Act.128 旅の装飾店 ペネレーゼ
監視開始早々あのモンテスタ導師に出くわしたのには肝を冷やしましたが――
何とかその場を切り抜けた私達は、最初の情報整理のため調査組との合流を待ちます。
まあそこで案の定――
取り合えず溜まった不満を爆発させたいお嬢様方が暴れてしまうのですが……。
「あったま来た! 何よ、あの導師と取り巻きの態度は! ミーシャがどれだけ私達のために、その身を裂いてくれてるかを知りもしないで! 」
「まあまあ落ち着きなはれ、オリリンお姉様。けど――流石にウチも、ウチにリド……そしてサイはんにとっての大恩人への不届きな暴言の数々。みすみす看過できるものではおへんな。」
「ああ、二人共? 私を気遣ってくれるのはありがたいんだけどね? 特にティティ卿――」
「頼むからそれ、仕舞ってくれるかい? オリアナに落ち着けと言っておきながら――あなたの周囲で無残にも切り刻まれ、瓦礫と化した品々は何なんだい? 」
オリアナまでが私のために憤慨を顕とするのは、流石に照れくさい事この上ないのですが――
問題はティティ卿。
抜刀妖精を地で行く周囲の惨状には、違う肝が冷えそうだよ。
頼むから怒りのやり所が無いからと言って、抜刀切りで問答無用な周辺の器物損壊は勘弁願いたい所だね(汗)。
とか言いつつ……最も怒り爆発を恐れたのはもう一人なのですが。
そう思考して視線を移した先――両手を上げて肩を
これは戦列艦によるアグネスまでの旅路の最中聞いた話。
私が
私に命の危険が及ぶ様な依頼を持ち込んだリド卿を、あろうことかテンパロットが渾身の力でぶっ飛ばしたと言うもの。
その蛮行の理由――私も一番長い付き合いな彼だからよく知り得ています。
いるからこそあのモンテスタ導師の心無い暴言に、真っ先に怒りをぶち撒けても不思議ではなかったのですが――
そう考えただけでも、実の所は抑えるところは抑えられる大人なんだなと思い知らされました。
いっその事借金フラグも抑えて貰いたいものだよ。
怒り冷めやらぬと言った私達。
そんな中私はそれなりの時間を要するであろう裏取り調査組の状況も踏まえ、王国長期滞在を避け早めに事を解決する算段を立てます。
当然……モンテスタ導師の騒動が大事になる前の、早急な対策をとも考えて——
決定打を得た時点で攻勢に出られる準備を進めて行きます。
そんな私達の元へ、怒りで暴れ狂うお嬢の姿へ嘆息気味なアウターク氏も合流。
間者を通じて廃屋の場所を裏取り調査組へと伝達してくれたとの事。
夕方以降の時間帯にはあちらも戻ると想定し、一先ず私達監視組は廃屋で一旦腰を落ち着ける事としたのです。
∫∫∫∫∫∫
「お、これいいね! こいつはいくらだい? お嬢ちゃん。」
「はい、それは2500
「お嬢ちゃんこいつはいくらだい! いやぁ~~こんな可愛い髪飾りを娘に贈りたかったんだよ! 」
「ああ、そっちはちょっとお高い5000
キナ臭い通りの一角。
「いらっしゃいませ~~! 〈旅の装飾店 ペネレーゼ〉へようこそ~~! 」
さらに花を添えるは、
一見美少女である二人が並んで声を上げれば、客足が後を立たぬほどの盛況ぶりであった。
通りの一角に陣取った二人は、敢えて人の目を引く場所へと出店を開き……即興で棒切れに据えた垂れ幕と布敷を広げて旅の露天商を演じていたのだ。
その光景を少し離れた路地で見やる
「凄い、なの。ペネさん手作りの装飾品が――飛ぶ様に売れて行くの。自分で借金を返すの下りは……伊達じゃないの。」
「いやむしろワシは、あのヒュレイカが売り子の真似事を出来る方が驚きじゃわい。ただの色物好きでは無かったと——」
「オジジ、流石のヒュレイカさんでも失礼……なの。」
「……もう何も言うまい(汗)」
感嘆の方向性は
すでに孫と呼んでも差し支えなき、少年の弄り倒す眼差しに諦めが口を突く。
