Act.97 ビックレインビアを抜けて

 ご馳走にありついた後の惨状を越え、ようやく本題を切り出す事になった私達。

 当然の如く場所を変え……案内されたのは彼女——ディネさんも愛用するやぐら内の応接室でした。


「なるほど、輩ネェさんはここでニンフ達をあごで使っている訳だね?」


「ほぅ?会話の開始早々アタイにケンカ売ってる様だね。……まぁ、そんな内容でもひと種とまともに会話する日が戻ってくるとは思わなかったんだけどね。」


「ミーシャよぅ(汗)ここは話が進まねぇから弄りは無しにしようぜ?」


「むっ……テンパロットに突っこまれるとは——って、分かったよ。だからそんな目をしないでくれるかい?」


 とりあえず弄っていくスタイルを貫こうとしたら、ツンツン頭さんが新しい特技——雰囲気はを演じつつ、を押し出す荒技を披露します。

 冗談で返そうとしたら、視線でちょっとヒヤリとした私は嫌な汗を拭いつつディネさんとの交渉へと移ります。


 あの吹き飛ばした食堂の修繕費云々については、「それは後でいいから、他に大事な事があるんだろ?」とのネェさんの計らいにより今は端折っている次第です。


「ではディネさんに協力を願いたい事が二、三あるんだけど。まず一点目は——」


「一番重要なのは運河を渡るこったろ?でなけりゃこんな所まで、危険な街道を抜けて来たりはしねぇ。違うか?」


「まさにだね。安全の確保された街道とは言え、少々大所帯になった私達と馬二頭に旅荷諸々——流石に時間がかかり過ぎる所もあったし……何より目的地へ向かうにはここを行くほか無かったんだよ。」


 私の切り返しに双眸の鋭さが増す輩ネェさん。

 言うに及ばず、それは私が言わんとするが伝わった故と察したね。


「あんたら……まさか、〈〉へ向かう気かい?」


「ご名答。正確には迷いの森〈メイジア〉へ向かう……と言うのが正確だね。」


 ネェさんの零した〈北アヴェンスレイナ〉。

 それは正しい表現なのです。


 現在赤き大地ザガディアス地図上の〈アヴェンスレイナ〉表記は運河南にある街を指し……しかし迷いの森を目標にする私達は、〈アヴェンスレイナ〉こそが経由地点となります。

 それは迷いの森メイジア霊大樹セフィロティアの森と称された時代以降——ある時期を境に、アヴェンスレイナが運河を挟み南北へ別れた事に由来します。


 ある時期——……


 都の現状を知った上で視線を輩ネェさんへ向けると——盛大に嘆息した彼女が、想定した二点目をあちらから口にして来ました。


「正気かい?つまりはアタイに、森の最奥にある霊大樹セフィロティアへの案内を頼もう……そう言う魂胆て訳か。ったく——あんな危険極まりない場所への案内を頼む大馬鹿は、長い精霊人生でも初めてさね。」


