ロウフルディフェンサー

鋼鉄の羽蛍

食堂バスターズ、見参!!?

食堂を荒らす者たち

Act.1 壊すモノを間違えた者達

 ∽∽∽∽∽∽


 その世界は至光の神ソウトと、魔光の神マソウトが生み出したとされる。


 だがいつしか訪れた外なる神、貴公神エンディミオンが新たなる機械文化を招来した。


 そして……そこは魔導と科学の融合した世界として生まれ変わる事となる。


 ∽∽∽∽∽∽




 赤き世界ザガディアス

 人がそう呼ぶその世界は、剣と魔導機械によって支配される国々で成り立っていた。


 だが全てが人の支配地と言う訳ではない。

 そこには亜人種デミヒュミア獣人種ウェアルド妖精種エルヴィムと言う存在が共存し、それぞれの国を持つ事で共栄の道を歩んでいた。


 だが世界と言う物はいつの世、どの時代でも悪しき存在がのさばるは常である。


 そうした悪しき異物を取り除くために組織された部隊。

 それらが世界を回り、人知れず世の治世に貢献していたのだ。



 ――そう……なのだ……――



∫∫∫∫∫∫



 赤き大地ザガディアスを代表する三列を成す巨大な大陸の西に位置する大陸。

 広大な山々が北から南へとそびえるふもとに、古代より代々魔導を受け継ぐ王国支配下の街並みが軒を連ねる。

 三列大陸を中心に大小10を超える大陸からなる中、巨大国家ベスト5に入る魔導王国。


 魔導大国〈アグネス王国〉の辺境の街よりその物語は始まる。



「お……おい! 聞いたか!? やばいぞ、やつらが来てる! 」


「なっ!? そんな……ついこの前までは、南の商人の町キッサリスで暴れてたんじゃ――」


「いや、間違いない! ……さっき街の外に出ていた親子が、それを見つけて慌てて帰ってきたらしい! 」


 その街並みは木造の骨組みを中心に、石壁と装飾で彩られた風光明媚な雰囲気。

 街行く民は普通のひと種であるが、不可侵と同盟共存の仲である妖精族エルヴィムも混じり賑わっている。

 が……今しがた舞い込んだ不穏な空気が、街を異様な空気へ変貌させていた。


「街外れだ! 奴らは今、町外れの〈街飯屋 ガインバル食堂〉に居やがるっっ! 」


「なんてこった……おしまいだ。あのガインバルの煮込み鍋、絶品だったのに――」


「マジかよ。俺はあそこで淹れてくれるマビィン産豆のコーヒー……お気に入りの朝食の友……だったんだぜ……? それがこのままじゃ――」


「「「!! 」」」



 変貌した空気が風光明媚な街を包む中。

 謎の訪問者の襲来に、絶望的な眼差しで肩を落とす街人達がそこに居た。



∫∫∫∫∫∫



「おい……今その皿に乗ってる最後のエニル産豚のグリル焼き、オレのだって言ったはずだよなぁ……この! 」


「ああっ!? ……誰がメスゴリラよ! つか、勝手にあんたの物にしないでよ。ぶった切るわよ?この! 」


 それはいつもの光景。

 毎度お馴染み無学習なおバカ二人が、今日も懲りずに食べ物の取り合いを始めます。


 一人は下半分の御髪を刈り上げ、残りをバンダナでまとめるツンツン頭。

 体躯もひと種ではごく平均……けれど鍛え上げられた筋肉は、力よりも速さを宿すしなやかさを想像させます。

 対し——


 一人は長い後毛おくれげと前髪をなびかせ、頭部両端後ろでまとめるツインテール。

 オレンジ色の煌めきを振りまく私と違わぬ背丈の容姿とは裏腹に、今ツンツン頭が発した様にの愛称が皮肉にもハマってしまう超怪力少女。

 手持ちのである特製のグレートソードを振り回す内、身に付いてしまったとか。


 そんな彼らは今この辺境でも食の有名処、〈街飯屋 ガインバル食堂〉の一階にある開けた場所のテーブルにて一触即発を演じているのです。


「もう、やめてくれるかい?二人とも。こんなんじゃまた、——って、聞いてないね。」


 私の声も耳に入らぬ狂犬とメスゴリラ——ああ、私が誰かって?

 私の名前はミシャリア・クロードリア……しがない賢者などをやらせて貰ってます。

 まぁどちらかと言えば、名前は全然売れてませんけど。


 それもそのはず……私は元々魔法もロクにこなせぬ——と、いよいよ二人がヒートアップして来ました。

 しかし、人の話を聞かぬおバカ二人にはが必要だね。


 と言う訳で……このこんがり焼けたエニル産豚のグリル焼きは、私が頂く事としようじゃないか。

 二人の争い合う合間を縫う様にこっそりフォークとナイフで切り出して、はくっ……うん美味……☆


「上等だメスゴリラっ! 面出ろや! また勝負と行こうじゃねぇか……! 」


「ええ、ええ……望む所だわね! 返り討ちにしてやるわっ! 」


 これもお約束、すでにドン引きの客が慌てて避難し始めましたね。

 この二人の争いに巻き込まれたらば、その辺に闊歩する異獣……俗に言う魔物の方がまだマシだと私なら思う所です。


 何せこの二人はから。


 程なく荒れ狂うおバカ二人が店の外で名誉もクソも無い恥晒しな一騎打ちを今、正に始めようとしています。

 て言うか、そのまま金払わず逃走したら張っ倒すぞ。

 只でさえ……二人の降り積もった借金を、私が肩代わりしてるんだからね?


