じんせーるすまん(20分程度)

登場人物

田中…大学生。女性。

佐藤…大学生。女性。

セールスマン…社会人。男性。


田中、床に寝転がってスマホをいじっている。

田「昼の一時かー。なんか腹減ってないな…ヒマだな…」

田中はごろごろする。

田「でも外出るのはだるいんだよな…」

電話の呼び出し音が鳴る。下手に佐藤が電話を耳に当てて立つ。

田「んー? 誰だろ」

田中、電話に出る

田「はーい、もしもし」

佐「ちょっと田中、あんた今なにしてんの?」

田「佐藤じゃん。チィーッス」

佐「呑気か! あんた今日の1コマ来なかったでしょ!」

田「1コマ? あー忘れてた」

佐「はあ!? 今日の講義休んだら単位落とすって言ったじゃない!」

田「おっまじ?」

佐「その様子じゃ3コマも行ってないでしょ」

田「3コマって何時からだっけ」

佐「昼の一時」

田「今じゃん」

佐「もう! このままじゃ4年で卒業できないわよ、分かってんの!?」

田「あーうん、分かってる分かってる」

佐「分かってない奴はみんなそう言うのよ」

田「良いんだって。単位は来年とればいいんだから」

佐「去年もそう言ってなかった?」

田「そうだっけ?」

佐「仕送り止められても知らないわよ」

田「うるさいな、お節介焼いてると老けるぞ」

佐「な、なんですって」

田「あ、もうババアか」

佐「このハゲーーー!!」

田中、大声にスマホを耳から離す。

田「じゃあなー!」

田中、電話を切る。佐藤、怒った様子で退場。

田「なんだよもう…あーあ、5000兆円ほしい」

勢いよくドンドン壁を叩く音

田「うわぁなんだなんだ物騒だなあ」

下手にセールスマン立つ

セ「田中様ぁ、お話を聞いてくださいませんかー」

田「セールスマンか? つーかインターホン使えよ」

セ「田中様、我が社でご契約いたしませんかー」

田「気味悪いな……うん、戸締りはしっかりしてるし、居留守つーかお」

セ「お邪魔いたします」

笑顔でセールスマン入場

田「嘘だろどうやって入った!?」

セ「田中様とお話がしたかったもので、つい」

田「ついって? 鍵閉めてたよな?」

セ「まあまあ、まずは私(わたくし)めの話を聞いてくださいませんか」

田「いいや、何がきたって買わないからな」

セ「とんでもない、私は田中様に買っていただけるものなんか持っていません」

田「は? じゃあお前何しに来たんだよ」

セ「買い取りに伺ったのです」

田「へえ、買うって。珍しいセールスマンもいたもんだな」

セ「ありがとうございます」

田「いや褒めちゃいないけど。で、何買ってくれんの?」

セ「田中様の人生でございます」

田中とセールスマン、見つめあう。

田「おとといきやがれ」

セ「お待ちください。なかなか悪い話でもございませんよ」

田「いや、オカルトに興味無いんで」

セ「あ、もしかして田中様」

田「なんだよ」

セ「オカルトなんて下らないものを信じておいでで?」

田「お前、俺のこと馬鹿にしてんだろ」

セ「まさか、私どもはホワイトな買い取り業者で通っていますので」

田「ホワイトもブラックもあってたまるか」

セ「ホワイトですよぅ、死に装束的な意味で」

田「やかましいわ。だいたい人生買って何に使うんだよ」

セ「流石田中様お目が高い!」

田「は?」

セ「私誠心誠意説明させて頂きます」

田「いや帰ってほしいんだけど」

セ「例えば、難病の少女が奇跡的に助かったとしましょう。ですが奇跡なんて本当に起こると思いますか? それこそオカルトでしょう」

田「そこは夢見せろよ」

セ「そんな奇跡の裏には、常に私どもがいるのです。他の方から買い取らせて頂いた人生を、奇跡を望む方々に売らせていただいているのですよ」

田「そんな中古のゲームみたいに言われても」

セ「資源は無駄なくリデュース・リユース・リサイクルでございます」

