Act.144 希望の元へ集うは……

 法規隊ディフェンサー一行にお宿での養生を即した術師会トップレボリアスと、同じ方向へ足を向けた美貌の卿フェザリナ

 その眼前には、すでに正統魔導アグネス王国が誇る守りの要が各代表を先頭に控える。


 すでにお縄となった術師会支局にかかわる者も、不逞の導師モンテスタ以外は手続きもそこそこに王国所掌の監獄へと連行された後であった。


「すでに、モンテスタ。」


「……おえ? 何か言ったかの~~? よう聞こえんでなぁ~~……」


 術師会トップが連行される首謀者たる男へ言葉を投げるが——

 昼先まで若々しくイケメンとも言える風貌をしていたはずの導師が……


 術師会トップの声も所々しか聞き取れぬのか、垂れたまぶたの下から視線を送るも疑問符しか浮かべられない醜態を曝け出す。


、いか程の精霊を消滅させたかを考えると……正直いきどおりしか浮かびませんね。ひと種の導師様? 」


 続いて、憤怒をまぶすも穏やかに努めるは美貌の卿。

 不逞の導師はあの英雄妖精リド抜刀妖精ティティが先々代たる輝皇帝アーレスといた時代には、すでに存在していたひと種である。

 詰まる所——

 精霊の力を吸い上げる事でひと種ではあり得ぬ年齢と若さを保っていたと言う、卑劣に卑劣を塗り重ねる所業を繰り返していたのだ。


 力なく引っ立てられる男は、余命を獄中で過ごせば冥府へ誘われるは時間の問題でもあり——その姿には王国が誇る二人にさえも哀れみを抱かせる状況であった。


 程なく……事の終わりを見届けた術師会トップと美貌の卿は向き直る。

 過去ではなく未来——

 今やこの正統魔導アグネス王国どころか、赤き大地ザガディアスへ新時代の嵐を巻き起こさんとする希望の志士達に送る支援のために。


 その彼らの世界に望まれる救世の部隊としての道のり――越えるべき試練へ足を踏み入れんとする手助けをせんがために……眼前の者達へと声を上げた。


「各員よくお聞きなさい! 皆も知る所となった彼女……術師会本局 後継の座に輝いたミシャリア様擁する超法規特殊防衛隊ロウフルディフェンサーが、越えるべき最大の試練を目前に控えています! 彼らはこのアグネスはおろか、アーレスを初めとしたこの世界の明日にとってなくてはならない存在へと成長しつつあり――」


「なれば我ら、アグネスが誇る警備隊が取るべき行動はただ一つ! 彼らに降りかかる火の粉を払う事こそが使命! その火の粉は即ち……あの暗黒大陸から侵攻してくるラブレス帝国の部隊です! 」


 すでに闇夜が辺りを包む中、掲げられた無数の松明の中で銀の御髪が舞い踊る。

 かの美貌の卿が、今までにないほどに凛々しく双眸をたぎらせた。

 それは羨望送りし新進気鋭を信望するがゆえ。

 希望を宿せし大賢者へと至らんとする……ミシャリア・クロードリアとその仲間達の未来を願うゆえである。


 その言葉へ聞き入る騎士隊に法術隊へ紛れるはアウタークで知られる騎士、ディクター・バラン。

 が――彼をしても羨望を宿さずにはいられない法規隊ディフェンサー

 不逞の導師の悪事を暴きだし、精霊種とさえも手を取った桃色髪の賢者ミシャリアは……エルデインが誇る一級の魔導師とも渡り合った。


 宿す羨望はすでに、崇拝の域に達していた。


「本国警備のため全てを動員する事は叶いませんが、フェニーチェ・ハイドランダー女王陛下より可能な限りミシャリア様への支援をとの勅命も受けております。さすれば我らも早急に準備を整えたい所。」


「まずは騎士隊百名と法術隊二十名を選抜します。法規隊ディフェンサーを支援したい者を優先的に、彼らを守るための遠征師団を結成――しかしあのネクロスマイスターの出方を見た上での作戦行動となるでしょう。」


