第19話 社会復帰


「例のハク細胞を使ったイレイザーだが、無事処置が完了した」

 AoB本部、会議室にてアーサー・ワンが告げる。それにれんが挙手する。

「処置って?」

「イレイザー化する能力の根源『封鎖核ボックス』とハク細胞を取り除いた大手術だったが、見事アーサー・ツーがやってくれた」

 そう言って横に居るツーを見やるワン。

「いやー、褒めても何も出ませんよー?」

「それで、あの二人、これからどうするんですか?」

「さあね、そればかりは当人次第だ。無事に社会復帰出来る事が望ましいがね」

 そこで聯はハッとなる。

「……社会復帰」

「どうしたの聯」

 隣のハクが俯いた聯の顔を覗き込んだ。

「いや、俺って社会復帰出来るのかなって」

「聯なら大丈夫よ」

 ハクの根拠のない自信、だけどどこかとても心強く思えた。

「もし何かあれば私の研究所に来るのもいいだろう……君は若い。未来はいくつでもある」

「……はい!」

 アーサー・ワンはそこで一息つく。そして語り始める。

「ここからが本題だ。奴らが集めている『データ』についてだが……現状、戦闘経験以上のモノが今までの戦いで得られているような様子はない……しかしそれでも何等かのデータを取得しているというのなら、それはファクター、そしてイレイザーの出力だ」

「出力?」

「そう、世界を染め上げるほどの出力を引き出せるかどうか。それをれいは度重なる戦闘で測っているのだ」

「ハクにはその力があるって話でしたけど……」

「だがハクの超感覚を封じる事は不可能だという話もしたね? つまりハク本人ではなくハク細胞を使った回り道で出力を手に入れようとしているのだ」

 聯は頭を傾ける。

「そんな事、可能なんですか?」

「理論上、不可能なはずだ……だがファクター・ホワイト。あの存在はあまりにイレギュラーだ」

 半人半獣のファクターの姿を思い浮かべる聯。

「イレギュラー……あれがホワイト・ゼロみたいな大規模の白紙化現象を引き起こすって事なんですか?」

「……ふむ、それについては少しファクターの説明をせねばならんな。ファクターの力の一つ『restoration』は一見して白紙化現象を元に戻しているように見える。しかしそれは違う。アレは元あった姿と同じように世界を上書きしているに過ぎないのだ」

「……restorationしても、被害に遭った人は元に戻らないのはそういう事ですか?」

 ワンは重々しく頷く。

「ファクターの力では生命を生み出す事は出来ない。せいぜいイレイザー化した者を元に戻すのが精一杯だ。それでさえ、イレイザー化した人間が、イレイザー化する前と同一人物だと言える確証はない」

「……」

 結構な衝撃的な言葉だった。聯は少しうろたえてしまう。自分は完全に人を救って来たわけではなかった。その事に少し罪悪感を覚える。どうすれば皆を救えるのだろう。

「完全に白紙化現象を元に戻す方法はないんですか?」

 ワンは首を横に振った。

「白紙化現象が起きた時点で世界は塗り替えられてしまっている。それを戻す事は出来ない」

 絶望的な話だった。自分のやって来たことは無駄だったのだろうか。自問自答が止まない聯。

 そんな様子を見かねてワンが声をかける。

「しかし、そう悲観したものでもない。相手はイレイザー化する人間を選別し始めた。今までのイレイザー化とは違う、こちらは完全に戻す方法が存在する事は先ほど説明したね?」

「……はい!」

 少し希望が持てた。次から現れるイレイザーは必ず救ってみせる。それが自己満足でも、人々に被害をもたらす悪人でも、白紙化現象から人を救うのが聯の願いだった。

「報告は以上だ……全員、持ち場に戻りたまえ」

 ワンが告げる。

「聯、こっちこっち」

「?」

 聯はハクに連れられ解析室に連れてこられた。

 モニターの並ぶ部屋、街の監視カメラの映像や衛星からの映像が映し出されている。

「ここに居ればすぐに出撃出来る」

「……今日起きるのか? 白紙化現象が」

「多分、私の感覚がそう告げてる」

 ハクの超感覚。信じないわけにはいかなかった。

 そしてその予感……いや感覚は的中する。

「来た……イレイザー出現! A地区を映して!」

 職員に告げるハク、慌てて職員はコンソールを操作する。

「りょ、了解! あっ、イレイザーと思わしき異形を発見!」

 ハクに目配せする聯。

「出撃だな」

「うん、行こう!」

 すっかり二人で出撃するのが当たり前になっていた。

 二人はヘリポートへと向かったのだった。

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