Act.60 焔揺らす精霊は、恩人たる少女と共に……

「……ん……あれ?ここ——」


「やあ目が覚めたかい?オリアナ。今回は正直、大概なヘマをやらかしたかと思ったけど——その後の行動はファインプレー以外の何物でもない。て事で——」


「ミーシャっ!?あの子——サリュアナは無事なのっ!?ねぇ!!」


「——って、落ち着かないか(汗)大丈夫……今ファインプレーと言っただろ?彼女の存在は至って無事……君の判断のお陰だよ。」


 開けた休火山デュナスふもと白黒少女オリアナの回復を待っていた法規隊ディフェンサー一行。

 深い傷も致命傷とはならならず——それに加え、フワフワ神官フレードの治癒術施術が早かった事も影響し……早い段階で少女も意識を取り戻す事となる。


 それまでの間に、少女の姿を見かねた桃色髪の賢者ミシャリアがフワフワ神官へ依頼――浮遊移動の叶う彼が、道すがらの村にて変えの衣服を用立てて戻り……皮袋から取り出したツインテ騎士はそれを白黒少女へ手渡した。


「ほら、これ。あんたの服ズタズタの上に血だらけの真っ赤っかでしょ?ちょうどここに来る道すがらの近い村で買った服……これに着替えときなさい。ふぅ……それにしても——」


「オリアナ……あんたってば、おみ足まで真っ白ね~~ジュルリ。」


「キモいわねっ!?このキモ百合っ!」


「き……キモ百合!?何それ、斬新!もっと言ってーーっ!」


「止めないかヒュレイカ(汗)病み上がりだよ、オリアナは。全く……趣味趣向を必死で抑えていると言うのに——」


「あんたも大概ね……ミーシャ(汗)怪我から目覚めたらキモ百合のダブルコンボとか……笑えないからね。」


「……私もそれで呼ばれるのか(汗)」


 順調な回復も……本人が口にした通り、起きがけの光景としては最悪この上ないおバカなやり取りが強襲し——白黒少女も、止み上がるや否や疲れが押し寄せていた。


 そのまま準備された衣服を、ツインテ騎士から引っ手繰たくる勢いでもぎ取った少女。

 着替えのために切り立つ岩かげにそそくさと身を隠そうとし……その手前でキッと一行を睨め付け——


「覗かないでよっ!?覗いたら分かってるわねっ!」


「バカか!?覗くかよっ!信用ねぇなオイ!」


「そうだよテンパロット。女子の着替えを覗くなんて醜態を晒した日にはどうなるか分かっているんだろうね?」


「そうそう……そんな事した日には、ミーシャからの魔法力マジェクトロン装填済みの手痛い一撃が一撃と言わず——」


一番危険なのよっ!!」


「「えっ……!?」」


「同性の二人が……信用されてないの(汗)これは、一大事なの。」


「まあ当然やけどな。」


「右に同じであるな。」


 念押しの怒号に反応した狂犬テンパロットであったが、白黒少女の懸念要素は彼ではなく……他人事の様に狂犬を弄ろうとした女子二人であった。

 そんな残念すぎる対応へ、「何故いけないの!?」との思考を浮かべるも睨みを叩き付けられた桃色髪の賢者ミシャリアツインテ騎士ヒュレイカは、こ世の終わりの如く項垂れた。


 一連の醜態を見せ付けられ、嫌な汗に濡れるフワフワ神官と二柱の精霊も置き去りにし——

 程なく着替えを終えた白黒少女が岩陰から姿を現わすと……見慣れた白黒メイド衣装から打って変わる聖女の様な雰囲気に——まずは百合思考全開な女子二人が過敏に反応した。


「……っ!?オリアナ、それは——うむ……これはこれでアリだね。」


「やっば……。オリアナ……めっさ綺麗じゃん。」


「じ……ジロジロと!こっち見んな、キモ百合コンビ!」


 だが……二人の反応は、先の下のネタを多分にまぶした視線とは異なる。


 フワフワ神官のベストチョイスも然る事ながら……町娘が好んで着る中でも格段に高級な上質生地をあしらった、落ち着いたグレーと白を配する肩を顕としたワンピースに――フリルが躍る透き通るグレーのカーディガン。

