第28話 ハク


 手術室の周りは散々な有り様だった、白の洪水、白に染まり平面と化したフロア。その真ん中にハクが浮いていた。彼女は宙に浮いていた。

『ハク……?』

『私の名前はCreate And trash……全てを消して新たに世界を作り上げる……そう神と称されるモノ……』

『違う! お前はハクだ! 俺の相棒で! いつも助けてくれて! コンビニスイーツ持って来てくれるハクだ!』

『ハクという人格はもう既にボックスに封じてある……ここに在るのは観測を停止し世界を塗り替える力そのもの……』

 ファクターは拳を握りしめる。

『力づくでも、お前を元に戻して見せる!』

 手始めにハクから繰り出されたのは白の洪水。しかしそれをファクターは真正面から受け止める。

『ほう……』

『今の俺は無敵だ!』

 ハクの下に駆け寄るファクター。その手を取ろうとする。しかし届かない。白い光線が飛んでくる。それを躱し再びハクに触れようとチャレンジする。

『いくらやっても無駄だ。もうハクとい人格は戻らん』

『うるせぇ! ハクは絶対に返してもらう!』

 白と黄金が交差する。その戦いは熾烈を極めた。全く近づかせようとしないハク。一歩一歩、確実に距離を詰めるファクター。白紙化現象を操るハクに対して。文字を打ち込んでそれを相殺するファクター。もう少し、あと少しで手が届く。

 その時だった。

「邪魔すんなって言ってんだろ馬鹿息子ォ!」

 気を失っていたはずの糺が現れる。相手が邪魔なのはファクターも同じだ。

『今お前の相手をしてる場合じゃないんだよ!』

「そう冷たい事言うなよ……オラァ!」

 自らの身体を引き裂いた糺、そこから大量のイレイザーが出現する。

『こんな時に!?』

 大量のイレイザーを一匹ずつ相手しなければならなくなったファクター。その間にもハクは遠のく。

 ファクターは体の意匠の一つ「b」を触る。

『bomber』

 爆撃が室内を包むイレイザーを一掃する。

「チッ、これじゃ数が足りねぇか……ならもっと!」

 さらに自らの身体を引き裂きイレイザーを増やそうとする糺。そこに――


 バァン!


 一発の銃声が鳴り響く。そこに居たのは銃を構えたアーサー・ツーだった。糺の胸から血が溢れ出す。

「隙だらけっすよ博士」

「若林ィ! テメェもかぁ!」

 糺の身体から現れようとしたイレイザーは形を崩し消え去っていく。

『ツーさん、ありがとう!』

「良いから、ハクちゃんを助ける!」

 言われるがままハクの下へと駆け寄るファクター。

 白白白白白白白……トラウマを刺激されそうなほどの圧倒的な白。しかしもうトラウマなど関係ない。ハクの事しか聯の頭の中にはなかった。

 白をかき分け、ひたすらハクの下を目指す。

『しつこいぞ人間。もうこの世界の時代は終わったのだ。諦めよ』

『世界とか時代とか関係ない! お前を救いたいんだよハク!』

『……!』

 一瞬、ハクの動きが止まる。その隙を逃さない。

 身体の意匠の一つを触る。それは「F」

『full throttle』

 加速する、最大速度。もうハクも逃れられない。その手を、掴んだ!

「……あ」

 ハクの意識が戻る、宙に浮いていた身体が地面に落ちる。

『ハク! ハク! 大丈夫か!』

「うん、大丈夫……聯のおかげ……ねぇ聯。この手、絶対に離さないでね」

 ファクターを解除する聯。

「ああ絶対に離さない、一生離さない」

「~~ん。それって告白?」

「そうかもしれない。いやそうだ。俺はハクが好きだ」

 ハクは顔を真っ赤にする。聯の顔もきっと真っ赤だ。

「私も、聯の事が好き」

 思わず聯はハクを抱きしめた。そしてそのまま手の甲にある意匠の一つを触る。それは「R」

『restoration』

 タイプ:ライターの電子音声が鳴り響き、暖かな光が二人を包み込んだのだった。

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