Act.152 陰る連星太陽下の攻防

 狙う跳弾の弾幕は的確に、私のいる場所を撃ち抜いて来ます。

 それも直撃させるでなく……私がその場に止まれぬ程度に射角をずらして。


 射撃の腕前で言えば、――その師たるリュード・アンドラストの正確無比さ加減は正気の沙汰ではありません。


「ミーシャさんはやらせないサリ! ウィスパさん、ふくごーで障壁を展開するサリ! 」


『ええ、守らねばなりません。我らが愛しき友であり主を……。』


「ありがとう、ウィスパにサーリャ! では精霊種の皆、準備はいいかい!? 精霊共振装填展開を開始する! 」


 二柱の素敵な精霊達に守られながら早急に術式組み上げに移る私。

 今回の装填は今までの魔法力マジェクトロンの制限をかけた状態とは比べるまでもなく、強大且つ広域への展開となるもの。

 さらにはティティ卿以外の……そしてティティ卿に於いてはサイクリアとの繋がり上の負荷を軽減する形の


 想像を絶する負荷も、先に己へしーちゃんとグラサンを装填した時充分な余裕を確認した私はこれを展開する決意を固めたのです。


 どの道個々の戦力は兎も角としても、いかんせん数の劣勢は否めない。

 おまけにだらだら戦っていては、すぐに連星太陽が地平の彼方に沈んでしまう。

 時間的な余裕も含めて、これを展開するは今しかないのです。


 身を包む自身最大級の魔法力マジェクトロン積層型魔量子立体魔法陣ビルティ・マガ・クオント・シェイル・サーキュレイダへと行き渡らせ――


超振動ビブラス小宇宙開放クオスマイクス霊量子力回路接続イスタールゲイト——』


『此の地と彼の地を結びし量子の大海、我が言霊を遥かへと導け!霊なる者達のその手を取りて……我はそれを解き放つ!複列送電精霊共振装填マルティファート・スピリティ・レゾニア・ドライブ七大連装填セブンス・レイト!!』