 そこまでを言い終えた美貌の卿は視線で術師会トップへ意見を伺い、異存なしとの首肯を受け取った卿はそのまま遠征上陸師団の打ち合わせと事を推し進めて行く。



 あらかたを確認した術師会トップはきびすを返すと、そのまま

 付き従うエルデインの牙を引き連れて――



∫∫∫∫∫∫



 法規隊ディフェンサー一行が巻き起こした奇跡の捕り物騒動。

 それを影で支えた者達――ブラッドシェイド頭目のルヴィアスは、大きく息を吐いて事の顛末を見守っていた。


とは思っていたが……俺達が撒くのに梃子摺てこずったあの魔導師――それとさえも渡り合うとはな。改めて……敵に回さないで正解だったと言えるな。」


「アニキ……ヤベェっすよ、あいつら。強すぎじゃねぇっすか(汗)。」


 狂犬テンパロットの手回しで不逞の導師モンテスタ一派をかく乱させるゲリラ戦をこなした彼ら。

 味方として協定を結んだ現状に、ドレッド人狼ガルキアと共に状況を一望出来る民家の影で胸を撫で下ろしていた。


 すでに闇夜に包まれる正統魔導アグネス王国首都が、いつになく静寂に包まれる。

 それはようやく訪れた一時の安寧に安堵した、民の心情を象徴するかの静寂である。


「お前ら、俺達の出番は仕舞いだ。 これでようやく大手を振って街を――ん? 」


 事の集束を見たと闇の頭目ルヴィアスが従えた人狼達へ指示を飛ばす中……感じた気配の方へと向き直る。

 そこには頭目も想像していない組み合わせの二人が訪れていた。


「協定上のゲリラ戦、すまなかったな。俺達から――は無理なもんで、こちらさんへブラッドシェイドへの報酬を依頼した。」


「彼の言葉通り。此度はボクが協力する術師会 支局の目に余る蛮行で、あなた方からの術師会に対する信用がガタ落ちになりました。故に……レイモンド卿の代理として、法規隊ディフェンサーへの支援に対する報酬を届けに上がった次第です。」


「エルデインの魔導師……確かカミュとか言ったな。まあ事の発端はあのクソ導師一派だ。それをわざわざとして提示すると言うなら、その件も報酬でチャラにしたい所。が――」


 現れたのは——

 法規隊ディフェンサーでも油断ならない思考を持つ狂犬に、これまた油断ならぬ異国の名高き協力者……エルデインの牙カミュである。


 そして闇の頭目は理解する。

 その組み合わせでの来訪が何故必要であるかを。


「大方予想は出来るんだが……俺もあのクソ導師の捕物の後をこの目で見届けた。あの武器商人ヴェゾロッサ——出来ると思っていたのは気のせいじゃなかったからな。」


「狂犬よ……つまりはそう言う事だろう? 」


 宵闇が包む建物の影。

 仄かに揺らぐ灯りに照らされる頭目は嘆息も、すでに結んだ協定延長を予感し言葉を放つ。


 すでに事は伝達済みであろう——視線でエルデインの牙へ、「合格か? 」と送り首肯を返された狂犬があらましを語る。


「ルーヴ達には悪いが、その通り。協定延長を前提として、今度はちゃんとした依頼を送らせてくれ。保険ではあるが……——」


「だからお前さん達に、いざという時のための備えとして動いて貰いたい。可能か? 」


「ふん……お断りと言いたい所だが——正直ガルキアを救出出来たのは、奇跡とも思ってる。その奇跡的救出を生んだのが法規隊お前達ならば、俺もその依頼を受けるのはやぶさかじゃない。」


 自分達が絡む事件での協定は、すでに解消するに十分な成果を上げた闇の冒険者ブラッドシェイド

 だがかつて子爵家を継ぐ立場であった闇の頭目は、家族救出の助けとなった冒険者—— 一時は敵対していたはずの法規隊ディフェンサー直々の依頼を無下には出来なかった。


 それを告げに来た狂犬との共感がさらに後押しし、了承の視線を返納したのだ。


 そんな流れさえ予見していたエルデインの牙は控えていた荷車を引き寄せ、あらかじめ上乗せしていた報酬分を含め……頭目へ――手付けには過ぎたる大量の袋入りjmzジェムズを提示した。


「交渉が成った様で何より。こちらも無駄にならずに済みました。ではこちらを——」


「おいおい(汗)……「こちらを」じゃねぇぞ? 今までの働きを踏まえたとしても、——」


「そりゃ明らさまに、奴らとの交戦がどれ程ヤバイかを宣言している様なものだろう。」


「ええ、正しく。さらに今回の手付け分に付きましては、であります故……との指示を受けております。」


 事もなげにしたり顔を浮かべたエルデインの牙へ嘆息し、狂犬へとジト目を送る頭目は「ハメやがったな」との悪態を混ぜ込んだ。


 肩をすくめた狂犬へさらなる嘆息を零すも、どこか一蓮托生を感じざるをえなかった闇の頭目は——


「奴が後ろで厄介なのとつるんでるのは、俺でも想定は出来た。まあこうなるのは自然の流れだろう。」


「それで俺達は、どこで……どういった手順で動けば良いんだ? 」


 諦めた様に依頼を飲み、狂犬へと今後を問うて来た。



 視線を交わし首肯した狂犬とエルデインの牙は、対ラブレス帝国への備えとしてのあらましを伝えて行く。

 桃色髪の賢者の試練への助けを、少しでもかき集めるために。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る