 さらにワンポイントのシックなリボンが胸元に踊り、白黒少女の艶やかな黒髪と紅玉の様な瞳を一層引き立て――

 を吹き飛ばされた二人は、純粋に賛美が口から漏れた。


 当の本人には日常から来る先入観で、それすら響いてはいない様ではあるが。


「……綺麗サリ。オリアナさん……本当にアナスタシアの女神みたいサリ。」


 白黒少女が着替え終わるか否かの所へ、英雄妖精リドに案内された火の精霊——火蜥蜴親父サラディン炎揺らす少女サリュアナが一行の元へと赴いた。

 ちょうど岩陰から出て来た白黒少女を、炎揺らす少女も視界へと入れ……口をついた言葉は彼女へ抱いた聖霊界に残る伝承の女神の名である。


 声を耳にしそちらを向いた桃色髪の賢者も、すでに視界に映る火蜥蜴親父の決意を悟り言葉を放つ。


「やあ、リド卿。どうやら精霊方との話し合いにはケリが付いた様だね。」


「うむ、待たせたの。じゃがまずは——サラディンよ……——」


 目を輝かせて白黒少女へ擦り寄る炎揺らす少女を、白黒少女もその無事を確認するや慈愛に満ちた瞳で頭を撫で上げる。

 同時に……娘が何の警戒もなく白黒少女に歩み寄る様を視界に入れた火蜥蜴親父も、思考に一つの決意を宿し——

 英雄妖精も今一度の対話をと、火蜥蜴親父を前へと送り出した。


「ミシャリア・クロードリア——いや、賢者ミーシャ。少しだけ俺の話を聞いて貰いたい……。」


 直後——法規隊ディフェンサー一行と火蜥蜴精霊一行にとっての、命運が決まる対話が交わされる事となったのだ。



∫∫∫∫∫∫



「少しだけ俺の話を聞いて貰いたい。」


 多少の行き違いと、想定外なトラブルも越え……ようやく私達は火の精霊との対話を実現させる事となりました。

 けど——

 サラディン氏の双眸が、すんなり事の運ぶ雰囲気から離れていたのを確認し……一筋縄では行かない状況を確信します。


 まあ、一筋縄で行かないのは今に始まった事では無く——、厄介な関係からの今に至るため……さほどの驚きも無かった訳ですが。


 恐らくは暫く無かったであろう決意を宿して、サラディン氏は対話の口火を切ります。

 ——


「悪く思わないで貰いたいが、ひと種とは今までの事もある。だから正直、俺は未だにあんた方を信用出来ない……ファッキン。と言う事で――」


「賢者ミーシャ……俺はあんたへの協力は出来ない。」


「……そうかい。まあ実はある程度想定してたんだけどね?しかし——」


「その言葉には続きがあるんだろ?サラディンさん。」


 少し驚いて見開く瞳。

 けれどこの対応が、最初の信用の証として刻んだサラディン氏はさらに続けます。


「なるほど……いい意味で普通に侮れねぇな、賢者ミーシャ。そうだ……むしろここからが本題となる。」


 言うや彼は視線を私から……今しがた着替えを終え、オリアナへと向け——

 そのまま片膝を折る様にかしこまったのです。


「俺はあんたにはまだ協力出来ねぇが……このお嬢さん——いや、オリアナ・ギャランド嬢には娘を救って貰った大恩がある。そして彼女へ、無用の怪我を負わせたこちらの落ち度——」


「そう言った事を引っくるめて、俺はもうこの方には頭が上がらないって奴だ。」


「サラディンさん……。」


 唐突に自分の眼前でかしこまる火の精霊に、僅かに動揺を見せるも——流石はかの黒の武器商人ヴェゾロッサの首魁の道を進んだオリアナ。

 彼女自身もその結果が朧げながら見えていた様だね。


 そして次に語られたサラディン氏の言葉は、私達法規隊ディフェンサー一行にとっての命運すらも左右する形で終息を見る事となるのでした。


「という訳で、オリアナ嬢……俺達は着いて行く。あんたへの大恩——この俺の存在を懸けてでも返して見せる。賢者さんよ……そう言う事で構わないかい?」


 うやうやしくオリアナへとこうべを垂れたサラディン氏は、視線だけをこちらに寄越し——これが返答との意思を込めます。

 こちらとしても、形はどうであれ……彼らの協力を得られる結果であれば文句の付けようも無く——


「構わないよ、サラディンさん。では……その、今後協力を要請する事にする。よろしく頼むよ?」


 ニヤリと口角を上げた精霊を視界に捉え——

 私達は一先ずの終息へ僅かな緊張で強張った肩から力を抜きます。

 今法規隊ディフェンサーにしーちゃんとジーンさんを始め、まず今後同行すると見て間違いのないシェン——そしてサラディン氏と、娘のサリュアナと言う頼もしき精霊が加わりました。


 そうして既にもうそんな時間かと思うほどに傾いた連星太陽を背に……炎の温もりを孕んだ風が、新たな出会いと旅立ちを祝福する様に私達の間を吹き抜けたのです。




 ——皇子殿下からの依頼の一つのである協力者を味方に付け、意気揚々と残りの依頼遂行をと足を向けた私達——

 しかし……後になってサラディン氏らから語られ、しこたま打ちのめされる事となるのですが——




∽∽∽∽∽ アーレス港町 フェルデロンド  ∽∽∽∽∽∽


被害 : なし


食堂バスターズ————借金、今の所は継続も横這い!


∽∽∽さあてこれからどうなる!!?(主に借金が……)∽∽∽∽

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