 七人の仲間へ向けた最強の精霊共振装填を展開したのです。


「さあ私の素敵な仲間達、精霊達と手を取り彼らに見せてあげようじゃないか! 帝国 超法規特殊防衛部隊ロウフルディフェンサーが世界に打って出る真価ってやつをね! 」


 同時に各々へ繋がる精霊通信術式でそれぞれへと策を飛ばす私。

 七つの魔導通信スクリーンに映る皆のしたり顔を見やり……ようやく実感する事となったのです。



 これこそが私達の戦い方の真骨頂であるのだと。



∫∫∫∫∫∫



 正統魔道アグネス王国領海 孤島を陰る連星太陽が照らし出す。

 徐々に赤みが差す日差しは桃色髪の賢者ミシャリアが危惧した日暮れが迫りつつあった。


 その孤島を今、まばゆき魔道の帯が七条……一騎当千をうたう冒険者へと降り注ぎ——

 量子情報体となった精霊達が導かれた。


 賢者少女が放った、彼女史上 最強最大の精霊共振装填魔法術式である。


『邪魔するぞ、テンパロット殿! 』


「ああ、待ってたぜ! 」


『ヒュレイカはん、いてもうたれ! 』


「おっしゃーー! しーちゃん装填で百人力だーーっ! 」


 狂犬テンパロット風の巨躯ジーンが、そしてツインテ騎士ヒュレイカ残念精霊シフィエールが飛ぶ。


『我が主、存分に俺の力を活かしてくれよ!?ファッキン! 』


「言わずもがなね! でも抑えていくわ……(汗)。」


『ふふふ、不束者ふつつかものですが……ア――アタイを使えやゴルァァーー!!? 』


「ディネさん、緊張でセリフがおかしいの(汗)。」


 白黒令嬢オリアナ火蜥蜴親父サラディンフワフワ神官フレード輩な水霊ディネが寄り添う。

 そして――


『なんだか見た事もない、物凄い魔導アルね!? けれどこれなら、チンでも皆様のお役に立てるアル! 』


「お初な装填は上々な感じね!?ノマさん! では、同じ地に居を構える者同志で頑張る感じだわ!」


『この様な形でリド様と共闘出来るとは……感慨深いですキ! 』


「……じゃの! つくづく良い出会いじゃ、この法規隊ディフェンサーと言う部隊は! 」


『なるほど、これならば。ワレがお嬢の精神を浸蝕する事なくお力添えが叶う。ならば存分に暴れられよ! 』


「ええ、サイはんとの新しい共闘の形……お見せしたりますえっ! 」


 オサレなドワーフペンネロッタ泣き上戸地霊ノマが、英雄妖精リド蝙蝠精霊シェンが――抜刀妖精ティティには狂気の精霊サイクリアが纏われた。


 法規隊ディフェンサーの冒険の最中でも、七柱精霊の同時共振装填など前代未聞。

 それを実現させたのは、言うに及ばず桃色髪の賢者が秘めたる底知れぬ魔法力マジェクトロンの恩恵。

 しかし――それは彼女がこれまで己の未熟を克服せんがために、研鑽の日々に明け暮れた確たる証である。


 そんな赤き大地ザガディアスでも史上初となる快挙へ、愉悦の如きしたり顔を浮かべた者がいた。


「この世界に於いて、そんな離れ業を実現させた者は俺の記憶でも見当たらん! 我が主、アスタルク卿でさえもだ! 面白い――」


「それでこそ、俺が心血注いで育て上げた、誇り高き千の豪傑達の相手も叶うと言うもの! 」


 暗黒兵団とも言える亜人種デミヒュミア達を育て上げた死霊の支配者ネクロス・マイスター、リュード・アンドラストである。


 それもただ戦力としてではない。

 そもそも文化を持ちえぬ彼らへ、語学、礼節、武術――

 さらには人格者たる生活様式さえも行き渡らせた彼にとって、世界に亜人種デミヒュミアと謗られた者達は、紛う事なく暗黒帝国ラブレスが守り育むべき崇高なる民である。


 故に死霊の支配者リュードは望んでいた。

 世界に蔓延はびこ……差別と偏見の中、生命種としてさえ見られる事叶わなかった民が真に生命種としての道を歩むための、越え行く宿敵の到来を。

 武門に於いて尋常なる勝負さえまかり通る、心も力も研鑽によって磨き上げられた真の強者の到来を。


 世界の未来さえも背負い立つ事の出来る、――


「我がラブレスの民たる者達よ! これぞ我らの悲願……眼前で精霊と手を取り襲い来るは、長年待ち侘びた真の強者だっ! 存分に各々の力を発揮し圧倒せよ! だが――」


ラブレスには必要ない! 万一その様な無粋を働いた者には、その背徳に相応しい弾丸を背中から叩き込む! 心せよっ!! 」


 背徳には弾丸の一撃を。

 そううそぶく彼は、今戦場で舞う豪傑にそんな不埒な輩がいる事など考えてはいない。

 この正統魔導アグネス王国領海 孤島へ上陸したのは、彼を信望する一騎当千の家族達であるから。


「「「「おおおおおおおおおーーーーーーっっ!!」」」」


 そんな事は百も承知と返された雄叫びは、紛う事なき精強なる亜人種デミヒュミア兵士らの雄叫び。

 彼らの絆もまた法規隊ディフェンサーに負けずに強固であると、一糸乱れぬそれが感じさせる。


 もはや兵の数など問題ではない。

 抱くこころざしが折れるかどうかが勝敗の決め手となっていた。


 最中……孤島の巨大な岩壁が生む物陰にて。

 その戦いの一部始終を見届ける影が、視界に映る尋常の戦いにいてもたってもいられなくなっていた。


「おい……奴らが相手取るのは妖魔異獣の軍勢じゃなかったのかよ。何だあの、完全統制に置かれた国家の精強なる兵団は。」


「ええ……(汗)。ボクもこれは流石に想定していませんでしたが——ふふっ。何やらあなた方の状況も想定の遥か外ですね。」


「分かるか。正直俺の背後でウズウズしてやがる野郎共が、この戦いに参戦したい感をこれでもかと叩き付けて来てる。もう俺でも、こんな奴らを抑えるのは限界なんだが? 」


 物陰に潜むは、法規隊ディフェンサーの支援と別ルートで孤島へ上陸していた闇の冒険者ブラッドシェイド

 だがしかし……闇の頭目ルヴィアスの言葉が表す通りに、彼らの闘争本能が限界まで高まっていた。


 要因となったのは戦いに赴いた者達の気概。

 法規隊ディフェンサーに止まらず、敵対する暗黒帝国ラブレスの先遣隊たる兵団までもが義を重んじる善戦を見せる姿。

 生命種に精霊種……さらにそこから遠き亜人種デミヒュミアまでもが入り乱れる、果たし合いさながらの戦場に人狼ウェアウルフ達までもが昂ぶりに打ち震えていた。


 大気を振るわす人狼ウェアウルフ集団の猛りを目の当たりにしたのは、彼らの孤島上陸を手助けしたエルデインの牙カミュ

 そこへ事後承諾が前提の案を提示した。


「ではこうしましょう。あなた達のウチ一部が……ルヴィアスがその収拾を図るため出陣した、と。何――ボクもここまで足を向けて、このまま傍観を決め込むのは趣味ではないので。」


「てめぇ……(汗)。要は自分も戦いたいって事だろう。 素直ではない所は、あの賢者ミシャリアに似てるんじゃないか? まあいい――」


 嘆息のままエルデインの牙を見やる闇の頭目は、そのまま視線を人狼ウェアウルフの家族へと向け――


「おっしゃーーーっ! かしらの許可が出た! お前ら数名は俺に着いて来やがれぃ! 」


「「「おおおーーーっっ!! 」」


「ガルキア、俺が参陣した時点で使! 言っておくがこの戦い、奴らの矜持に合わせろよ!? 敵に致命的な重傷者を出さねぇ様に立ち回れ! 」



 すでにはち切れんばかりの闘志をたぎらせたドレッド人狼ガルキアを皮切りに、闇の冒険者ブラッドシェイド開始した。

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