田「なにが無駄だって、なにが」

セ「私は今回、そういった方々へ人生を売らせていただくために、田中様の人生を買い取らせて頂きたいと思い、伺った次第でございます」

田「冗談じゃない。まだ死にたくなんかないよ」

セ「またまたご冗談を。人生を買い取らせて頂いても、田中様はお亡くなりにはなりませんよ」

田「どういうこと?」

セ「人生は誕生から始まり死亡で終わります。ですから私は田中様の人生を、死も含めて買い取らせて頂きたいと考えているのです」

田「じゃあ、もし俺が人生を売ったら、俺はどうなるんだ?」

セ「不老不死になります」

田「頭大丈夫?」

セ「私は常に真剣でございます」

田「だってねえ、さっきから嘘臭いんだよお前」

セ「いい話だと思うのですが。こんな、学生の身分に甘えて日々を浪費する生活なんて持っていても仕方無いと思いませんか?」

田「さっきからちょくちょく刺してくんなあこいつ」

セ「だって田中様、このまま親の財布を食い潰していても、いつか親はいなくなってしまうのですよ」

田「ふん。そんな説教利かな」

セ「収入源が無くなれば、あとは飢えてのたれ死ぬのみですよ」

田「その時は就職くらいするよ」

セ「ほう、田中様はクソニートを採用したい企業が存在するとお思いで?」

田「お前、俺を客だと思ってないだろ」

セ「勿論報酬は考えておりますよ」

田「んー、どれどれ」

セールスマン、紙を田中に渡す。田中はそれを読んでびっくりする。

田「えーーーーーー!!」

セ「どうでしょうか?」

田「えっこれ桁やばくね? なに? いちじゅうひゃくせんまん…」

セ「是非ご検討ください。それでは」

セールスマン立ち去る。

田「あ、ちょっと……あー、行っちゃったか」

田中、紙をじっと見たあとポケットにしまう。

田「失礼なやつだよな、俺の人生をあんな容赦なく無駄って言いやがって、この野郎」

ステージ上をうろうろする。

田「そんな、まさか俺の人生が無駄なんてそんなこと」

立ち止まる。

田「……無いよな? 大丈夫だよな?」

思い付いたようにスマホを手に取る。

田「ここは人に聞いてみた方が早いか」

田中、上手に移動して電話を掛ける。下手から佐藤が出てくる。

田「あ、もしもし佐藤?」

佐「なに、忙しいんだけど」

田「あーごめんごめん。何してた?」

佐「寝てた」

田「お、おう」

佐「そんで、何の用?」

田「んー、佐藤はさ、人生売ってって言われたら、どうする?」

佐「おとといきやがれ」

田「いやいやいや待って待って!」

佐「妄想に付き合ってる暇無いんだよね」

田「寝てたって言ってたけどね」

佐「じゃあね、今からでも講義行きなよ」

田「わーーっ、じゃあ質問変えるから!」

佐「なに、なんなの」

田「俺、人生無駄にしてないよな?」

佐「…フフ、あはははは」

田「あはははは」(二人して笑う。収束して)

佐「無駄に決まってるじゃない」

田「嘘だろ」

佐「授業料あと何年払うつもりよ」

田「ウッ」

佐「周りは就活で走り回ってんのに、あんたときたら」

田「グエッ」

佐「YOUは何しに大学へ」

田「ガハッ」(三段階で倒れる)

佐「退学どうでしょう」

田「うるせー! じゃあなんだ、佐藤も俺に人生売り払えっていうのか!」

佐「え、何の話」

田「いいわ、不老不死でも何でもなってやるよ!」

佐藤、びっくりして一瞬狼狽えてから

佐「待って!」

田「えっなにどうした」

佐「今からそっち行くわ」

田「はい?」

佐「どうせ暇でしょ? 部屋片付けといて」

田「あっはい」

佐「それじゃ」

佐藤、電話切って退場

田「なんだったんだろ」

座り込む。

田「一回整理するか。えっと、人生を馬鹿たけえ値段で買い取らせろって言われて、もし売ったら不老不死になるんだっけ。あれ、これ売るしかなくね? 一択じゃん。なんだよー…」

