沈むか否かの瀬戸際。

 ここで勝負を決せねば、彼らに起死回生のチャンスを提供してしまう所。


 恐らく私達法規隊ディフェンサーの真価はその程度と酷評のウチに、殿


「——けは……それだけは絶対にダメだ! サイザー殿下の描いた、弱きを救う今後の世界へ向けた一大構想は、私達法規隊ディフェンサーこそがその要! ここで敗北する訳にはいかないんだっ!! 」


 思考へ過る顛末へ猛烈な否定を飛ばした私は、さらにリュードを追い詰めんがため共にある精霊達へ協力を依頼します。


 落ち零れだった私へこんなにも、素敵な仲間と素晴らしき旅と巡り会わせてくれた殿下の……夢。

 すでにそれは、私自身の夢へと昇華されていたのです。


『ここで私達ですキ! 闇と光を融合して、ミシャリア様を支援するですキ! 』


『シェンに同意。私の……私達精霊の素敵な主様——ミシャリア様へ、最高のお力添えを。』


「ああ、受け取ったよ……シェンにウィスパ! 光と闇を融合させた力を我に! 」


光烈宵闇融合エルダルクバースト……次元影牢光陣ディメンジョナリ・アクセルっっ!! 』


 最後の最後。

 光と闇の融合術式。

 雷速加速の弱点を補うそれは己の実態無き影を無数に創造し、本体たる身体を光学的に隠匿する秘策。

 そう——

 直線的、鋭角的な移動しか出来ない雷速加速も……もはやこちらの攻撃の出処など消失するも同義。


 眼前の恐るべきラブレスの将を討ち取るのに、これほど相応しい魔導などありません。


 術式展開と同時に無数の残影が宙空へと浮かぶや、リュードより遠ざかる様に疾駆し——

 さらにそこへ複数の残影を残す事で、彼がチラチラ視界に留めていた私の雷速加速後の隙を完全に消し去ったのです。


「……!? なんとこれは……この術式は!? ククッ、いいぞミシャリア・クロードリア——この様なモノ……今までの魔導概念を覆す術式など世界に存在していない! 」


「かのいにしえ、アグネス大帝国が存在した時代の上位古代語魔導術式ハイ・エンシェント・マギウスにさえそんな物はない! そのザガディアスの歴史へ、新たな魔導概念を生み出そうと言うのか……大賢者を志す者よっ!! 」


