Act.145 挑む覚悟、それぞれの拠り所

 連星太陽が騒動から明けた朝を照らし出します。

 そんな朝日に目を瞬かせる私は昨夜、精霊達とのやり取りを終えた所。


 小鳥のさえずりに耳を傾けながら豪勢なお宿のテラスへと足を向けます。


「いるかい? しーちゃんにウィスパ。」


 ぐぅと伸びをした後呼ぶのはも板に付いた精霊の友人しーちゃんと……やり取りの最中に思い付いた愛称を贈ったウィル・オ・ウィスプ。

 すると待ち侘びていたのだろう二柱の精霊が顕現します。


「ふぁ~~。まだ眠いっちゅーねん。ウチもいろいろあったさかい――」


『ふふ……。シフィエールさんは精霊なのに、眠気がマシマシ? 』


「……今私は、君がきっと待ち侘びていたのだろうと? 見事に期待を裏切ってくれたね。」


「いやミーシャはん(汗)。その、ペネはんにもかましたモノローグからのボケはやめてんか。対処でけへんわ。」


 待ち侘びていたと思っていた彼女の体たらくに憤慨する私。

 それを視界に捉え、クスクスと笑いに浸るウィスパ。


 思考の端にくすぶる、暗黒大陸からの大事を掻き消してくれる風景がそこにあったのです。


 そこで途切れる会話。

 会話を繋ぐ様に私達の間を通り抜けるそよ風。

 私と精霊とのやり取りに興味をもった数多の意志なき者達が、周囲で舞い躍っている様な錯覚さえ覚えます。


 そして遠く蒼く澄む大空を見上げて語ります。

 二柱の一番傍にいてくれた精霊達に。


「しーちゃん、そしてウィスパ。私達は間もなく、あのラブレスが放つ部隊と一戦交えなければならない訳だけど……夜に精霊の皆へ話した通り――きっと最後は私自身が戦いの鍵となる。」


 視線を同じ方向へ向けた素敵な友人は、言葉を挟まず耳を傾けてくれます。


「あのリュードと決着を付けるためには、。そうなれば君達の助けこそが生命線だ。その時は精霊達皆に頼りっきりになると思う。」


 なんとなしに贈られる素敵な労りは、心の内を曝け出すには充分過ぎて――

 そこまでを語った私へ視線と供に言葉で……そして精神感応で想いが差し伸べられたのです。


「水臭いで?ミーシャはん。ウチらの仲は、そない浅いもんやないっちゅーねん。せやろ?ウィスパはん。」


『そう。少し時間差はある――けどシフィエールさんと私……ミシャリア様ととても長い仲。それは誰にも負けない。だから――』


「ああ、ありがとう。しーちゃんにウィスパ。」


 僅かなやり取り。

 それが心地よく過ぎ去った頃――


「きょうは随分お早い目覚めだな。大丈夫か? 」


 多分に漏れず、早朝の警戒見回りから帰ったテンパロットと鉢合わせます。


「君こそ、充分な休息を取った上での見回りだろうね。そちらの方が心配だよ。」


「はっ……抜かせ。俺を誰だと思ってやがる。」


切り裂きストーカー? 」


「くっそ、ミーシャにそれ言われると怒れねぇっ! 」


 男性陣の話では、何やら今回の事に合わせてまた動いてくれているこのツンツン頭さん。

 この影であらゆる事態への支えとなる力強き護衛には、もう足を向けて寝られない所だ。


 借金しゃっきんグの点への制裁である魔法力マジェクトロン装填済みの一撃は


 怒りの矛先を私に向ける訳にはいかない彼が、苦悶の表情でもんどり打つ姿へ嘆息の中に感謝を塗し――

 少しだけ真顔を覗かせて、皆へ送るべき言葉の伝達を依頼します。


「テンパロット、皆に伝えて欲しいんだけど。私はあのリュード率いるラブレスの部隊は、すぐには動かないと見ているんだが――」


「確実に待ち構えているであろう奴らの下へ馳せ参じる前に、皆――心残りがない様にそれぞれの大事を済ませておいて欲しいんだ。」


「縁起でもねぇ……。ま、むしろそれはガチでヤバイ戦いだから覚悟しろって意味にも取れるわな。ああ、任された。」


 すると私の意図を素早く汲む大人な彼はヒラヒラ手を泳がせるときびすを返し……しーちゃんにウィスパと視線を交わした私も、朝食前に自身の心身にかかわる場所へと赴きます。



