Act.19 戦うメイド、オリリンにゃあ☆

 私はメイド。

 ハートを射抜くメイド。

 その名も〈ハートの狙撃手オリリンにゃあ☆〉……——


「——って、誰がオリリンじゃぁっ!?」


 と、なし崩しに付けられた愛称に不満タラタラのまま……足元の小石を蹴飛ばしたら——


「イダッ!?」


 まさかのお約束——跳弾した小石で自分の顔を狙撃してしまった。

 流石私……自分ですらも狙撃出来るなんて、その辺のスナイパーも真っ青だね☆

 まぁちょうど額上に飛来したお陰で、カチューシャがクッションにはなったけど……額から流血しながらお店に戻る訳にも行かないので不幸中の幸いと——

 思考しすでに、メイドへ染まり始めてる自分にうずくまったまま嘆息した。


「はぁ……職に有り付けた所までは良かったものの——メイド喫茶な点に加えて……まさかあの一行が客で訪れるなんて——」


「はぁぁ~~……トコトン付いてないなぁ、私。」


 かく言う私は今、そのまさかの一行が——いや……その中心である賢者の娘が提示したクレーム対応のため、就職そうそうのお使い走り。

 しかも言い掛かりなどでは無い、お店としての致命的な点を指摘されたため……今後の事も踏まえ、を回避する重要任務を任された。


「この〈ネオ・アギーハバラン〉街内で、【タイニー娘】も開店前の企画段階からお世話になる仕立屋——って言っても……私この街初めてなんだけど(汗)」


 一応なけなしの地図を受け取って、出向いたものの……冗談抜きに地図無しでは把握出来ないこの異色の裏通り——さらには私の仕事着など霞んで消える程に、趣味趣向全開の衣装で闊歩する人々。

 しかし下手な街人よりも、この裏通りを行き交う人々の方が輝いて見えるのは気のせいじゃ無いはずだ。


 お陰で私の姿なんか、全然目立たない状況に安堵と不満が同居してしまう。


 うずくまり……地図を片手に周囲を見回して、仕立屋とされる店舗を探す。

 すでにその店が見える辺りのはずだから、出ているはずの看板さえ——と思考するが早いか目的のお店が目に止まる。


「ふぅ……近くで良かった仕立屋さん。て言うか「猫耳メイドセットを、仕立屋から人数分運んでね♡」とかさらっと私を上手く使いやがって……。侮れないわね、……。」


 普通はメイド長とかって、呼ばなければならない所だろうけど……「永遠の17才」と言う語呂の余りのインパクトに、店長の本名すら出てこなくなってた。

 ——いや、本当に何て名前だったっけ?


「……?店長の名前?——あれ……何て言ったっけ。う~ん……ラ?イ?……ラリ?——ラインハルト!?」


 ——あ、違うなこれ……完全に男の名だ。


 などとしょーも無い事を考えている間に、仕立屋の入り口をくぐっていた。

 よし……ここからは何時もの、商売用のスマイルでさらりとお仕事を済ませて——


「ああっ!?今何つった、テメェ!払えねぇたぁどう言う事だ店主よ!」


「いえ、あいにくその様な件にはウチとしても対処しかねます!どうか、お引き取りを——」


 ——あれ?何これ……もしかしてお取り込み中?

 しかも一触触発って空気が渦巻いてんだけど?

 いやもう勘弁してよ……こちとら不運に不運が重ね掛けされて、この後に及んでなんてまっぴらゴメンだからね?


 けれど仕立屋から、クレーム解消の鍵となるマストアイテムを回収しなければ……私明日からまた一文無しなんですよね。

 まかない付きの好条件故、恥ずかしいのを我慢してメイド接客をこなしてるんだ。

 ここでそれを台無しにされるなんて、——って自分で言っちゃった……(涙)。


 まあ取り敢えず——


「すみませ~~ん☆【タイニー娘】から、猫耳メイドセット6セットを引き取りに来た者ですが!用意出来てますか~~!?」


 と——私の声にお取り込み中の店主は兎も角として、難癖付けてるやからまでこちらに向き直ります。


「あっ!?【タイニー娘】のメイドさん……ダメだよ、今入ってきちゃ巻き沿いに——」


「ほぅ?何だ、巻き沿いってな、俺を指して言ってんのか!?ああっ!?」


「あっ!?いえ——そういう訳では……——」


 つか何このやから……ちょーメンドクセーんですけど?

