Act.101 呪い屠る決意の咆哮
テンパロットとティティ卿が、鍔迫り合いからのクロスレンジ戦闘を続ける中。
目にした刹那の立ち合いから余すこと無く彼女の現状を洗い出す私。
ツンツン頭のアイコンタクトで得られた、卿を救うための決定打。
それを確実なものとする要素を、例え砂つぶほどの情報とて逃さず会得せんと見定めて行きます。
「……なるほど!今のティティ卿が、サイクリアに取り憑かれているとの認識は捨てた方がいいね!これはむしろ呪いが彼女達を操っている——」
「呪いの源泉となるものが欲するそれを満たす為、彼女らを操り人形に仕立て上げていると!」
「源泉……ミシャリアお姉ちゃん——それはまさか、なの!?」
「ああ!フレード君も気付いたかい!?紛う事なきそれはあの黒い刀剣だよ!」
さっきテンパロットが漏らした言葉。
確か妖刀〈
知見範疇の外であった妖刀と言う存在を、ツンツン頭さんが分かり易く豪語してくれたお陰でそこに至れたね。
そこにこそあのチート精霊術師が噛んでいるのだと。
今回のケースは稀なもの——
呪われた武具の類にみられる一般認識として、使用者が死に至っているのが殆どで……情報云々が誰に伝わる事なく闇に消える事が常です。
故に呪われた武具があります!と言う風に広がる事も無く——最悪のパターンとしては、言いふらした者にまで災いが降りかかる現実さえ存在する。
そんな実情から、呪いの武具などを詳しく知る者はまずいないのが現実です。
そう言った知識上の呪いの本質を洗い出し、眼前の呪いの特徴を見定める——
そこで気付くのは、今打ち合うテンパロットには何ら呪いの兆候が見られない事でした。
見られたらそれはそれで大変であるも、状況が状況——足止めに徹している彼には感謝こそすれ責める謂れありません。
得られた確証としては、武具を操る者へ限定的にかかる呪いと判断出来たね。
そこまで素早く情報を整理し浮かぶのは、私のすぐ側にいる頼れる仲間の存在。
テンパロットより聞き及ぶ内容……肉親を呪いで失った事がきっかけで、神官職を目指した美少女な男の娘のフレード君。
そうです——呪いを打ち払うエキスパートが、私の背を守ってくれているのです。
「だが当然、ティティ卿とあの黒い刀剣を引き離すのはそう簡単には行かないね!最低でも彼女が同調する、狂気の精霊サイクリアだけでも引き剥がさないと——」
「でもミーシャさん、それこそそう簡単には行かない感じよっ!?どうする感じっ!?」
「イテテ……まさに、ね!あたしらがどうこうした所で、ティティ卿とサイクリアが離れるとは思えないし……!」
ですが——
ペネにヒュレイカの言う通り。
すでに得た情報通りならば、あのティティ卿は私と同じ——精霊単体へその贖罪が伸し掛る事を良しとしないのは明白。
簡単に彼女から、精霊サイクリアだけを引き剥がす手段など——
「……あるじゃないか、私には!」
「ちょっと待て、賢者ミーシャ!?そいつぁまさか——」
「それは危険サリ、ミーシャさん!」
すでに顕現していた燃える親子が察し、ただならぬ剣幕で制して来ます。
けれどそれ以外にないのであれば、それに
いえ——それこそが私の私足りえる真価の証であり、誰が何と言おうと揺らぐ事なき真実なのです。
「危険も承知さ!だけどティティ卿とサイクリアの両方を救う手段はこれしかない——私が一番得意とする最大術式……精霊共振装填しかね!!」
それは精霊と手を取り合うために生み出した、私オリジナルの秘術。
今こそその真価を試す時と、心身全てに覚悟を行き渡らせて。
私は——
∫∫∫∫∫∫
止まぬ狂気の斬撃が瘴気に包まれた街を破壊し尽くす。
それが呪いで振り回される事態は
そんな危機を無制限に引き上げる状況。
ただ打ち倒せばいい訳ではない——その対象を救わなければならないと言う現状そのものが、危機をかつてないものへと押し上げているのだ。
