第42話 送別会


「今日はみんなありがとう~!」

 とある有名チェーンのファミレスにて行われた大華未来の送別会。涙する者もいれば、笑って見送る者もいた。誰もが彼女を信じていた。

 そしてファミレスで現地解散となり一人となった未来。その後ろから声がかけられる。

「よお、サード。学校生活は楽しかったか?」

 なぜかチンピラ口調の聯、鬱憤でも溜まっていたのだろうか。

「こんな闇討ちみたいな形になっちゃってこっちも不本意なんだけどね」

 ハクは呆れた様子で聯をフォローする。そんな二人に未来は――

「ハクちゃんに聯君! 会いたかったんだよ! 送別会来てくれたんだね!」

「本当は来る必要もないだろ、そっちからこっちの学校に来るんだからな」

「ありゃ、バレてたか……てへへ」

「三文芝居はやめなさいサード。いい加減その化けの皮、はがしたらどうなの?」

「……んー、、さすがにここが限界かなぁ……白髪カップルの行く末を見届けたかったん

 白い文字列が大華未来から剥がれ落ちていく。ボロボロと、ボロボロと。そこから現れたのは軍服姿の少年だった。

「さっさとケリつけようぜ」

 ――overwrite

『OK overwrite to the factor』

 文字を打ち込むとタイプ:ライターの電子音声が流れ出る

「仕方ありませんね」

 ――overwrite

『OK overwrite to the factor』

 白いタイプ:ライターに文字を打ち込むサード、彼のタイプ:ライターから低音の電子音声が鳴り響く。

 黄金の騎士対――

『その姿は!?』

 聯は驚愕する、それは相手が自分と同じ意匠を身に纏っていたからだ。

 違うのは色だけ、さしずめ白銀の騎士。

『タイプ:ライター・バックスペースには情報収集システムと自己進化プログラムが内蔵されているんです。持ち主に合わせ、状況に合わせ力を変化させるようにね』

『力は互角って事か……構わないさ、俺は勝つ!』

『互角とは思わない事です、こちらのが上だと証明してみせましょう!』

 駆け出す二人の騎士、ぶつかりそうになった瞬間殴り合う。その超速の激突に地面のアスファルトにヒビが入り、突風が巻き起こる。

『attack』

 黄金の騎士が意匠の一つを触る。赤いオーラを身に纏う。

『rapid』

 白銀の騎士が意匠の一つを触る。青いオーラを身に纏う。


 加速する白銀の騎士。ファクター・ホワイト。その速さで黄金の騎士、ファクターを翻弄する。

 しかし動じないファクター、一撃をホワイトに向けて放つ。それだけで衝撃波が辺りを席捲した。

 吹き飛ばされたかのように見えたホワイト。しかしそれらは全て残像だった、後ろから本体が迫る。

 迫りくる手刀、しかしそこで。

「聯! 後ろ!」

 ハクの声が飛ぶ。ファクターは後ろを振り返らずに、手刀を後ろ手に受け止めてみせた。そのまま握りつぶす勢いで掴んだ手に力を込める。

『ぐっ!』

 苦悶の声を漏らすホワイト。ファクターは冷静に後ろを振り返る。

『俺はまだ本気を出して無いぞサード……さあどうする?』

『ならば!』

『copy』

 意匠の一つに触り能力を発現するホワイト。

 現れたのは――

『もう一人の……俺!?』

 黄金の騎士がもう一人、赤いオーラを纏ってそこに居た。偽のファクターから本物へと強烈な一撃が見舞われる。驚愕と、片手でホワイトを押さえつけていた事もあって不意打ち気味に、その一発はファクターの顔面を捉えた。

 ホワイトから手を放してしまうファクター。敵はホワイトと自分自身……。

 一気に不利な状況へと追い込まれる。

『もう手加減は無しだ』

 意匠の一つを触る。『special』黄金のオーラがファクターから発せられる。

『ではこちらも』

 ホワイトも意匠の一つを触る。『special』白銀のオーラがホワイトから放たれる。

 さらに。

 『special』

 偽物のファクターもまた黄金のオーラを纏う。

『そんなのありかよ……!』

『これこそ、タイプ:ライターの力……でしょう?』

 本物のファクターは思わずもう一つの意匠、その一つに触る。

『world』

 すると辺りが文字列で囲まれていく。ハクがその外へと押しやられる。

「ちょっと聯!?」

『悪い! 周りに被害を出すわけにはいかないから!』

 三体のファクターを文字列の半球体が覆いつくした。

『お優しい事で……確かに、この後の戦闘は、以前とは比べ物にならないほどの被害が出るでしょうね……』

『だからここなら本気でやれる……』

 オーラを纏ったファクター達がぶつかり合う、二対一。絶望的な状況で聯は笑っていた。

 殴り飛ばされる聯。しかし立ち上がり意匠の一つを触る。『bomber』ファクターの最大火力を連射出来る状態。爆撃を一気に相手に放つ。しかし加速状態のホワイトには当たらない。偽物のファクターにそれは当たる。しかしダメージが少ないように思える。

(違う、中に人間が入っていないからだ。ダメージを与えても痛みで怯んだりする事がないんだ!)