 あのはどうでも良いとして、仕立屋さん完全に困ってるじゃない——おまけに私の仕事の邪魔をするなんて……正直ガラじゃ無いんだけど——


「あのぅ……すみません、さん。私その——お仕事がありますので~~用が無いのでしたら、そこどいてくれませんか?」


「ちょっとメイドさん!ダメだよ、そんなこと言ったら——」


「……中々舐めた口聞くなぁ、お嬢ちゃん?——ん?何かそのなりどこかで聞いた様な雰囲気に……——」


「もしかしてお嬢ちゃん……今街で話題の——〈〉か?」


 カッチーン!

 いや何で、お風呂で綺麗にしてお化粧もバッチリなこの私が——未だに、呼称のされ方されなければいけないのかなぁ~~!?

 ちょっと私頭に来ました。

 と言う事で——


「汚らしいドレッドヘアーの、退に——言われたくはないわねぇ!!」


「っ!?テメェなに——」


 と——そのまま汚いドレッドハゲが言葉を放つ前に、そのふところもぐり込み――

 腕を絡める様に力をいなして……引き倒します。


「ぐぶぇっ!?」


 あらぁ~~痛そ~~。

 顔面から落ちましたね。

 そりゃ私に腕取られて受け身も取れないんだから、こうなるのは目に見えて——って言うか、今思ったけど……あのやばい狂犬相手にしてからこちら、この手のやからの動きが止まって見えるわ……。


 そう思考したら寒気がして来た……あの狂犬、どんだけヤバイ世界から来たのよ(汗)。


「ぐっ——くひょお……おほえひぇやひゃれっ!!」


 出ました、三下捨てゼリフ。

 そうやって吐き捨てたやからは、ロクな目に合わないのを知らないのでしょうかね?

 そもそも顔面から落ちたせいで、口元が痛々しい事になってるけどね?そして頑張った捨ゼリフも、何か格好付かなくなってるね?


 そそくさとお店を脱兎の如く逃げ出した汚いドレッドハゲ——まぁ、ちょっと前まで私も随分汚かったのだけど……。

 正直〈汚ギャル〉の呼び名だけは勘弁願いたい所だわ。


 ひとまず一難は去ったと言う事で、こちらはお店からの指示——……事の発端である、あのの、悪魔のクレームの餌食とならぬ前にお仕事をと——


 向き直った先に見えたのは、仕立屋なお姉ちゃん店主の英雄を見る様な羨望の眼差し。

 えっ……何?なんでそんなに頰が紅潮していらっしゃるの?(汗)


「す……素敵♡なんてカッコイイメイドさんなの……。」


「ぶっふおっ!?」


 そして私はオモクソ噴き出した。

 いやこの人そっちなの!?

 そりゃまぁ、あの姉御肌な永遠の17才が贔屓ひいきにしてるぐらいだから……女性店主と言う時点でその可能性は——いやナイナイ!?この結論は明らかにおかしい!


「……あっ、いえ失礼しました!お店で急ぐ様に厳命されているもので——永遠の17……じゃない、メイド長からの依頼の品を準備願えますか?」


 なんとなく思考へ嫌な事態が過ぎった私は、与えられた任務遂行のため速やかに猫耳メイドセット回収をと……暴走待った無しの仕立屋店主へ向け、永遠の17才な姉御肌が急かしていると付け加え——


「……あっ!?それはいけません——ララァ様をお待たせしては、……ポッ♡——し、失礼!そうですね、素敵なメイド様……直ぐに準備致しますので少々お待ち下さい!」


 確実に……遠い目で聞き流し——準備されたブツを持って早々に立ち去った私。

 背後から襲う只ならぬ空気と熱視線から逃げる様に——お店への帰路へ着くのでした。


 その私を刺す様な視線で襲う、別方向の気配にも気付かぬままに——

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