第21話 然とはじめ
モニターが散乱した部屋の一角。卵型のようなポッドの下に一人佇む男、
「何やってんだ俺……」
はじめを見捨て、
プシューッという音と共にポッドの蓋が開く。
「あっ……」
「目ぇ覚めたか?」
はじめはおずおずとポッドから出てくる。その様子はどこかぎこちない。
「まだどこか痛むのか?」
「い、いや。そうじゃなくて……」
「どうした」
「あなたは私を見捨てると思ってた」
その言葉になるほどと納得する然。自分でさえそう思っていたのだから他人からそう思われても仕方ないと然は考えた。
「俺も見捨てりゃ良かったと思ってるよ」
「じゃあどうして?」
沈黙、答えは出ない。それを聞きたいのは然自信のはずだろう。
「気付いたら身体が動いてた……馬鹿みてーだよな」
ありのままを話す、実際それ以外の答えを持ち合わせてはいなかった。
「ううん。声聞こえてた。まだどこにも行けてない、やりたい事も出来てないって」
「そういや、そんな事言ってたっけな」
どこか心此処にあらずな然。糺を逃がした事がショックだったのか。それとも自分らしからぬ行動に戸惑っているのか。
「あなたは私の何?」
唐突な疑問だった。
「私はあなたの何? ハク細胞さえ利用出来ればあとはもう私は必要ないはず。なのにあなたは私に協力を求めてきた。どうして?」
頭を思い切り掻く然。観念したかのように両腕を上げる。
「……多分、羨ましかったんだろうさ、後輩が」
「後輩……? 糺博士の息子の事?」
「そう、アイツとハクのコンビが羨ましかったんだ。きっと」
「それが理由?」
「不満か?」
「少し……不満」
どこかすねるような態度で返すはじめ。然はそんな初めて見る表情に少し驚く。
「お前、そんな顔も出来たんだな」
「当たり前、私、人間」
「イレイザーになれるヤツがよく言うよ」
「それは……」
俯きがちになってしまうはじめ。もう一度頭を掻く然。
「あー、悪かったよ。お前も糺に利用されたクチなんだろう?」
「……分からない……でも私には糺博士に付いて行く以外、選択肢がなかった」
「……選択肢、か。じゃあ俺の出した選択肢は気に入ったか?」
「うん……うん!」
何度も頷くはじめ、然はその嬉しそうな様子を尻尾を振る犬みたいだと思った。
「俺も、自分で選んだ選択に後悔したくねぇ。だから改めて言うぞ、糺をAoBを出し抜くために協力しろ、はじめ」
「分かった。私の出来る事ならなんでもする!」
「じゃあまずは手始めに糺の次の拠点の心辺りを探ってもらうぞ」
辺りを見回す二人。散乱したモニターと空っぽのポッド以外に在りそうなモノはない。
「他の拠点について聞かされた事はほとんどない。でも糺博士は……ううん糺は地下を好んで拠点に選んでた」
「地下……ねぇ。虱潰しに探すにしても広すぎるな……」
「この拠点から繋がってる先には居ないと思う」
はじめの意外な言葉に目を丸くする然。
「ここから逃げたのにか? ここに通じる地下水道まで通っているのにか?」
「その後、別の道に横から穴を開けて進んで行った可能性が高い。もちろんその痕跡も消されてるだろうけど」
「隣の道……いやその情報だけでもだいぶ絞れるだろう。結局ここから無理矢理、道を繋げてるってこった。だったら選択肢は狭められる」
「そんなに上手くいくかな」
「行かせるさ、お前と一緒なら」
その言葉に顔を真っ赤にさせるはじめ。然は首を傾げる。
「そうと決まれば、さっさと行くぞ。道沿いに隣の道を探していく」
「わ、わかった」
そうして二人は、その場を後にした。
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