第22話 ファクター・ホワイト



 ドーム状の施設。白一色で染められている。そこに居るのは真白の騎士甲冑と真白の怪物達だった。

『実験開始』

 男の声が響く。同時に騎士甲冑、ファクター・ホワイトがタイプ:ライター・バックスペースに文字を打ち込む。

 ――ax

 巨大な斧が生成される、それを犬型の怪物、顔がノズル状になったソレ、イレイザーに対して叩き込む。イレイザーに張り巡らされたパイプが弾け飛ぶ。次の獲物に目を向ける。鳥型のイレイザー。それ目掛け斧を思い切り投げつけた。見事命中。そしてタイプ:ライター・バックスペースに新たな文字を打ち込む。

 ――rifle

 身の長い銃が現れる。それで人型のイレイザー達の頭を次々に打ち抜いて行く。しかし、そのうちの一体が弾を避け、ホワイトの懐に入る。そこにすかさず蹴りを入れるホワイト。地面に倒れるイレイザーに弾を撃ち込む。

『ガアアアアアアアア!』

 巨大な熊型のイレイザーが現れる。タイプ:ライター・バックスペースに文字を打ち込む。

 ――grenade

 真っ白な手榴弾が現れる。ピンを抜いて投げつける。ドォォォォン! 爆炎をまき散らし熊型イレイザーはそれに飲まれ行く。倒れ伏すイレイザー。そこでブザーが鳴った。

『実験終了、ご苦労さん』

 男、れいの声がスピーカーから流れてくる。ファクターを解除する少年、サード。

 軍服に身を包んでいる少年は、先ほどまで戦闘をしていたとは思えないほど冷静だ。

「本当に今更、こんな調整が必要だったんでしょうか」

 虚空に語り掛けるサード。それにスピーカーから返答が来る。

『二回も結構なダメージを喰らってるのを自覚してねぇのか? お前が今回の実験で最高のパフォーマンスを出せなかったらファクター・ホワイトは別のマスターロットに任せる予定だったんだよ』

 期待に応えなければ、すぐにお前を切り捨てると言われたサード、しかし彼の表情は一切崩れない。

「そうでしたか。失礼しました」

『パフォーマンスは問題ねぇ……だがな。今のお前で奴らに勝てるのか?』

 奴らとは、輝績聯きせきれんことファクター。偶道然ぐうどうねんことファクター・ブラックの事だ。

 彼らはヴィクトリーフォーム、パワードフォームという強力な力を手に入れた。それにより、マスターロット相手にも勝利を収めている。

 サードが持つビーストフォームも決してそれに退けを取らないはずなのだ。しかし今までの戦績は芳しくない。

「私の戦闘センスの問題だと?」

 臆せず聞いた。この疑問は、今日の実験が始まる時から思っていた事だ。

『テメェは基本スペックに頼り過ぎて、物質の生成に頼らないでいる。だが敵はそれをフル活用してきやがる。そこがお前との差だ』

「もっとタイプ:ライター・バックスペースを活用しろと?」

『そうだ。バックスペース固有の力もある。それを活用しないでどうする』

 思わず俯くサード。正論だった。しかし自身に絶対の強さを信じていたサードにとっては道具に頼る事は承服しかねる事だった。本来ならばイレイザーと変わり戦いたいと常々思っていたほどだった。

「次の出撃はいつですか、ドクター糺」

『しばらくはぇ。。次もマスターロットを出す。次はシックスだ』

「またやられるだけなのでは?」

 驚くべき言葉だった。貴重なマスターロットを使いつぶす事を構わないとは! サードは思わず聞き返す。

「何故ですか」

『順調に封鎖核ボックスががハクの下に集っている。アイツらは隔離出来ているようだが……その二つが揃えば計画は先に進む……その時だ。お前が動くのは。それまでは戦闘訓練に専念しろ』

 ブツリとスピーカーから音が消える。また新たなイレイザーが現れる。サードはため息を吐いてタイプ:ライター・バックスペースに文字を打ち込む。

 ――overwrite

『OK overwrite to the backspace』

 白い騎士甲冑に包まれる。丸いバイザーが頭に備え付けられている。そこから見える世界を睥睨する。白白白白白……サード自身はそれに何も思う事なく淡々とイレイザーを処理していった。

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