 お、どうやらバトル開始のゴングが鳴った様です。

 取り敢えず怯える店主をなだめた私は、二人が逃走しない様に監視する為店外に出ます。


「死ねやメスゴリラーーーーっっ!! 」


「お前が死ねーーーーーーーっっ!! 」


 うわ……一騎打ちにあるまじき汚い言葉。

 いつも思いますが、この二人に礼儀とか気品とかは求めてはいけない気がするね。


「今日は食堂壊すな……っよぅっ!? 」


 て、言ってる側から剣閃が放つ衝撃波が私を強襲します。

 咄嗟に張った精霊魔法の防御障壁ハウルシェルで、辛くも弾いた私。

 しまった……食堂へ——

 直後、轟音が食堂の屋根端を掠めて舞い飛ぶ屋根板……そして弾け飛ぶ土台の石壁。


「ぎゃああああっっーー、オレの店がーーーーっっ!!? 」


 うんごめん、店主……今のは私。

 取り敢えずこの分は、二人の借金へ上乗せしておこう。


 そんなこちらの気も知らず、舞う剣閃は火花を散らします。

 そもそもこんなバカやらなければ、大陸でも二つと無い最強を会得出来るのに……私なんかに付き合うからこんな——

 いやこいつら私に借金してるし、それはそれで仕方ないか。


「はっ! また剣の太刀筋がを増しやがったな……ヒュレイカ! 騎士株を上げたんじゃねぇか!? 」


「あんたこそ……くっ!?キルトレイサー風情と侮れば痛い目を見る! 本当にあんたなのっ!?テンパロットっ! 」


 そう、汚い言葉の応酬はいつも最初だけ。

 剣を交える度に、その本質が目を覚まします。


 隙なく振り抜かれる逆手持ちのソードブレイカーは、大型ナイフに刃をへし折るあぎとの付いた剣殺し。

 その剣殺しの牙さえ力で押し返すはグレートソード。

 剣の中でも最も長大で両手で扱う前提の両刃剣が、それこそ大地をえぐる様に切り上げられます。


 二人は正直私の目からしても、そんじょそこらの雑魚では到底相手にならない最強クラスの猛者。

 ツンツン頭は盗賊シーフ系に於ける最上位の特殊職〈キルトレイサー〉と言う、本来であれば暗殺及び国家間諜報任務を生業とするキワモノ。

 名はテンパロット・ウェブスナー。

 そしてオレンジのツインテール少女は、ともすれば国家における近衛兵団長を頂いてもおかしくは無い実力の宮廷騎士。

 名はヒュレイカ・ディーラ・フリージア。


 彼らは与えられた任務とは言え、名も無き賢者の護衛を買って出てくれた変わり者。

 本当ならば、それだけで大恩を抱いてもおかしくは無い最強コンビ……それがこんなバカ騒ぎを起こす二人の借金を肩代わりするに足る理由なのです。


 ——いや、ちょっと待て。

 それにしても今回壊しすぎて無いか?

 嫌な予感と共に後ろを見やる私……飛び込んだのは食事処の

 はっ!となり周囲を見渡すも時すでに遅し。

 周辺の家々にまで被害が飛び火する、あらぬ事態を目撃してしまいます。


 惨状が阿鼻叫喚となったのを確認した私の思考の中で、何かがプチっ!と切れる音がしたね。


超振動ビブラス精霊同調スピリア精霊界励起エレメタリオス……舞う風よ、疾き調べを雷精へと昇華させん——』


疾駆雷精衝波ゲイル・レイヴァースっっ!! 』


 周囲を囲む魔量子立体魔法陣マガ・クオント・シェイル・サーキュレイダ——魔量子マガ・クオンタムとは古代魔法ハイエンシェントに於いて魔法力マジェクトロンと呼ばれた力を、魔導科学で解明し……論理的な実在する力として提唱したエネルギー形態。


 その魔量子マガ・クオンタム精霊力エレメティウムを媒介し放つ雷を纏う暴風を……、上げた右手の魔法陣サーキュレイダからほとばしらせる私。

 そして暴風は、な二人の一騎打ちをまとめて巻き上げたのです


「うぎゃーーーーっっ!? 痺れる——痺れるーーぅぅ!? やりやがったなーーー!ミーシャー……あーーーーーっっ!? 」


「なん・で・あた・し、までぇぇーーーーーっ!? 」


 うっさいわ……頭冷やせおバカ共。


 おバカ共の愚かなる狂喜乱舞が終息を見た頃。

 ようや落ち着く街中は、すでに阿鼻叫喚が絶賛展開中。

 取り敢えず私はアグネスが誇る魔導機関……私の古巣たる〈アグネス王国宮廷術師会〉の術師会紋章を提示し場を納める事とします。


「あー……誠に申し訳ありません。この被害はこちらがしかるべき機関経由で全額お支払いしますのでご心配なく。」


 すでに半壊した有名処の哀れな姿に涙する店主と恐怖におののく街人皆にその旨を伝え……路上で哀れにのびるおバカ二人を引きずり退散する為、精霊召喚サーモナー・エレメント術式を展開。

 召喚立体魔法陣サモナイト・シェイル・サーキュレイダより現れた風の魔人へ、「またお願い……」と懇願したのです

 風の魔人……身の丈3メトを数える巨躯の精霊よりの「またであるか……」の苦笑を頂戴した私は今日予約済みの街外れのお宿へ。



 街人の半目の蔑みの中、精霊召喚をに利用しつつ足を向けたのでした。

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