第40話 振り出し


 翌日。

 ホームルームにヤツは現れた。

「じゃあ出席を取るぞー。吾田あがた……」

 いつもと同じ振る舞い。変わった様子はない。

 出席を取り終えると、みんなに向き直って話始める。

「最近、白紙化現象の避難訓練が多いのは知っているな? 一時は収まったかに見えた白紙化現象だが、その脅威は去っていないという事だ。みんなくれぐれも注意するように」

「でもよー、センセー。実際、白紙化現象なてもんに遭っちまったらどうすりゃいいんだよ?」

「逃げろ、とにかく遠くに逃げろ。規模が小さければそれで乗り切れるはずだ」

 とうとうと話す鬼島。まさかクラスメイトもこの教師本人が、その白紙化現象を引き起こしている張本人だとは分かるまい。

 ホームルームが終わる。

 聯とハクは教室を出ていく鬼島を捕まえる。

「先生、これからちょっと話聞いてもらえませんか?」

「どうしたんだ二人して……これから授業だぞ?」

「お願いします」

 真剣に相手の目を見つめる……いや睨みつける。

「……分かった分かった。だからそんなに怖い顔をするな……そうだな、屋上のテラスでいいか?」

「はい」

 そこが決戦の場になるのだと、聯はそう思った。


 屋上。

「それで話って?」

 テラスの椅子に座り話す鬼島。

「先生は昨日、白紙化現象が体育館で本当に起こった事を知っていますか?」

「なんだ藪から棒に」

「昨日、確かにイレイザーがそこに現れた。そしてその場所に、その直前に、あなたが向かったと美藤が証言しています」

「……なるほどね」

 しばらく考え込むような仕草を取る鬼島。そして何か思いついたように指をパチンと鳴らした。

「二人して俺を脅かそうって魂胆だな? そんな事してもテストの間違いを見逃してやったりはしないぞ?」

「サード! いい加減、正体を現せ!」

 聯は痺れを切らしたように叫ぶ。

「サード? そりゃなんの事だ……しっかし美藤の奴も変な事言うよなぁ。俺は

 ハクと聯に衝撃が走る。その話が本当なら、サードの正体は……。

「どういう事ですか、だって体育館に忘れ物したって言ったんじゃないんですか?」

「言ったよ? でも取りには行かなかった。いや行けなかった避難訓練が始まってしまったからな」

「じゃああの住所は? 先生の家に行ったら空き地でした!」

 動かぬ証拠だ。しかし――

「ああ! しまった。引っ越ししたのに学園に伝えるの忘れてた!」

「「はぁ!?」」

「いやぁ、元々ボロい家でさぁ……」

 おかしい、どこで間違えた。これじゃ振りだしに戻っただけだ。

「お前らが何探してんのか知らないけど、白紙化現象には近づくなよ……危ないんだから……」

 そう言って鬼島は屋上から出ていった……。


 屋上に残った二人。途方に暮れたような顔つき。

「はあ、後は誰を調べればいいんだ……全校生徒調べ回ってたら留年しちまうぜ……」

「まだ一人、調べてない人がいる」

「……いたっけ?」

「乙女のデリカシーとかプライベートとか言ってる場合じゃないわ!」

 ガタッと椅子から立ち上がるハク。

「もしかして未来の事か?」

「そう、トイレに行ってたっていう本人の証言しか取れてない」

「本人だけっていうんなら箕島もそうだろ?」

「それは……そうだけど……」

 しゅんとなって椅子に座るハク。

「手詰まりだな。そもそも本人に直接聞いたところでミステリー小説みたいに『そうです私が犯人です』なんて言うわけないんだよな……」

「何か……犯人を炙り出す方法があれば……」

「イレイザーが出てないのに避難訓練の放送をしてみるとか」

 唐突に聯が言い出す。ハクは胡乱な目で聯を見つめた。

「何それ、意味あるの?」

「いやだって、自分が動いていないのにそんな放送があったら、同様して尻尾出すかなぁって……ダメか」

「サードもそこまで阿呆じゃないと思うわ。罠だと疑ってかかるはず……」

「サードだけ引きずり出せればいいんだろ……そうだ!」

「また変な事思いついたんじゃないでしょうね……」

「ハク! 二人で転校しよ――」

「却下。そんな事してもまた姿を変えてついてくるだけよ」

「その瞬間を狙うんだよ、俺とハクの二人、そしてサードに成りすましてるヤツ三人が転校する事になる……その瞬間を捕らえる!」

「……転校届を出した奴がサード?」

「そういう事!」

「はぁ……一か八かね……ワンに掛け合ってみる」

「頼む!」

 こうしてサード捕獲作戦は最終段階へと入ったのだった。

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