Act.129 疑惑の街銀行店
裏取り調査組一行は
狂犬の認識疎外の様に直接的に役立つ事は稀であるが、ツインテ騎士の直感で賢者少女は幾度も窮地を乗り越えた実績を持つ。
それを聞き及んだ裏取り調査組一行は、多くを語る事無くその直感に頼る事とした。
彼女の直感が……主の危機に関しては抜群の鋭さを持つと信じて。
「いらっしゃいアル~~。当銀行へようこそアル。お客様、ご用件は何アルか?」
外観では確かに
しかし扉を
が――その挨拶に違和感を感じたのは
それは商いで日々の身銭を稼ぎ出して来た、熟練の
「あの~~、少々お金を預けたい感じなのだけど。このジュエルを鑑定、お願いできる感じ? 」
「アイヤー、それはまた立派なジュエルアルね。暫しお待ちを――」
さらにその切手を銀行施設に預けると言うシステムが構築されてからは、店舗で直接そのジュエルを鑑定――換金が可能と判断された時点で正式に預金が可能となるのだ。
さらに世界共通の魔導機械通信技術が、設備整備の整った国や土地柄を限定するも情報網として張り巡らされる。
そんなまだまだ発展途上の金融システムではそれが関の山であるも、そのシステムにより地方でのジュエル単価のバラつき減少と供に……その価値を偽るなどの詐欺被害が減少を見たと言う事実は多いに意味を持っていた。
しかしそこには発展途上故の落とし穴も同時に存在する。
銀行店そのものの信用性――詰まる所、店舗の信用問題である。
酷い場合は不逞の輩が関与……またはそれらに直接運営されると言うリスクが、切っても切り離せぬ世界規模の問題でもあった。
オサレなドワーフが入店した際、ツインテ騎士を初め――店舗にいる者が警戒する恐れのある
英雄妖精をひと目見て元
直感冴え渡る彼女は、店舗近辺へ微かに精霊の気配を感じ取っていた。
通常の精霊反応であれば桃色髪の賢者辺りしか感じ取れぬ所――彼女も精霊との長い付き合いが影響し、
「時にお嬢さん、こちらへいくら入金のご予定アルか? 」
「そうね、今日の稼ぎは邪魔が入ってイマイチだった感じ――それでも6
「アイヤー……申し訳ないあるね。今このジュエルを鑑定した所、相応の価値がない様に感じたアルね。そうなると――」
「このジュエル数では6
淡々と鑑定作業を
手際としては申し分ない。
だが、オサレなドワーフは見抜いていた。
眼前の、小柄で……頭髪を天頂でお椀の様に切り揃えた特徴ある口調の店員。
快活な挨拶から一転――鋭い観察眼にてジュエルを鑑定した男性店員は……彼女からすれば一級の鑑定能力を有する職人であった。
それが……明らかにジュエルの価値を見誤った様な査定額を弾き出した事にこそ、只ならぬ不穏の影を見抜いたのだ。
「待つ感じよ? こちとら、自分で言うのはあまり好きではないのだけど……あのケンゴロウ・リバンダと言うドワーフ族でも目利きに長けたパパを持ってる感じ。」
「そのパパに誓って断言するわ。あなた……その鑑定に嘘を混ぜ込んだ感じね? 」
「んなっ……ななな、何を言ってるアルか!?
