第38話 アリバイ


「あの時点でアリバイが無かったのは未来、香蓮、戒の三人……意外なメンバーね」

「学級委員の二人が避難訓練の時にいないもんだからクラスはちょっとしたパニックだったらしい……」

 聯とハクが放課後、屋上のテラスで話を進める。

「で、どう? ファクターの勘でこの三人から犯人が分かりそう?」

「いや、それは流石に……」

「未来はトイレに行ってたの一点張りだったけど……それじゃ証拠にならないわよね」

「でもそれ以上追求するのも……」

 相手は女の子だし気が引ける。

「それもファクターの勘?」

「あんまり意地悪言わないでくれハク」

「ふふっ。ごめんなさい。ファクターの勘って言葉がなんとなく面白くて」

 しばらく考え込む二人。そこで聯が言葉を紡ぐ。

「でも未来も嘘は言っていないと思う……勘だけど……」

「じゃあ容疑者は学級委員の二人? でも、そんな目立つような事をサードがするかしら」

「目立つような事って……ああ、避難訓練に学級委員が不在だったって事か」

「その通り、その行動はあまりに目立ち過ぎる」

「それでも二人に事件直前、どこに居たのか聞かないとな」

「どちらかがサードだった場合正直に話すとは思えないけどね」

 そうして二人は学級委員の二人の下へと向かった。


 教室、何やら教卓の上で書類を整理している香蓮を見つける。

「あれ? 二人揃ってどうしたの?」

「いやちょっと香蓮と美藤に聞きたい事があって……って戒はいないのか?」

「あはは、学級委員がいっつも二人一緒にいるわけじゃないよ?」

 二人はいつも一緒みたいだけど? みたいなニュアンスが含まれている気がしたのはきっと聯の気のせいだろう。きっと。恐らく。

「ねぇ避難訓練の時、みんなと一緒にいなかったって本当?」

 ハクが切り込む。

「ああ、その話……実はちょっと具合が悪くて保健室に……」

 ! 気になるワードが出てきた。保健室はすでに調査済みだ。もし本当に香蓮が保健室に行ったのなら箕島が悪態の一つくらいついてもおかしくない。

「保健室には箕島君がいたけど……どうして香蓮はいなかったの?」

 それに今こうして元気そうに作業している。

「それは……実は途中で治っちゃったけど戻るのも恥ずかしいなーって思って避難訓練から戻る列にはこっそり合流したんだよ~」

 えへへと恥ずかしそうに笑う香蓮。しかしそれではアリバイの証明にはならない。

「その間、誰かに会ったりしなかったの?」

「ああうん、美藤君に会ったよ、列に戻るよう言われた。私を探してたみたい」

 ……だいぶ二人の過ごしていた時間が把握出来てきた。もし言っている事が本当ならば多少なりとも犯行可能な時間が削られてくる。

「ねぇ……もし……」

 ここでハクは本当の事を切り出す気だ。だが聯は焦る。本当に良いのだろうか、学級委員のどちらかが犯人、それが正解だろうか。その時だった。

「ああ、あと鬼島先生も見かけたよ、どこかの方に用事があるみたいだったけど。美藤君も見てるはず」

「!?」

 ハクと聯は二人して驚いた。しかし言われてみれば何も生徒だけに犯人候補を絞る必要はない。

「美藤はどこに居るかな。その話詳しく聞きたい」

「えっと戒君ならトイレじゃないかな、もうすぐ戻ってくるんじゃない?」

 その通り、ちょうど教室に入ってくる美藤の姿を捉える。

「美藤! 避難訓練の時、体育館に行く鬼島先生を見たってのは本当か?」

「なんですかいきなり……ええ本当ですよ、直接本人から『体育館に忘れ物をしたから取りに行く』と聞きましたから」

(ビンゴ!)

 これで犯人は確定した。聯とハクはうなずき合う。次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴る。しかしそれを無視して二人は教室を飛び出した。

 それを美藤が注意したが聞く耳を持たなかった。

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