 さしずめファクター・ドールと言ったところか。人形に痛がる神経などない。

 ドールとホワイトが同時にこちらへと攻撃を仕掛けてくる。

 一気にファクターの後ろに回り込んだホワイトと前から走りくるドールによるサンドイッチラリアット。

 横に躱そうとしても追尾される。動きの襲いドールの方を狙おうにも後ろが既に近距離にまで迫っている。

『仕方ない……ッ!』

 意匠の一つを触る。『gate』ファクターの足元に、扉が開くように穴が開いた。落下するファクター。そして閉まる扉。ホワイトとドールは互いの事を躱しきれずに激突してしまう。

『どこに行ったんです!?』

 返事は無い。辺りを見回すホワイト、その時だった。

『はっ!?』

 いつの間にかドールの姿も無くなっている。地面にうっすらと見えた閉まる扉の姿。

『引きずり込まれた……!? 一体ずつ処理するつもりか!』

 

 ゲート内部。

 真っ黒な空間。聯の一番落ち着く空間だ。そしてこの空間内ならば、全てがファクターの有利に働く。この暗闇ではファクターからドールの姿は見えても、ドールからファクターの姿を見る事は出来ない。

 発動させ続けていたボンバーで一気に爆撃を放つ。どこからともなく現れる一撃にドールは対応出来ずただ一方的にやられていく。

(こうして自分の姿をした奴をいたぶるのってなんか心に来るなぁ……自分がやられてみたいだ)

 だが攻撃の手は緩めない。徐々にドールの姿がボロボロと文字列へと崩れてゆく。

『これで終わりだッ!』

 最後に決めるのは拳の一撃、相手の胸の中心目掛け殴り抜けた。

『決まった……!?』

 敵を見事貫いたはずの腕が抜けない。ドールが両手でファクターの腕を掴んでいる。

 そして不規則に震えだすドール。様子がおかしい、ただの崩壊じゃない。これは――

『まさか自爆――』


 ホワイトはworldから脱出できまいかと色々と試行錯誤していた。しかし同じ出力で放たれたそれを突破するにはかなりの時間を要しそうだった。

 その時だった。地面から火柱のような文字列が吹き出し、そこからファクターが飛び出してきた。

『どうやら自爆特攻が見事決まったようですね』

 地面をゴロゴロと転がる焼け爛れたファクター。しかし彼はまだ立ち上がる。

『相当のダメージ負っているご様子……そこでどうでしょう? 提案なのですが、今回はここで手打ちにしませんか? 私もまだやりたいことがあるのですよ』

『誰が……テメェの実験なんか……進めさせっかよ……』

『残念です……ではここで死んでください』

 ホワイトが加速から蹴りを入れる。思わず吹き飛ばされそうになるのを踏ん張って堪えるファクター。

 今度は返す刀でホワイトの腹に拳を見舞うファクター。ホワイトも堪える。そこから殴る蹴るの応酬だ。一切手加減のない。地獄の連撃。

 その時、ファクターの足がふらついた。その一瞬を逃さないホワイト。意匠の一つを触る。『beam』光線がファクターを捉えた。

『あ、ああああああああああああああ!?』

 灼けていくファクター。このままでは溶けてしまう!

 その時だった。worldの文字列の囲まれて誰も入れない場所に亀裂を開け侵入してくる者が一人。

 光線とファクターの間に入りそれを防ぐ。防ぐどころか跳ね返してみせた。

『誰ですか、一体!?』

『俺を忘れたか?』

 黒鉄の騎士甲冑。アルファベットの意匠。その姿はファクターやホワイトと同じ……。

『……先輩?』

 ファクターが薄れていく意識の中で呼んだ。

『お、こっちはちゃんと覚えてたみたいだな。ボロボロじゃねーか。後は俺に任せておけ』

『あなたがファクターに復帰したなんて情報、入っていない!』

『極秘事項だったからな! 部外者のお前が知るわけねぇだろ!』

 ファクター・ブラックが意匠の一つを触る。『special』

『最初から本気で行くぜぇ!』

 ファクターが、聯が認識出来たのはそこまでだった……。

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