第18話 黒と白の鬼ごっこ


 モニターだらけの部屋に警告音が鳴り響く。真っ白な部屋が赤い光で染まる。

「レッドアラートだぁ? チッ! ファクター・ブラックの野郎、イレイザーを無視してこっちに来やがったな!」

 モニターの一つを蹴り飛ばすれい

「私が排除します」

 サードがタイプ:ライター・バックスペースを手に取る。

「撤退戦だ。お前の役目は足止めだ。忘れるな。死んでもタイプ:ライター・バックスペースは取られるなよ」

「了解しました」

 ――overwrite backspace

『OK overwrite to the backspace』

 タイプ:ライター・バックスペースの低い電子音声が部屋に鳴り響く。

 そして。

  ――space blank

『OK space blank overwrite』

 両手両足がかぎ爪状に変わる。半人半獣の姿。

 そこに現れるファクター・ブラック。その姿はすでに強化形態だ。

『強化形態って言ってもまだ完成形じゃねぇなぁブラック君よぉ』

 どこかからカメラか何かで見ているであろう糺がどこかに置かれたスピーカーから話しかけてくる。

『これから完成するんだよ……はじめ!』

 ブラックの後ろからイレイザーと化したはじめが現れる。手に持っているのは強化アタッチメントだ。しかし色がれんが持っていたモノと変わっていた。

『チッ! イレイザーの力で内部を一部初期化して自分用にカスタマイズしたか!』

 糺の舌打ちが響く。

『よくわかったなさすがはマッドサイエンティスト様だ』

 強化アタッチメントをタイプ:ライターにセットするブラック。

 アタッチメントの+《プラス》のボタンを押す。

『OK power up to the factor』

 電子音声が鳴る。

 ファクター・ブラックに装甲が次々に追加されていく、その有り様はまるで鎧武者のようである。

 三日月のような角が激しく主張する。

『これがファクター・ブラック、パワードフォーム!』

 ――blade

『OK blade born』

 早速タイプ:ライターに文字を打ち込み巨大な刀を取り出すブラック。思い切り上段から斬りかかる。それをかぎ爪で受け止めるファクター・ホワイト。

『強化したとはいえ、私のビーストフォームと同等の力!』

 斬り結ぶ二人。その激突で部屋が破壊されていく。

『糺だけ逃がす作戦か、させるかよ! はじめ! 追いかけろ!』

『りょ、了解』

 はじめがおずおずと頷き二人のファクターの横を通り過ぎていく。ホワイトはそれに見向きもせずブラックに対峙する。

『なんだその余裕は……』

『答える義理もありませんが、所詮イレイザーではドクター糺には敵わないという事です。例えマスターロットであろうともです』

『そういう事かよっ!』

 事態を理解したブラックはホワイトを蹴り飛ばし、はじめを追いかける。しかし回り込まれる。

『邪魔すんじゃねぇ!』

『これが任務でしてね!』

 爪と刃が斬って斬って斬りまくる。互いに火花を散らしながら。一歩もゆずらない。

 時にほんの一瞬の隙を突いてホワイトを出し抜こうとするブラック。しかしすんでの所でホワイトが間に合う。

(だがたまに現れる隙……わざとこっちに攻撃を誘ってるわけでもない。まだ前回の戦闘が響いてるって事だ!)

 ブラックはそう思考すると、ホワイトの足目掛けて攻撃を繰り出すようになった。

 足のかぎ爪で器用にそれを受け止めるホワイト。しかし足狙いの攻撃にシフトされたせいでその動きが制限される。

『オラァ!』

 大上段からの斬り下ろし。それを真剣白刃取りの構えで受け止めようとするホワイト。しかしそこで斬り下ろしの軌道が逸れる。斜めに狙うは右足。

 ザシュッという肉が斬れる音がした。ホワイトの右足から血しぶきのように白が噴き出る。

『ぐぁ!』

 右足を両手で押さえで横に倒れ行くホワイト。ブラックはそれを無視して先に進む。

(タイプ:ライター・バックスペースには興味無し……っと。これならば追いかける必要はありませんね。私も別ルートで帰還しましょう)


 トンネルのような道、地下水道の大きなパイプの中だ。

 そこに倒れているはじめを見つけるブラック。

『おい! どうした! 糺にやられたか!』

「ごめ……ん……なさ……い」

『いいからしっかりしろ! まだ行きたい場所にも、やりたい事もやってねえだろうが!』

 静かに微笑み、気を失うはじめ。

『はじめ! はじめぇぇぇぇぇ!』

 はじめを抱え来た道を戻るブラック。ねんの頭の中にはもう既にはじめを救う事しかなかった。

 ファクターを解除する。

「このポッドは!」

 モニターだらけの部屋まで戻って来た然は、そこに空になったポッドを見つける。

「待ってろよはじめ、必ず助けてやる!」

 キーボードを叩きモニターの一つが点灯する。はじめを抱えポッドの中へと入れる。キーボードを操作しポッドが連動して動く。

「よしよしよしっ!」

 そうして然ははじめに付きっ切りで作業を続けたのだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る