第36話 尻尾


 対イレイザーの緊急警報が鳴り響く。生徒達は先生の指示に従って避難を始める。聯とハクはそれに逆らうように動く。

 ――overwrite

 生徒が誰もいない場所で変身する。その姿は黄金に包まれ、アルファベットの意匠が施されたあの姿だった。

『これが新型ファクター……よし!』

 イレイザーが出現した体育館へと乗り込むファクター。

 そこに居たのはバッタのようなイレイザーだった。

 見た目通り蹴りの威力と加速力は強そうだが、今のこの姿ならば充分に勝てるだろう。しかし注意しなくてはならないのは、敵はタイプ:ライターに狙いを定めているという事だ。

『キチチチチッ』

 敵の行動に注意しながらハクにとある疑問を呈する聯。

『この前に体育館に居た人間が犯人だと思うか?』

 ハクから通信で返答が来る。

『いいえ、今日、今の時間、体育館を使う授業は無かったはずよ』

 謎は深まるばかりだ。もしかしたらイレイザーを時限性で仕掛けているのかもしれない。そこまで考えた時だった。ファクターに向かってバッタ型イレイザーがかっとんでくる!

 もろにその突進を喰らうファクター。しかし大したダメージを負った風ではない。

『こんなもんか……いやそれとも』

 超近距離から殴り返すファクター。その一撃でイレイザーが思い切り吹き飛ぶ。

 ひっくり返ったイレイザーは手足をバタバタさせて動けないでいる。

『俺が強すぎたか』

『かっこつけてるけど、新型タイプ:ライターの性能だからね?』

 ハクからのツッコミ。思わずうぐっとなる聯。

『やっぱり性格変わってませんかねハクさん……』

 イレイザーが起き上がる。しかし構わない。身体のアルファベットの意匠を触りそれぞれの効果を発揮させていく。

 加速し、攻撃力を上げ、装甲を追加し、武器を持つ。

 その一瞬ののち、イレイザーの後ろに回り込んだ。

 イレイザーの強力な蹴りが迫る。追加された装甲が吹き飛ぶ。だがダメージはそこまで生み出した文字で作られた剣をバッタの後ろから突き刺す。

 アルファベットの意匠「F」に触れる。

『finish』

 剣から凄まじい光が放たれる。いやそれは光輝く文字の奔流だ。内部にそれをぶち込まれたイレイザーは爆発四散した。

 光が収まった後、残ったものは何もない。

 ファクターの変身を解く。

「この時間、アリバイが無い奴が犯人ってのはどうだ。保健室に行くフリをして此処に来たとか」

 聯が自分の考えを口にする。

「それも考えた方がいいかもね」

 ハクは至って冷静だ。あらゆる可能性を考えている。

「後は時限性のイレイザーの卵みたいなのがあるとか?」

「それは無い。そんなものがあったとしてもイレイザーとしてキチンと解析課のレーダーに反応があるはず」

「そっか……でもそれなら犯人捜しは楽になるな。この体育館にこの短時間に近づいたヤツ。近づけたヤツが犯人って事だ」

「そうなるわね……そういえば……」

「? どうした」

「箕島君が保健室で寝てくるってクラスを出てた……けど」

「そりゃいつもの事だろう? って言っても調べなきゃダメかなやっぱり」

「うん、調べた方がいいと思う」

 こうして二人の刑事ごっこが始まったのだった。

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