Act.130 マネーロンダリング
「こいつぁ……クソ——あのヤロウ。マジでミーシャをハメてやがったな! 」
桃色髪の賢者を
名義を賢者少女に当てた魔導台帳へ……明らかに本人の文字とは異なるサインが施されていたからだ。
「でしょ? あたしもおかしいと思ったのよ。少なくともその魔導台帳の更新日付は最も新しい物で最近。けど……そもそも私達の旅の間で発生する経費諸々は、
「帝国との経費やり取りはミーシャが魔導機械通信でやり取りしてるし――そんな台帳がある事態不自然な上……あたし達が旅に出ている時期に、そこに記載されたお金が発生することなんてありえないわ。」
「間違いねぇな。これはマネーロンダリングだ。」
マネーロンダリング——
さらにその偽装には実在しない存在や、実在する者の名を本人の許可なく用いる事で自分達は無関係を装うと言う卑劣極まりない手口である。
詰まる所……桃色髪の賢者は、知らずの内にその名と存在を利用されたと言う訳であった。
「これはある街銀行店から入手した情報じゃ。流石にワシも、術師会を名乗る者共がこの様な卑劣な手口に及んでおるとは……目を疑ったぞ。」
「ペネが出店で稼いだお金も、危うくジュエル価値詐欺で大損する所だった感じよ? 」
その中にあって……珍しい程に神妙な面持ちな
未だその事実で放心する姿へ悲痛を浮かべながらも、騎士の口からそれは放たれる。
「あたし達が、イロイロ借金を作ってる所にこんな事態……。そこへ止めを入れる様な話をするのは、正直胸が痛い所だけど——」
「これはミーシャの耳に、絶対入れとかなけりゃと思ったから言うわ……。」
「ミーシャが知って置くべき。」
その言葉は全てを語るまでもなく、
それでも——言葉として、それは語られた。
「この情報元は、あたしの直感が導いた街銀行の店員。その直感って言うのは、それこそ最近当たり前になって来た、精霊達との生活があって初めて得た物だけど——」
「皮肉な事に、それはただの気のせいなんかじゃなかった。情報提供に踏み切ってくれた店員さんは……そのお店に呪い付けされた精霊。それもディネさんの様に
ツインテ騎士の放つ言葉が、桃色髪の賢者の放心した心を貫いた。
双眸を見開いた少女は…… 一行でも分かるほどに感情が移り変わって行く。
——大切な者を踏み躙られた様な、止めどない憤怒宿す心情へと——
「ありがとう、ヒュレイカにフレード君……そしてペネにリド卿。これで覚悟が決まったよ。」
憤怒に塗れた桃色髪の賢者は双眸に燃える闘志を
主たる少女の変貌を確と見届けた狂犬も、絶句する監視組と悲痛を浮かべた調査組を見渡し告げた。
これより
「皆いいか……。これまであのモンテスタ導師は、ミーシャが嫌うミーシャの敵と言う体だったかも知れないが……もはやそんな括りじゃ収まらねぇ——」
「奴は
言い換えれば、彼の発した言葉はかの
彼は彼の主たる者への忠義のままに動いているから。
皇子が……力無き弱者を貶める数多の不貞の輩に対し、常に心を痛め続けている事を知っているから。
それを知り、聞き及んだ一行は首肯した。
一致団結した
そして宿す決意のまま、さらなる裏取りを進めるための鋭気を養うべく……
∫∫∫∫∫∫
その彼女が講じた策のため、術師会の手が及ばぬ首都沿岸一帯で奔走する者。
姿隠しを用い……
そんな彼らは一先ずの成果報告と、人気無き場所へ集合……実体化を経て集まっていた。
「聞いてんか、ディネはん! ウチらの大切な賢者様の協力を取り付けようとしたらやな——「そんな怪しい口調の精霊を信用は出来ない。」って……「ほっとけや!」て思たわ!」
「あんた……(汗)。自ら進んで説得に
実の所——
策の起点として桃色髪の賢者の信頼を一身に受けた
〈アカツキロウ〉においては国家の主言語であるのあだが。
「サリー! あーしの方は順調に協力を取り付けて来たサリーー! 」
「
「ファッキンっ!? 精霊にまでその名で呼ばれる筋合いはねぇぞっ!? つか——どいつもこいつも、このサーリャがカッコイイと賛美したサングラスの価値を分かっちゃいねぇ! 」
「どいつもこいつもはアタイのセリフさね。残念とグラサン二人して交渉断裂とか、一体あんた達は何モンなんだい? 」
「「精霊やっ!? 」」
同じく交渉に、何を思ったか……愛娘もお気に入りのサングラスを口実にした
結果――奇しくも残念精霊の二の舞となる。
そんな想像以上に難義する賢者少女からの依頼に、本質的な所の詳細が掴めぬ
「キーキキ、キキー。キキー? 」
「なんやなんや? ふむふむ……「こんな広域に渡って、精霊への協力を得るのにどんな意味が? 」とな。うーむ、それはなぁ——」
「残念! 今はまだ秘密や! ミーシャはんの起死回生の一手言う以外は、まだ語れんなぁ~~!」
「残念精霊だけに、残念だなファッキン。」
「アンさんに突っ込まれるとは思わんかったわっ!? そして残念言うなやっ! 」
それは紛うこと無き精霊達の会話である。
だがしかし……
良くも悪くも、それが
そんな彼らへ依頼を振った桃色髪の賢者。
精霊達でさえ疑問を浮かべるその策の全容は、まさに荒唐無稽—— 一つ一つの行動に意味を見出す方が困難と言えた。
そう……一つ一つを理解するはたとえ困難と言えど、それは疑いの余地なく賢者少女の描く壮大な策略である。
決してチート精霊使いを称する
未だ当事者と残念精霊だけが理解するその策略が、静かに王国首都 ハイゲンベルグを包んで行く。
「さあ、皆……もう一踏ん張りやでっ!? ミーシャはんの言うには、これは時間との勝負——そこで現状のウチらに出来る事は……少しでも多くの精霊を味方に付ける事や! 」
「来るべき時が来れば、ウチらの大切な賢者様の指示で全てが動く——それまでが正念場やでっ! 」
沿岸部の人気無き崖上で、集合した精霊種組へ号令を飛ばすは残念精霊。
いつもの弄り愛の渦中ではあるが……その表情は活き活きと輝いていた。
これより僅か数日後——
桃色髪の賢者がチート精霊使いを相手に放つ、前代未聞……赤き大地でも歴史にすら存在せぬ究極の精霊術が——
共に在らんとする精霊種の仲間の手で、静かに、
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