 見開く双眸で、私を視界から見失ったリュードの咆哮。

 あらゆる魔導的手段で私を追おうとするも、あら残念……もうその方向にはいないのですねこれが。


 それはまさに好機。

 彼ほどの術者の視野から姿を消せた今は即ち勝機。


「皆、準備はいいかい!? まくるよ……ラブレスが誇る死霊の支配者ネクロス・マイスターをっっ!! 」


 愛しき精霊と、その力添えで生み出した無数の残影を引き連れた私は——



 多角的且つ電撃的に、リュード・アンドラストのあらゆる死角から強襲乱舞を仕掛けたのです。



∫∫∫∫∫∫



「お顔の傷はもう大丈夫サリ! オリアナさんのお顔が、綺麗なままで嬉しいサリ~~! 」


 世紀の一騎打ちを見守るは白黒令嬢オリアナ

 為すべき事を成した彼女は、ただ静かに主の勝利を待ち続ける。


「ふふっ、ありがとサーリャ。……ミーシャ、勝てるよね? 」


「ぜ~~ったい、大丈夫サリ! なんてったって、パパや他の精霊さん達が着いてるサリ! ねぇ~~ジーンさん! 」


「ふむ、当然であるな。オリアナ嬢も言う程は心配しておらんだろう? ならば信じて待つ事だ。」


「そうね……ええ! ここでミーシャを信じなきゃ、法規隊ディフェンサーへ所属する価値もないわ! 」


 そこに不安など無いとは言えぬ白黒令嬢。

 だが彼女はすでに法規隊ディフェンサーの一員である。

 守られる暴れ馬達を撫で上げながら、ただ……静かに信ずる主の勝利を待ち続けていた。


 彼女達の視界の先で——


 その時上位古代魔導術式ハイ・エンシェント・マギウスさえ操る黒の総大将リュードは息を飲む。

 彼ほどの知見を以ってすれば、いにしえに存在したあらゆる術式を網羅していても不思議ではない所。


 そんな彼の持ち得る魔導知識を以ってしても


 すでに精霊と手を取り合う時点で常軌を逸したそれが、赤き大地ザガディアスに於ける未知の魔導として今……桃色髪の大賢者ミシャリアより解き放たれていたのだ。


「くっ……!? 想像以上に……この突撃は——」


 黒の総大将から完全に死角となるそこより強襲する雷速の君。

 もはやそれを避ける事さえ困難となる突撃を、回避せんとする総大将。


 だが——

 全ての始まりであった。

 そこよりが、桃色髪の大賢者の


水陣風瀑融合エアハイドバースト超圧水流刺突パイルニードルっっ!! 』


「ぬうっ!? 」


地流㷔轟融合アースフレイムバースト大地怒轟灼熱竜マグナリィ・イクスプロージアっっ!! 』


「ぬぅぅがぁぁぁっっ!!? 」


 雷速移動のたび姿を消失させ、無数の残影に紛れさせた実態よりのさらなる融合術式展開。

 遠距離からの攻撃と思えば瞬時にふところを脅かすゼロ距離より――刺突針へと変貌した高圧水流が襲い、火焔が大地の岩石を溶解させマグマとなりて爆ぜる。

 膨大な精霊力エレメンティウムを余す所なく展開するそれは、完全に桃色髪の大賢者の独壇場であった。


 黒の総大将が風に、水に、炎に地の怒りに屠られ……多層魔法障壁さえも削ぎ取られて行く。


 恐るべき手練れさえも圧倒する精霊魔法の襲撃乱舞が、やがて最後の瞬間を迎えた。

 総大将としてもあり得ないほど大きく態勢を崩した刹那——


 この法規隊ディフェンサーに於ける真価を示す戦い最後の大技が……発動したのだ。


「我が身に宿る六大精霊達、今こそ好機だっ! 全てをこの一撃に賭けて……! 」


六大精霊融合シクスリィバースト……大賢者スペシャルナックルスプリガン・ヘキサレイト・バスターーーーーーっっ!!! 』


「うぅおおおおおおおおっっっ!!! 」


 すでに回避も間に合わぬ黒の総大将は、ありったけの魔法力マジェクトロンを前方障壁へと集束させる。

 彼の魔法力それを結集させた障壁は、並大抵の術者では超える事など不可能。


 その……——

 大賢者が六大精霊纏いて放つ雷速の一撃が、文字通り閃光となりてブチ抜いたのだ。


「ぐがっ……!!? 」


 猛撃は黒の総大将を凍える凍気舞う天空から叩き落す。

 響く轟音と爆裂する土煙。

 大地すらえぐるその衝撃は、如何に桃色髪の大賢者が放った一撃が強力かをまざまざと見せ付けていた。


 そして一瞬の静寂。

 それが法規隊ディフェンサー所か、今なお部隊協力者に足止めされる暗黒兵団全体にまで及んでいた。


「……マジか。ミーシャ――やりやがった! 」


「ミシャリアお姉ちゃん、やったの! 」


「あら~~。これはもう、恐ろしい成長としか言い様がおへんなぁ~~。」


「カカカッ! 遂に……遂にこの瞬間が訪れたようじゃの! 」


 鋼鉄纏う死竜を穿ち、主たる少女の戦いへ一切の手を出さず見守った死竜討伐組が驚愕と只ならぬ歓喜を零した。


「ミーシャ……ミーシャ、ミーシャ! あのリュードをぶっ飛ばすなんて!? 」


「凄い感じだわ!? ミーシャさん、もう落ち零れとか言う言葉なんて彼方へ吹き飛んだ感じよっ!? 」


 無念の敗北を喫した殊勝なオーガベンディッタが片膝を付き――

 それを負かした義姉妹たるツインテ騎士ヒュレイカオサレなドワーフペンネロッタが、主の圧勝に抱き合って喜びを顕とする。


「ははっ……凄いや。あの叔父さんをぶっ飛ばすなんて――ミーシャはこんなに凄かったんだ。」


 確信はしていたであろう白黒令嬢。

 だが目の当たりにした現実で、歓喜の余り双眸すら雫で濡らしていた。


 正しく法規隊ディフェンサー暗黒帝国ラブレスの頭を打ちのめした今、彼等の勝利宣言を以って戦いを終えるが筋である。


 ところが――

 敗北は敗北である。

 あるが、黒の総大将が――


「まだ……だ! まだ俺は終われぬ! ルクレツィア姫殿下と、アスタルク卿の想いを……俺は! オレハッッ!! 」


「……っ!? アンドラスト卿、いけません! その御力は理性を以って御さねば――」


 眼帯から瘴気を撒き立ち上がる総大将。

 しかしそれが尋常の勝負の範疇を超え……あらぬ事態を悟った殊勝なオーガが悲痛の叫びを上げた。


「ありゃ……。あれはちとまずいかな。」



 遥か高空――

 機械杖を波乗りする様に現れた、桃色髪の大賢者と変わらぬ体躯の

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る