今年の新しい春の話

春の悪魔

 3月に入り、今年も暖かくなってきた。


 しかし、油断は禁物だ。


 4月には寒の戻りがあり、また風も強くなりだ。


 身体から必要以上に緊張が解けてしまった状態でそれにかち合うと、間違いなく風邪をひく。


 また、“春風”そのものも危険である。


 春の暖かな風に当てられて、脳や神経をやられてしまう人も多くなる。


 風向きが南から流れ始めるごとに、感情が感染しやすくなると私は思っている。


 なんとなれば、心身がさまざまな面で弛緩し、言動が行き過ぎてしまうからだ。


 言葉、表現の体幹が弱くなるとでもいうのか、いわゆる心無い言葉が口をつく確率が増える。


 自然なことではある。開放的になれば、思ったことを何でも表に出してしまえば、控えめさや慎ましさは失われる。


 小さないざこざ、争い、いさかいが増える。


 うっぷんがおりとなって心に溜まり、それをまた口に出し、時として手も出てしまう。それらの表現が新たなぶつかり合いを生む。


 いつしか吹きすさぶ春の嵐が、まるで万人に感情を運んで感染させていくように見える。


 今はそんな季節だ。


 ゆめゆめお気をつけよ、友よ。


 対策としては、あまり外気に流され活動的にならんことだろう。調子に乗って、急に冬はやらなかった運動など始めたら身体を痛めるばかりだ。腹も減って余計にイライラしてしまうかもしれない。食事は必要不可欠だが、身体に不可避の炎症を起こす。食べ過ぎは胃腸に悪いということだ。あまり動かず、小食を心がけるのがいいだろう。


 口数も少なくだ。何か声を出したくなったら歌でも歌った方が良い。歌は言葉に砂糖をかける。その甘ったるさを毛嫌いする向きもあるが、剥き出しの娑婆はそれだけでスパイシーだ。なので私は歌う。春に風に雨に。


 物を書くのもいい。こんな風にネット上に公開するのではないぞ。自分しか読まないような文章を自分しか読めないような形で書くのだ。今日び流行らないが、紙に書くのがいい。書き終えたらくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨ててしまうのだ。なにか生化学的な作用があるのか、なにやらスッキリとした気分になれる。


 こんなところだろうか。


 それでは今年も、悪魔の潜むうららかな春を過ごされよ。

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