 私が賜った奇跡の座……アグネス宮廷術師会 本局を纏めるお師様の元へと——



∫∫∫∫∫∫



 時は僅かにさかのぼり、法規隊ディフェンサーがお宿で就寝を迎える頃。

 就寝は不要であるとも精霊力エレエメンティウムの充填は必要な精霊種組が、霊量子体イスタール・バディのまま高次元の意志伝達にてやり取りする。


 それは桃色髪の賢者ミシャリアからの依頼に対する内容を多分に含んでいた。


『しかしミーシャはん、まだ冒険者としては中堅程度かと思うとったら……術師会内での扱いが本局の代表クラスにまで昇格されとるやなんて。嬉しゅうて、迂闊にも涙ぐんでしもたわ。』


 会話を仕切るのが定番となり始めた残念精霊シフィエール

 自分にとっての友人たる桃色髪の賢者の大出世を、己が事の様に祝福していた。


『ふむ。それがしもお嬢に付き幾星霜――ひと種との付き合い方に新たな局面を垣間見た矢先だ。術師会本局 代表後継と言う出世以上に、感嘆を覚えたモノだ。』


 残念精霊とはさして時を置かず一行の仲間となった巨躯の精霊ジーンも、小さくも雄々しき主に羨望を顕とする。


 その意見には同意とし、皆が首肯し合う中本題へと移行する精霊種組。

 重要点は正に、今控えている戦いに必要となる賢者少女の戦術面に於ける課題であった。


『その話は兎も角だ。賢者ミーシャの今後の戦い――先のカミュとやらがふっかけた腕試しで、一つの形を見た気がしたぜ?ファッキン。』


『そうさね。今までひと種とのかかわりが無かったアタイが言うのもなんだけど、アタイら精霊の闘い方に決まった形なんて無いからね。あのお嬢さんの機転は目から鱗ってとこさ。』


『あーしも最初ので、しーちゃんさんとオリアナさんのに入ったサリ。凄く新鮮だったサリ。』


 切り出す火蜥蜴親父サラディンに続けるは輩な水霊ディネ

 彼女の決まった形が無いとの下りは、そもそも精霊召喚と言う術式展開はあくまでひと種が強引に精霊契約を結んだ上で力を引き出す形態である点に関係して来る。

 常識となるそれに対する桃色髪の賢者が用いた術式では、精霊への束縛が無く……且つそれらが自由に戦いを選べるスタイル。


 言い換えれば、未だ赤き大地ザガディアスに於ける魔導術としての正式な確立がなされていない分使


 焔揺らす少女サリュアナの思考もしかりであり、桃色髪の賢者が精霊へ嘆願したのは複数の精霊共振を前提とした戦術展開であったのだ。


『ではあれですキ? 今後は我らも、装填される事前提で動く必要があると言う事ですキ? 』


『キヒヒ。そう考えるのが妥当であろう。我は当然ティティのお嬢との関係こそをと、賢者ミーシャに念押しされたのだがな。』


『あの精霊共振装填スピリティ・レゾニア・ドライブ……だったアルか。あれはチンも見た事が無い術アルね。モンテスタ導師に呪い付けされて、外出すらままならなかった身アルが――度肝を抜かれたアル。』


 一行では仲間になった日も浅い蝙蝠精霊シェン泣き上戸精霊ノーム……次いで抜刀妖精ティティへと寄り添う狂気の精霊サイクリアも議論に混じる。


 そこへ――


『私も、賢者ミシャリア様の戦いを間近で拝見しました。本当に今まで見た事も無い……けれど、何とあの方らしい戦術かと嬉しくなりました。なれば――』


 精霊種でも一番新参である儚き精霊ウィル・オ・ウィスプが想いを吐露し、一同が声をつぐみ首肯した。

 彼女が言わんとするは、皆が思考した想いそのものであったから。


 そんな中、最早精霊組の仕切り役が板に付く残念精霊が取り纏める。

 今後に向けた精霊としてのあり方を。


『新たに仲間になったノマはんにウィスパはん……やったな? 二人を加えた事で、ミーシャはんは――』


『言うに及ばず、あのモンテスタ言うけったいな輩とはウチらの置かれる状況は全く異なる。ウチらはひと種と手を取り合う形――ミーシャはんと供にある言う事を、努々ゆめゆめ忘れなはんなや?皆様方。』


 音頭をとった残念精霊。

 そこへ新参な光と地の精霊へ……まさにそれらへの


 であるが――


『――って何や? ウチの顔に何かついてんのか?皆はん。』


『『『『ああ、どこでボケるのかと思って。』』』』


へんわ!? つかウチは! そしてハモるなやっ! 』



 大事に備えた重々しき時間の中にあっても、彼女の存在はささやかな心の癒しだと――

 精霊種組の脳裏に刻まれた瞬間であった。

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