「すまないね。あの迷いの森で迷路にはまらぬ方法は、森を走る河川を行くのが正攻法——そう結論付けたんだよ。」


 私が耳にした情報では、森で迷う原因として精霊力エレメンティウムの乱れが齎す体内磁石のかく乱である所まで突き止めており――

 けれどそれを無き物と出来る手段として、霊大樹セフィロティアまで続いている河川を船で北上すれば決して迷う事などないとまでは知り得ていたのです。


 そう輩ネェさんとやり取りする中、疑問符がすでに蓄積しまくったオリアナが問うて来ます。


「えっ?アヴェンスレイナって南北に分かれてるの?それに迷いの森へ川を渡って行くって——」


「ああ、失礼。その情報も範疇の外だったね。」


「誰がお上りさんじゃいっ!?」


「「「あんただよ(汗)」」」


 お上りさんな白黒令嬢さんに——

 と……令嬢を付けるのはちょっとしゃくなのでバラ黒かハラ黒さんのままにして置くとして、そんな世間的な常識からいささか外れた彼女への説明として——


「いい機会だ。私が説明するから、ハラ黒さんもちゃんと世間の一般常識を心得て置くと良いよ。」


「白黒でも、オリ黒でも、バラでもハラでも無いしっ!?」


「なんだい……自分の字名を全部覚えてるじゃ無いか。」


 激おこなオリアナと後ろでケタケタ笑い転げる護衛組を尻目に、私はそこから〈アヴェンスレイナ〉に纏わる逸話を……輩なネェさんの補足も踏まえて話し始めたのです。



∫∫∫∫∫∫



 英雄妖精リド霊位妖精ティティたもとを分かった時までさかのぼった時代。

 その当時を知る輩な水霊ディネが口火を切る。


「ティティ・フロウが己の最後の地と定めたのが、現在の迷いの森〈メイジア〉であり——アタイは実際、彼女を森深くへと道案内した経緯があるのさね。」


「うん。君がウンディーネである事を踏まえ、迷いの森を迷わずに抜ける手段を考えればそんな所だろうね。良いかい、オリアナ——」


「アヴェンスレイナはかつて運河を挟み、南北へと街を伸ばす一大観光拠点だったと私は聞き及んでいるんだ。」


 応接室に備わる霊樹を切り出した木机へ広げるは、アヴェンスレイナの現在を表す世界公式地図。

 桃色髪の賢者ミシャリアと輩な水霊がそれを指差し、白黒令嬢オリアナへと説明を続ける。


 だが、基礎情報が備われば……感覚面で法規隊ディフェンサー一行の影響を受け始めた令嬢も閃きが降りてくる。


「運河を挟んだ観光の街に、ディネさんが森深くへ道案内を……って事は——もしかして観光名所だったってこと?」


「いいね、その閃きは成長の証だ。現在 迷いの森〈メイジア〉と呼ばれるそこは、かつて観光スポットで〈霊大樹セフィロティア記念区画〉と言う名称を持っていたんだ。」


「賢者様の言う通り。アタイはそこでひと種との共存として、街の観光案内を請け負っていたんだよ。」


「こんな輩なネェさんの案内が一体どんな風だったのか、是非拝ませて頂きたい所でもあるね。」


「話の腰を折るなよ、賢者様(汗)アタイだってそれなりに営業スマイルは得意なんだ——って、人間方……その疑いの視線はなんだい?あんたらまでアタイへケンカ売ろうって腹なのかい(汗)」


 閃きが降りた白黒令嬢へと説明が進むが……

 、満足に話が進まぬじまいである。


 さしもの輩な水霊もその状況へ業を煮やし……バンッ!と木机を叩き立ち上がると声を荒げて一行へ促した。


「あーもう!あんたらと話してると一行に拉致があかねぇさね!どうせ時間も押してんだろ!?すぐにでもあの運河を渡る巨大大橋——」


ひと種の技術が誇る〈ビックレインビア〉へ行くさね!話は歩きながらでもできんだからね!」


「「「あんたがそれ言うんだ……(汗)。」」」


 確実に水霊へとぶん投げられる特大ブーメランも、人の事は言えぬ法規隊ディフェンサー一行。

 しかしその状況に、ニヤリと口角を上げた桃色髪の賢者——言うに及ばず……水霊の気質を自在に操る様を護衛達は目にしていた。


「(このミーシャの話術と起点の良さは、ウチの最大の武器だな。)」


「(ああ……完全に踊らされたわね(汗)。末恐ろしいったらないわ。)」


「(ミーシャお姉ちゃん……さりげなさすぎ——なの(汗)。ディネさん完全に、踊らされてるの。)」


「(改めて恐るべきな感じね、ミーシャさんは(汗)。)」


「ミーシャって凄いわね。完全にディネさんを手だ——モゴッ!?モゴゴッ!!」


「キキッキキッ(汗)!」


 賢者少女の行動は水霊を手玉に取るためのもの。

 そう悟る一行は、言葉に出さぬ様に思考へ宿す。

 しかしまさかの白黒令嬢——賢者少女の行動を台無しにする様に口に出さんとした時、令嬢の口目掛けて舞い飛んだ蝙蝠精霊シェンがバタバタ蠢き寸でで制した。


「「「「グッジョブ、シェン!」」」」


 一行はヒヤリと汗を流すも、蝙蝠精霊のファインプレーにサムズアップを返し——

 程なく応接室を後にした一行は輩な水霊案内の元……目的地へのさらに一歩を踏み出す事となる。


 向かうは、魔道機械アーレス帝国の技術の粋が詰まった運河上巨大大橋。

 水の都の南北を繋ぐ〈ビックレインビア〉。


 だが——

 一行はその橋の向こうで、想像だにしない光景を目の当たりにする事となるのであった。

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