インターホンの音。

田「はーい、どうぞー」

佐「どうぞーじゃないわよ、さっさと鍵開けて」

田「そこは上手いこと入ってこいよ」

佐「無茶言わないで、窓から大量のムカデぶちまけるわよ」

田「こっっっわ」

田中、鍵を開けて佐藤を迎え入れる。

田「どうぞー」

佐「お邪魔しまーす…」

田中ドカッと座る、佐藤は部屋を見回してから座る。

佐「散らかってるわねえ」

田「急に来といて無遠慮だな。で、話は何だ」

佐「あ、そうそう。あんた、ほんとに自分の状況分かってる?」

田「分かってるよ。不老不死になるかならないかだろ?」

佐藤、天を仰ぐ

田「なんだよ」

佐「ぜんっぜん分かってない」

田「はー? お前だって分かんねえだろ、経験したんじゃあるまいし」

佐「あるのよ」

田「え?」

佐「私も人生を売ったのよ」

田「…え? 待って待って、佐藤は別に人生無駄にしてないでしょ」

佐「してるわよ」

田「え??? してないでしょ???」

佐「うるさいな、してるんだってば」

佐藤、リストバンドを外す。リストバンドの下は包帯が巻いてある。

佐「ほら」

田「……マジで?」

佐「嘘なわけあるか」

田「ぜんっぜん気付かなかった」

佐「まあ、隠してたからね」

田「俺に相談してくれても良かったのに」

佐「それができたら、こんなことしないわよ」

田「……そっか」

どちらも俯く

佐「そうじゃなくて、今はあんたの話。あのね、人生を売っても一応死ねるの」

田「えっなんで」

佐「要は契約を破棄するのよ」

田「はあ」

佐「あの胡散臭いセールスマン、ちょっと死にたいって思ったらすぐ様子見に来るから」

田「エスパーかよ」

佐「ね、どっちみち死ぬのよ。契約しても無駄だわ」

田「えーでも、死ななきゃいいだけじゃね」

佐「ハァ? 言っとくけど不老不死なんてなっても絶対死にたくなるからね」

田「そうなんだ」

佐「愛する人と出会っても、いつか相手は死んでしまう」

田「あーよく漫画であるやつ」

佐「歳を取らないのを怪しまれないために、定期的に引っ越しと改名をしなければいけない」

田「それはだるいな」

佐「最後に、基本的にどんな病気やケガを負っても死ねない」

田「…どんなものでも?」

佐「ええ、例え戦車に轢かれても」

田「こっっっっっわ」

佐「で、人生売ってから死ぬのって、契約違反でしょ? 死も一緒に売ってる訳だから」

田「まあせやな」

佐「だから、逆クーリングオフが起きるわけ」

田「…なに、なんて?」

佐「また同じ人生を売らなきゃいけないのよ」

田「わからなくなってきたぞ」

佐「平たく言うと、生まれ変わってまた全く同じ人生を繰り返すのよ」

田「え、別にラッキーじゃね?」

佐「あのねえ、あんたまたニートになるのよ。むなしくない?」

田「……むなしいわ。ずっと親の脛をかじり続けるんだもんな」

佐「しかもそれがエンドレスよ。前の人生を思い出すのは決まって契約したあとなんだから」

田「えっつらい」

佐「でしょ? 無理言わないから人生なんか売らない方が」

セ「お邪魔いたしまーす」

田と佐「うわーーーーー!!!」

セールスマンが突然入ってくる。田中と佐藤はびっくりして後ずさる。

セ「どうしました?」

田「い、いいいやなんでもないよ」

セ「ですよねえ、まさか佐藤様に営業妨害されてるなんて、まさかそんな」

佐「うっ」

田「バレてやがる」

セ「田中様~売っていただけませんか~田中様の人生を待ってる方がいるんですよ~」

佐「田中、売っちゃ駄目よ。終わらない地獄に落ちるのよ、絶対駄目だからね」

その後に、セールスマンと佐藤が同時に言う

田「やめろやめろ捲し立てるんじゃないよ」

セ「こんなに真剣にお願いしておりますのに」

田「お前はうさんくさいんだよなあ」

佐「田中~~~分かってるんでしょうねえ」

田「顔が怖いなあ」

佐「ほんとにやめなよ、絶対人生なんて売っちゃ駄目だか」

セ「佐藤様、バン」

セールスマンが佐藤に後ろから忍び寄って頭を拳銃で打つ。佐藤は倒れる

田「……お前、佐藤に何しやがった!」

セ「少し眠っていただいただけですよ」

田「眠った? 殺したろ、今!」

セ「まさか。第一、佐藤様は既に不老不死ですから」

田「だからってこんなこと」

セ「それよりも自分の心配をしたらどうです?」

田「は?」

セ「田中様、人生を売ってしまえば貴方はゼロになります。今までの失敗を捨て去って新しく生きることができるのです」

田「普通に生きてたって挽回はできるよ」

セ「普通に生きて本当に、挽回する自信はありますか」

田「そりゃないよ、ないけど」

セ「確かに多くの方は、特に変わらずそのうち死を望まれます。しかし別人として成功していった方々も少なくないのですよ」

田「…別人になった方が、いっそいいのかな」

セ「全て、貴方次第なんですよ」

田「俺次第、か……」

田中、考え込む

セ「田中様、人生を売ろうと売るまいと、そのままでいる限り貴方は死ぬまで変わることはできません」

田中、黙りこくる。

セ「だったらいっそ、売り払ってしまいましょうよ!必要のないものは、全て!」


一瞬暗転


田中、床に寝転がってスマホをいじっている。

田「昼の一時かー。なんか腹減ってないな…ヒマだな…」

田中はごろごろする。

田「でも外出るのはだるいんだよな…」

電話の呼び出し音が鳴る。下手に佐藤が電話を耳に当てて立つ。

田「んー? 誰だろ」

田中、電話に出る

田「はーい、もしもし」

佐「ちょっと田中、あんた今なにしてんの?」

田「うるさいな、お節介焼いてると老けるぞ」

佐「な、なんですって」

田「あ、もうババアか」

佐「このハゲーーー!!」

田中、大声にスマホを耳から離す。

田「じゃあなー!」

田中、電話を切る。佐藤、怒った様子で退場。

田「なんだよもう…あーあ、5000兆円ほしい」

勢いよくドンドン壁を叩く音

田「うわぁなんだなんだ、物騒だなあ」

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