第23話 マスターロット・シックス


『イレイザーの反応を検知!』

 スピーカーからAoB本部内に鳴り響くハクの声。れんは急いでヘリポートへ向かう。そしてヘリの前でハクと合流し共に乗り込む。これはもう決まった事だった。ワンは最初は難色を示していたが。渋々許可をしてくれた。

 

 現場にたどり着く。質素な商店街といった場所にソイツは居た。真っ白な甲殻、大きな顎、六本足のその姿は巨大なクワガタといった風だった。

『普通のイレイザー?』

 既にファクター、ヴィクトリーフォームに変身している聯は不可思議に思う。しかしクワガタにしては巨大過ぎる。

『チッチッチッ、俺をそんじょそこらのイレイザーと思われたら困るねぇ……今までのマスターロット共違う。俺は強いでぇ?』

『うるせぇ、速攻で片付けてやる!』

 ――sword

 タイプ:ライターに文字を打ち込む。逆Ⅴの字の光剣を手に距離を詰め斬りかかる。しかし。

 ガキィン!

 敵の大顎がその剣を捉えてしまう。

『オラァ!』

 そのまま投げ飛ばされるファクター。商店街のシャッターに叩き付けられる。

『グッ、コイツ硬い……!』

 だったら、とタイプ:ライターに文字を打ち込むファクター。その一瞬の隙をイレイザーは逃さなかった。本当に一瞬だったというのに羽を広げ急加速してファクターへ突っ込んでくる。

『ガハッ……』

 大顎に挟まれギリギリと締め付けられるファクター。思わず苦悶の声を上げる。

『目の前で文字を打ち込むなんて隙、見逃すわけあらへんやろ! それが今までの奴との違いや!』

「聯!」

 銃でイレイザーを撃つハク、もちろん効果はない。敵の気を逸らすためだ。

『そないな豆鉄砲効くわけあらへんがな!』

 なおもギリギリギリとファクターを締め付けるイレイザー。ファクターは締め付けられた身体からなんとか腕を曲げてタイプ:ライターに手を伸ばす。締め付けが強くなる。身体が真っ二つになりそうな激痛に襲われながら、なんとか届いた手で文字を打ち込む事に成功した。

 ――bomb

『自爆かいな!?』

 大顎を開き、ファクターから距離を取るイレイザー。しかし爆発は起こらない。

『なっ!? ブラフ!?』

『これでも……喰らえ!』

 地面に落とした爆弾を拾い投げつける。大きな横っ飛びでそれを避けるイレイザー。爆風が起き文字が乱舞する。完全にイレイザーを捉える事は出来なかった……が。

『アチチチッ、足が焦げてしもたやないか!』

『上々!』

 ――gun

 光線銃を構え狙いを定めるファクター、撃つ。光の速度にはさすがの高速のイレイザーも対応出来ない。その装甲にダメージが蓄積されていく。

『痛っ。イテテッ! こりゃいかんわ! だったらこっちにも考えがあるで!』

 羽を開く、そしてそれを振るわせた。

 キィィィィィィィン。と甲高い音が鳴り響く。音波攻撃だ。辺りのモノにヒビが入る地面の煉瓦がめくれ上がる。

『クソッ、虫の詰め合わせかよ!?』

「れ、聯! silentって打ち込んで!」

 両耳を押さえながらハクが叫ぶ。言われた通りに打ち込む。

『OK silent start』

 するとsilentの文字列がぶわぁと辺りに広がり音波攻撃とぶつかり合い。

。打ち消していく。

『そないなアホな!? ファクターちゅうんはなんでもありか!』

『文字で打ち込める範囲はな!』

 ――victory

『OK victory strike start!』

 タイプ:ライターの電子音声が鳴り響く。Vの字が四方八方から刺又のようにその形を利用してイレイザーを捕らえてゆく。

『なんやこれは?!』

『これで終わりだ!』

 ――finish

 タイプ:ライターに打ち込んだ。空中にⅤの字が現れる。そこまで飛び上がるファクター。斜めにドロップキックの体勢を取る。Ⅴの字も同じく傾き回転する。

『OK victory finish!』

 斜めに加速してイレイザーへと突っ込むファクター。そのまま蹴り抜けてみせる。

『なんで……やねん……』

 爆発。文字が舞い散っていく。残されたのは派手な柄のシャツを着た青年だった。


「これで四人目……まだファクター・ホワイトも。ファクター・ブラックの所に居るファーストってヤツも残ってる」

 聯はファクターを解除し一人ごちる。

「でも二人なら大丈夫。そうでしょう?」

 ハクがコンビニのレジ袋を持ってやってくる。そういえばいつの間に買っているのだろう。まさかストックしてあるとか? 聯は疑問に思ったが口には出さないでおいた。

「ああ、そうだな。今回も助けられた。ありがとう」

「こっちこそ、世界を救ってくれてありがとう」

「まだ世界は救ってないだろ。まだ親父だっているんだし……」

「それでも聯はこの商店街って世界を守ったんだよ。それは誇っていい事だよ」

 面と向かって言われて照れる聯は後ろ頭を掻きながらレジ袋の中を漁る。

「お、今日はプリンか」

「いつもバリエーションには気を配ってるからね」

 そうだっただろうかという言葉を飲み込み、そのままプリンを食べる聯。

(世界にイレイザーなんていなくて、このままずっと平和ならいいのに)

 そう願うも、もしそうだったらハクとも出会っていなかったのかと考えると寂しい気持ちに襲われた聯。この気持ちは何だろう。聯はその場で答えを出す事は出来なかった。

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