だが——落ちこぼれと……同僚となる多くのチート勢から脱落者のレッテルを貼られた少女は決意する。
それは余りにも危険な賭けと断じられるほどの策。
それでも少女は迷わない。
彼女が弛まぬ研鑽のもと生まれた、恐るべき成長を遂げた賢者であるから。
彼女が数多の精霊を労わり、慈しまんとする慈愛の存在であるから。
彼女が——期待受けし新進気鋭、ミシャリア・クロードリアその人であるからだ。
満を持して
惨劇に
「皆、よく聞いてくれないか!私はこれより、精霊共振装填を私自身へ展開する!対象となる精霊は——狂気の精霊サイクリアだ!」
新参である者たちは放たれた言葉に絶句する。
即ちそれは、呪いの渦中にある精霊を己に移すという事。
最悪——その呪いに賢者少女が取り込まれると言う事態を招来しかねない、極めて危険な策と言えたから。
「ミーシャお姉ちゃん!?それは危険すぎる、の!」
「バカな事言わないでよミーシャ!私の素敵な主さまが居なくなったらどうすんのよ!」
「それはダメな感じよっ!相手は
「キキ……キキーーっ!」
すでに賢者少女が大切な仲間である故に。
これより未知の世界へと旅立ち、苦楽を共にする家族である故に。
「ああ……それで行こうぜっ!ミーシャっ!」
その悲痛を破ったのは、今なお
耳を疑う賛同の声。
「それじゃあたしは何すればいい!?こっちはいつでもいいわよ、ミーシャ!」
狂犬に続くは同じく正気を疑う
だが——だがである。
賛同した二人の双眸に一点の曇りすら存在していない。
当然であった。
彼らは一行の誰よりも長く、賢者少女と共に旅をして来たのだ。
だからこそ彼女が、一体どれ程過酷な研鑽の道を超えて来たのかを知り得ているのだ。
最早彼らに否定の意思など宿っていない。
彼らが護りし少女は——これより遥か先、精霊と手を取り世界へと打って出る大賢者となる者だから。
「くくっ……良いものを見れた。ディネよ——ここはワシも協力を惜しまぬ所じゃ。」
「ク……クラーケン様。チッ……こんな水の上位精霊さえも動かすたぁ、やるじゃねぇか——賢者ミーシャさんよ!アタイも全力で手を貸したげるさねっ!」
桃色髪の賢者の決意は護衛二人へ伝搬し、水霊らさえも動かした。
さらにそれが、
「シフィエールよ、そなたはここで待て。
「……せや、な。ウ……ウチはこのニンフの結界内で身体を休めとくさかい、ウチの分までやったってや。」
「是非もない。任されたぞ!」
「熱いとは思ってたが……こんなにスゲェ奴だとは思わなかったぜ、ファッキン!サリュアナ——俺達炎の導きで、賢者ミーシャを全力でサポートするぜっ!」
「うん………うんサリ!素敵で、そしてカッコ良く……ミーシャさんが輝いてるサリ!これはもう、あーしも全力全開待った無しサリっ!」
負の
命の輝きを乗せた——生に満ち溢れた強大なる
輝き失せた
「はは……物好きったらないわね皆。けど……何か大丈夫な気がして来たわ。」
白黒令嬢が双銃を構えて立ち上がる。
「こんなに素敵な人だなんて……皆がこんなにも心動かされるミーシャさんは——もう誰にも誇れる大賢者様な感じね!」
機械製ロッドを旋回させ、オサレなドワーフが闘気を溢れさせた。
「至光神ソウトよ……。この素晴らしき出会いに感謝します——なの。解呪はボクに、お任せなの!」
フワフワ神官が輝ける今に賛美を送り、
『——賢者ミーシャ様。この様な事に巻き込んでしまい申し訳ありませんキ。なれば私も……全力で支援させて頂きますキっ!!』
過去を振り払う様に蝙蝠精霊が本体へと変化し……単眼から一筋の雫を溢れさせた。
視線は眼前の悲劇へ。
そして想いは命を救うという一点へと集束した。
直後——
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