「あらそう? でもあなた……嘘の鑑定をする時、とても悲しげな眼をしていた感じよ? あなたはきっと嘘の鑑定をする方ではなく――嘘の鑑定をさせられている方な感じがするわ。」
「――お客、さん……。」
オサレなドワーフの言葉は、鋭く男性店員の心へと突き刺さる。
彼女の言葉は彼の罪を責めた訳ではない――むしろ彼のやんごとなき事情へと、探りをいれる方向の口ぶりであったから。
それを聞くや、余所余所しさが顕となる店員の男。
そこには戸惑いと……救いを求める様な悲痛が滲んでいた。
導かれた状況が、ツインテ騎士に降りた直感の差し示す物と悟った裏取り調査組。
オサレなドワーフのアイコンタクトで、事を荒げぬ様に店外で様子を覗っていた残るメンバーも入店する。
「店員殿よ、少しワシらと話そうではないか。お主の身に危険が及ぶ様な真似はせんと補償する故、心を開いては見んか? 」
「ア、アイヤーッ!? こ、こここ……これはあの
「
突如現れた陰に飛び上がる程の驚愕を覚えた銀行店員。
そして後、英雄妖精の素性を知る素振りで平に
すでにそれだけでも、銀行店員の男性に目星を付けるは容易い裏取り調査組であった。
∫∫∫∫∫∫
「あちらは情報収集、上手く行っているだろうか。心配だね……。」
「リドのジィさんが着いてんだ。その心配も徒労に終わるぜ?ミーシャ。」
「あらあら……ウチのダンナは皆にしっかり頼られとるんおすな~~。嫁としては嬉しいわ~~。」
「はぁ……ティーにゃんそれ、
廃屋に腰を落ち着けるとは言ったものの、何も無いそこで出来る事は限られます。
暫しの時間を利用し……テンパロットとティティ卿は両愛刀の入念な手入れ。
オリアナも愛銃——双銃に加え、少し出番のない
私はこんな所持品を極度に制限した依頼遂行時のお供と、携帯用の小さな魔導書籍を読み漁っている所——
しかし積もり積もる不安の中、裏取り調査組の事を案じていました。
さらには現状最も気掛かりとなっていたのは……今私達から大きく距離を置いている精霊達の事です。
「まあオジジがいれば確かに……。となると、気掛かりなのはしーちゃんを主軸にした起死回生の秘策遂行組だね。」
「そいつぁ……まぁ、何とも言えねぇな。」
リド卿が同行する調査組はテンパロットの言う通りなのですが——
やはりチート精霊使いを相手取る関係上、その餌食になる恐れのある精霊組には兎に角奴らの強制契約圏外へ遠ざけた上で支援に努めて貰っている所。
信頼に足る仲間だからこそ、別行動を取る
それを悟る監視組の皆も多くを語らず側に寄り添ってくれています。
少なからず……ユラユラと不安定に揺らいでいた私の心が——
直後に合流する仲間が手に入れた、絶望的なとある事実で途方に暮れてしまう事となるのです。
「ミシャリア卿、裏取り調査組が到着した模様です。」
「……!? 良かった! 皆は無事だね!? リドジィさんもそうだけど、ヒュレイカにペネ……そしてフレード君がいるなら心配には及ばなかった——」
「……リド卿、どうかしたのかい? 」
待ち侘びた調査組の合流をアウターク氏が伝えてくれ、居ても立っても居られなかった私はすぐ廃屋を飛び出すや皆の元へと歩み寄り……気付いたその眉根を寄せたジィさんの表情へ疑問符を浮かべます。
そんな私に言いようの無い視線を送り、さらには後ろに続いたヒュレイカ達へ目配せするリド卿は——
私が思考で理解に及ぶ様に、魔導文字と数字の羅列が記された謎の魔導台帳を突き付けて来たのです。
「ミシャリアよ。お主はどうやら、あの不貞の輩に嵌められておった様じゃ。その魔導台帳を見てみるが良い。」
「はっ? これは銀行店側の……?? 一体何の話を——」
リド卿が差し出した台帳とやらに意味も分からず手を伸ばした私は、そこに記された魔導文字と数字の羅列を目にするや――想定すらしていなかった非情なる事態を知る事となるのです。
「この記載はアグネスの街銀行が所有する、個人の預金額……のはずだろう? 宮廷術師会 支局 ……名義『ミシャリア・クロードリア』——」
「……現 借金、総額……1157万
直後——
視界が暗転した私は、卒倒寸前のまま崩れ落ちると言う状況へと追いやられたのでした……。
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