直後……視界に映り込む状況に、不穏を察しおふざけを廃した英雄妖精。
同時に警戒の言葉を少年へ投げる。
「おふざけはそこまでじゃ、フレードのボン。やはり嗅ぎ付けて来おったぞ?浅ましい人種のごうつくばり共が。」
声に反応した少年が出店の方を見れば——
英雄妖精の言葉通り……見てくれは術師会を装うも、明らかに面持ちへ堅気にはない雰囲気を湛えた強面集団が風を切って近寄って来ていた。
「おうおう、姉ちゃんら。誰に断ってここで商売始めとんのや。ここは術師会の導師様が治める自治区じゃけのぅ。」
「あら? ここは許可が必要な場所だった感じ? それはいけない感じだわ! 」
「そうね! すぐに場所を移動させよう、ペネ! 」
続いて響く声にビクリと肩を
彼らとて王国で商いを始める際は、強面が口にした存在の許可が必須と知り得ている。
故に眼前のドワーフ少女が開く出店は許可を得た物だろう——
そう思考していたがため……許可無く商いを行った者の惨状を想像するや、蜘蛛の子を散らす様に走り去っていた。
しかし当の露天商を開いていた二人は、全く動じた素振りを見せなかったのだが。
そんな二人を見定める強面のリーダーと思しき男が、少女達の
「ほう?
「先生……このガキはドワーフですぜ!? しかも売りもんは、ここいらでもお目にかかれねぇ一級の装飾品……こいつを導師様へ伝えれば——」
「それ以上は口にすんじゃねぇ……死にてぇのか、このボケ。だが、こいつは使えそうだな。」
その強面リーダーに被せる様に声を上げた下っ端の男。
鮮やかな装飾を目の前にしてうっかり口を滑らせそうになり、強面の一喝で震え上がってしまう。
が——
強面リーダーが視線を装飾に移すや、
すでに不穏な空気しか浮かばない状況へ、満を持して登場するはフワフワ神官。
純白に蒼の縁取りが舞う法衣へ、
「ペネさんにヒュレイカさん、お疲れ様……なの。商売は上々な感じ? この盛況ぶりであれば、フェザリナ様も特別に許可を下さる——なの。」
そして明らさまに二人の友人である感を全面へ押し出し、トドメとして美貌の卿の名を強調する様に事を納めにかかる。
「……チッ。あの女狐の息がかかるガキ共か。奴らには警戒しろとのお達し——おい、ここは引くぞ。」
紛う事なき警備隊——それもあの
したり顔と共に二人の少女とフワフワ神官が首肯しあう。
強面の一団が姿を消した頃合いに、英雄妖精も合流し状況の把握に努めた。
「思った通りな感じだったわね。少なくともこの王国街の一部自治区内では、商いのためにモンテスタ導師の許可が必要。それも定石通りとはいかない感じ。」
「ミシャリアお姉ちゃんは言ってたの。そうやってあのモンテスタ導師は、時間をかけて自分に逆らえない味方を増やし……勢力を拡大して来たって。」
「加えて奴らはどう見ても術師会に属さぬ半グレ者——まさか、アグネスの治安がここまで悪化しておったとは……。」
「どうどう。フランもボージェも大人しくしててくれてありがとね~~。それじゃ皆、少し辺りの警戒の後ミーシャ達と合流しよう。」
「あっ、ヒュレイカさんちょっと待つ感じ。あの様な輩が徘徊する中では、この結構な額の売上を持ち歩くのは得策ではない感じよ? 」
「ちょうどこの胡散臭い路地から出た所に、大きな街銀行店があったからそこへ稼ぎを預けたい感じなの。」
「うん、りょーかい。リド卿もそれで……ん? 」
それは裏取り調査組が、
オサレなドワーフの案に賛成と行動に移そうとしたツインテ騎士に、天啓の様な閃きが降りて来ていた。
その視線の先——
胡散臭い路地裏側の、客足も
そこから目を離せずにいた彼女を見た調査組は、
警戒態勢は続けたまま……ツインテ騎士が注視する街銀行店へと、その足を向けたのだった。
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