8. 看破する
話が長くなるのでさくっと俺がまとめると。
① 俺がエルフの里を離れ、エルフィリアが残ってからはしばらく平穏な日々が続いていたものの、一月ほど前に大火事が起きたのだとか。
② 普通であれば自然に止むのだが、どうやら人為的な魔術のせいで降雨が妨害を喰らったらしく、目立った雨が降らなかったために火災が長らく続いたらしい。
③ そうして森の南一帯が焼き払われたあと、エルフたちの目を盗むようにしてあちこちの木々が伐採され、森林の面積が減り続けている。
というわけだった。
火事も恐らくは原野火災ではなく人為的なそれであり、狙ったように発動した魔術は
「……事情は分かった。だが、珍しいこともあったもんだ。エルフの森をここまで伐採し尽くしちまう輩を未だに捉えられないとはな」
「……一生の恥である。ここ二週間、毎日のように探し回っているというのに……奴らの足跡までは見つけ出せるのだが、それを追っても犯人たちの背中が掴めんのだ。まるで途中から空でも飛んだかのように忽然と痕跡が消えてしまう……」
「まぁ、マナ濃度も高いしな……結構派手な魔法やら難解な魔法も偶発的に発動できちまうし、エルフを撒けることに気付いて味を占めた連中が本気でやらかしに来てるのかもしれねぇ……」
「異常なスピードで森が死んでしまっているのだ……このままでは、5年もすれば消滅してしまう……」
「…………マジ? そんなハイペースで狩られてるの?」
項垂れたエルフィリアが力なく首を振る。
寧ろ、その速度だったら確実に大規模な一斉伐採をしているはずで、見つけられないわけがないと思うのだが……。
エルフの視覚や聴覚は人間の数十倍とも言われているし、数キロ先の人間の顔や声まではっきりと区別できるほどだ。人間の声よりも大きな伐採音であれば確実にキャッチできるはず。
それが不可能……となれば、色々な前提を疑って然るべきだろう。
「阻止しなければならないというのに、犯人がどこへ行方を眩ますのか、まるで見当もつかん……どういうわけか伐採現場に巡り会うことが叶わないのだ。なにかの魔術でも組まれているのだろうか……」
「俺が協力できれば、と思ったんだがな……」
エルフィリアはいよいよ頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。
俺も俺で、どうすればよいのか具体的な解決策が浮かんでくるわけでもなし。参ってしまっているエルフィリアの姿を見下ろしながらも、こんなときにかけてやれる言葉すら満足に浮かんでこない。
「……まぁ、その可能性があるな……というより、確実にそうじゃろ。可能性もなにも、この足跡で幻惑されているとみて間違いない……それにな、これは質の悪い魔術がもう一つ仕込まれておる。この森だからこそ人間でも展開可能な術式といったところか」
「なんだなんだエリザベート。心当たりがあるって感じじゃんか」
「火事……と言ったよな、エルフィリアとやら」
「あ、ああ……本当に酷い火災だったのだ、あれは……」
「ならばどうして、我らがやってくるここまでの道のりに、枯れた木々はあったにせよ、燃えて炭と化した木々が欠片もなかったのだ? よもや運び去ったわけでもあるまい。となれば、この状況はこう捉えるべきであろう」
――あるべきはずのものがない、そう見えるように仕込んでいる、ということ。
「…………ま、さか」
エルフィリアが目を見開いた。
「つまりは幻術であり、それを補うための人払い。我らが見ているこの光景は、真実でも事実でもないというわけだ。幻惑の森とも言われるこの森で、なるほど少しは頭の回した小細工をするではないか」
「「…………っ」」
レオに稲妻、奔る!!
みたいな。いやまぁ俺も薄々そうなんじゃねぇかなって思っていたわけだけど、本当にそうだとは信じたくなかったわけなんだよね。なんでかって? そんなのは声にしなくてもわかっちゃうでしょ?
「さて……種明かしができたところで、事態は一刻を争う事態になってきたな。のう、勇者よ。索敵スキル開発とやらで索敵くらいは使えるようになっているであろう?」
「任せろ。それは旅をするうえで欠かせないもんだ。とっくに仕込んである」
言って俺は腕輪に『索敵』の宝玉をセットする。
「俺はどうすりゃいい」
「我が合図をしたら索敵を始めよ。敵はそう遠くにいないはずじゃ。範囲は広げんで良い。なるべく精確な位置を割り出すのじゃ」
「エリザベートはどうするんだ」
「これしきの幻術、難なく破ってやる。そして精確な位置を割り出したら、魔法でそこのエルフと共に敵の側まで射出してやろうぞ」
「頼りになるなぁ、元魔王……」
「なぁにこれしきのこと。改心しようとしているのだから、お主の仲間が困っているのなら手を差し伸べるというのが筋であろうよ……」
……いやほんと、まじで別人だよこのお方。
あまりの豹変っぷりにエルフィリアも目を点にしちゃってるしさ……。
「それでは打ち破ってみせるかの……」
エリザベートが虚空に指を古い、幾何学的な紋様を描いていく。
魔法のような詠唱ではなく、魔方陣や術式そのものに近いそれを綴り、綴り、幾重にも描き出していく。
つうか……知らんかったけど魔王って魔術まで使いこなせんのかよ……とんだチートステータスだな……
「太陽の子アポロンよ、天空より授かりし力を以て我が世界に真実を照らし出せ。天よりその矢を撃ち放ち、幻想を打ち砕いて全てを白日に晒してみせろ――来たれ神の矢、オラクル・レイ!!」
刹那、蒼天に煌めく太陽が燦然とした光を飛礫のように俺たちの目の前に降り注いで……見えない障壁にでぶち当たるかのように空中で次々と消失していく。その都度、ぴきっ、ぴきっ、と空間に亀裂が走り、大聖堂に掲げられた大仰なステンドグラスが割れるかのような大きな破砕音が鳴り響く。
そして俺たちの目の前にあった景色が粉々に砕け、そこに現れたのは――
「なっ…………」
「こ、これが…………」
焼け爛れた木々が折り重なっていまもなお黒煙を吐き出し、その彼方に映える景色が
「ぼけっとするなよ勇者。魔術を破ったいま、やつらが気付かないわけもない。早くサーチしろ」
「――わ、わかってる!! ――いた、ここから北北東の位置、距離にして二○○○!!」
「あたしも捉えたよ。どうやら四方八方に散る気配がするっ!!」
「はははっ!! 逃げ切れると思うなよ小童がっ! 主ら、準備は良いかっ!?」
「おうっ!」「ええ」
「それではいくぞ――ロック・スプレッド!!」
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