第47話 奪還作戦
AoB本部会議室。
「よもやファクター・ブラックを攫われるとはな……」
アーサー・ワンが声を低く呟く。
「俺が……俺も一緒に行っていたら!」
「もしもの話をしてもしょうがないよ聯」
そう諭すハク。だがしかし、この会議室に来るまでに二人は泣き叫ぶはじめの姿を目にしてしまっている。そのせいで怒りと悲しみが増しているのだ。
「まだ生きている可能性は高い……恐らく次のイレイザーの被検体は然君だろう」
「っ!」
衝撃が走る。イレイザーとなった然と戦わなければならない、そう考えるだけで気が重い。
その時、イレイザーが現れた事を示す警報が鳴り響いた――
時間は少し巻き戻る。
真白の部屋、真ん中に横一文字に口を開いた箱が存在していた。
「俺はイレイザーにはなれねぇぞ……耐性があるからな……」
ロープで縛られ動きを封じられた
「ええ勿論、知っていますとも、AoBのファクターには白紙化現象に対して耐性がある事くらい」
「じゃあどうして……」
「一つは、あなたのタイプ:ライターです。これで私のタイプ:ライター・バックスペースを強化出来る。そしてもう一つは、あなたの耐性は不完全だという事です」
「……っ?!」
思わず歯噛みする然。それを見てニヤリと笑うサード。
「図星ですね? 大方ファーストの細胞でも使っていたのでしょう……ですが、その隙をつけば?」
「まさか、本当に俺をイレイザーに……!」
「ええ! ええ! その通りです!」
サードよりも身長の大きな然を抱え箱へと運ぶサード。
「これが……観測封鎖装置BOX……!」
必死に身じろぎして暴れる然をものともせず箱の中の椅子に座らせるサード。
「では良いイレイザーになって下さいね……良い夢を……」
時間が今へと巻き戻る。
現場は河川敷、川までもが白紙化現象に飲まれ白くなっていた。
「此処に先輩が……?」
「間違いなく……いたわ!」
そこにいたのは一体のマネキンだった。しかし、完全な白ではない。白と黒がマーブル状になって混ざりあっている。ノズル状の頭が唯一それが現代芸術の類ではなくイレイザーだと知らせてくれる。
「間違いない……先輩だ」
デュアル・タイプ:ライターを手に巻き付け念じる。
『overwrite』
『OK overwrite to the factor』
そこに現れるのは虹色の戦士、マントを靡かせ剣と盾を携えた勇者然としていた。
『これがファクター・デュアル! 子の力ならきっと先輩を救える!』
「聯、頑張って……!」
『おう!』
ひとっとびでマネキン型イレイザーの前に着地する。するとイレイザーに変化が現れる。まるでこちらを真似するように腕を変形させ剣と盾を生み出したのだ。
『コイツ意思があるのか……?!』
「違うわ聯! ただ無意識に模倣しているだけ惑わされないで!」
『……ああ! 分かった!』
剣で斬りかかる。相手も同じく鏡合わせで剣を振りかぶる。剣と剣がぶつかり合い火花を散らす。
『コイツ硬いぞ……!?』
最新式のデュアル・タイプ:ライターの性能に追いついている。生半可な敵ではない。
何回か斬り結び隙を探る。しかし全く同じ動き、同じ速度、同じ力で応じてくるため全く隙が生まれない。
『gun』
銃を生み出せば相手も同時に銃を生み出してみせた。銃撃が空中でぶつかり合う。
『レスポンス差がこっちの方が早くなったんじゃないのかよぉ!?』
デュアル最大の利点を潰されたファクター。今度はbombを大量に生み出す。すっかり癖になっている自爆作戦だ。虹色の文字列が乱舞する。しかし相手も自らを爆弾に変えて爆発しそのダメージを相殺する。
『いや自爆した時点ダメージがあるはずだろ! なんでピンピンしてやがる!?』
「聯、落ち着いて!」
ハクの言葉でなんとか平静さを取り戻す聯。次なる手を打つ。
『big sword』
巨大な剣を生み出す、これは流石に真似できまい。そう思っていた聯だったが。そこには全身を剣にしたイレイザーの姿があった。なんの力を使っているか分からないまま浮いてこっちの巨大剣と斬り結ぶイレイザー。
『なんでもありかよ……』
「……! 待って聯! 何でも真似するとしたら!」
『え? 真似するとしたら……! そうか!』
『restoration』と念じるファクター、暖かな光がイレイザーを包む。するとどうだイレイザーからも暖かな光が漏れ出てくる。
『初めから戦う必要無かったんだ……先輩』
地面に倒れ伏す然。。急いで回収に向かうファクター。
しかし、そんな彼の腕には……。
『タイプ:ライターが無い……! 奪われたのか!』
「まずいことになったかもしれないわね……」
敵のタイプ:ライター・バックスペースが更なる進化を遂げる。この戦いもどこかで見ているのだろう。まだ不完全と分かったデュアルの弱点も見られてしまっている。
『次、サードがファクターに変身した時……』
「聯……?」
『俺は勝てるだろうか……』
ファクターを解除して聯は、ただ茫然と日が暮れていくのを眺めていたのだった。
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