第17話 マスターロット・フォース


 現場は惨憺たる有様だった。まるで白い痕が爆撃のように広がっている。そしてその爆撃は今も続いている。

 敵は空を飛ぶイレイザーだった。

「通常のファクターで空を飛ぶ事は可能なのか?」

「ううん、短時間ならともかく長時間飛び続けるのは不可能、出力が足りなくて、れんにも負荷がかかる」

「分かった。じゃあ行ってくる!」

 ――overwrite

『OK overwrite to the factor』

 ファクターに変身してヘリを飛び出す、それと同時に――flyと打ち込む。一瞬の浮遊感と共にゆっくりと現場へ着地する。上に見えるのは半人半鳥の怪物、頭がノズル状でなければイレイザーではなくUMAか何かかと思うところだ。

『さっさと地上に降りてきてもらわないとな!』

 イレイザーから白い爆撃が放たれる。それを横に転がって躱す。広範囲に散らばる白が辺りを染めていく。

 ――rope

 文字列で作られた紐が現れる。その先は丸く結んであった。カウボーイが牛を捕まえるアレを想像して作り上げたものだ。ファクターはそれをぐるぐると回し遠心力で一気にイレイザーへと投げ飛ばす。見事、首にひっかける事に成功したファクター。そのまま引きずりおろそうとする。

『その程度の力で! ナメてんじゃねーぞ!』

意思のあるイレイザー、ハク細胞を使った特別製。聯の今の通常の状態のファクターではパワー不足だった。逆に宙へと引っ張られるファクター。accelerationと打ち込む。完全に宙に浮かされる前に加速力で一気に地面まで引きずり下ろそうとする。

 しかし、パワーはそこで拮抗する。徐々に地面に近づいてくるイレイザー。徐々に宙へと引っ張られるファクター。ジリジリと互いの距離が縮まっていく。

 この時点で勝っているのはファクターだ。しかし、そこでイレイザーから爆撃が放たれる。今、縄引きに格闘している状態でそれを躱す事は出来ない。片手を手放しタイプ:ライターにshieldと打ち込む。

 ギリギリの所で生み出された盾によって爆撃は防がれる。しかし片手を話した事によりイレイザーが高く飛び上がってしまう。

『クソッ、縄をかけるところまでは良かったのに!』

 その時だった。ファクターに通信が入る。

『聯! 今から無人のヘリをイレイザーへと突っ込ませる! その隙を狙って!』

 ハクからだった。しかし聯は驚いた、いくらイレイザーを倒すためとはいえヘリをそんな使い方で利用するとは。

  バタバタバタとローターの音が近づいてくる。ソレに感づかれてはいけない。

 ――gun

 もはや片手だけでロープを握る事に専念し、もう片方の手は攻撃に専念する事にしたファクター。

『豆鉄砲が! 効かねぇんだよ!』

 お返しの爆撃が来る。それを転がって躱す。もう相手を地上に引きずり下ろすのはやめたのだ最低限、動きを封じられればそれでいい。

 

 ヘリが来た! 


 流石の近距離でイレイザーもソレに気付く、だがもう遅い。

『なっ、んだこりゃあ!?』

 爆炎が空中に咲く。だがロープはまだ繋がっている。そもそもこんな方法で倒せるならばファクターはいらない。これはあくまで隙を作るための作戦。

 ――acceleration

 再び加速する。二度の加速は聯にそれなりの負荷を与えて来た。しかしそれを気力で跳ね除ける。

『うおおおおおおおおおおおおっ!!』

 引っ張る感触に変化があった敵をこっちに引き寄せている確かな手応え。一気に駆け抜ける。すると。

 ドオォォン! という音と土煙と共にイレイザーが地面へと叩き付けられていた。

 だがそこで終わらない。二段階加速した状態のまま、一気に距離を詰める。

 ――sword

 剣を生み出し斬りかかる。ガキィンと弾かれる音。と土煙が晴れる。そこには無傷のまま羽根で剣を受け止めるイレイザーの姿があった。

『強化されてないイレイザーなんかに負けるかよ! オラァ!』

 蹴りがファクターに入る。思い切り吹き飛びまだ白紙化されていなかったファストフード店へと突っ込む。ガシャァン! とガラスを盛大に割る。

「ひぃっ!」

 中にはまだ人がいた。この人達を巻き込むわけにはいかない。ダメージで震える足を気合いで押さえつけて店を急いで出る。その時だった。爆撃が飛んでくる。

 後ろには店がある躱す訳にはいかない。shieldと打ち込むが爆撃の勢いで一回で壊される。相手はもう二回目の爆撃の構えを取っているこのままではジリ貧だ。

 まだロープは繋がっている!!未だに片手で必死に持っていたロープを思い切り引っ張る。イレイザーの体勢が崩れ狙いが逸れる。もう既に白紙化されている場所に爆撃が飛ぶ。

『テッメェ! 人を犬みてぇに引っ張ってんじゃねぇ!』

『知った事か!』

 駆ける、さすがにロープはもう使えないだろう、だが相手はまだ空を飛ぶ気配はない地面にいるままだ。

 両手で剣を持って斬りかかる。しかし翼で防がれる。

『だから効かねぇって――』

『プレゼントだ!』

 ――bomb

 爆弾を翼の下から潜り込ませる。爆発。文字が乱舞する。超近距離の一撃を喰らってよろめくイレイザー。ファクターはたたみかけるように爆弾を大量に生成する。

『自爆する気かテメェーー!?』

『先輩から教わった戦法でね……ホントは一人でやるもんじゃないんだけどっ!』


 爆発、文字、アルファベット、数字、記号、あらゆるものが乱れ飛ぶ。大爆発。


 白い身体を煤けたように黒く汚れたイレイザー、ファクターも銀の騎士甲冑が黒く汚れている。互いに満身創痍。だがそれでもファクターは動く。

 ――writing smash

『OK writing smash start』

 文字列がイレイザーを取り囲む。

『OK writing smash!』

 拳に文字列が、エネルギーが集束する。

『全力でぇ! 書きっ殴るッ!』

 拳を文字に囲まれたイレイザーに全力で殴りつける。

 すると、拳の文字列が、エネルギーが、拘束している文字列にそのエネルギーを伝える。

 黒い文字列が真っ赤に染まる、灼熱が立ち昇り、イレイザーが飲み込まれる。

『writing smash end』

 ファクターの拳には陽炎が生じていた。

 拳の先、地面に倒れ伏しているのは染めたであろう金髪に革ジャンの男性。

『これで捕獲二人目か……特別製ってヤツの弱点でも分かるといいんだけど……っと』

 思わず膝をつくファクター。変身を解除する。

「はぁはぁ、さすがに二段階加速に自爆はやり過ぎたな……」

 だが、そうでもしなければ勝てなかった。思わず尻餅をつく。

「聯!」

「ハク」

 互いに無事を確かめ合う。

「本当に無茶して!」

「確かにな、いっそ空を飛んでた方が早かったかも?」

 なんてなと笑う聯、呆れるハク。

「はいこれ」

 レジ袋を差し出すハク。

「シュークリームか!?」

 思わず受け取る聯。

「私にはこれぐらいしか出来ないから」

「そんな事ない」

「えっ?」

「ハクが居るから、俺は頑張れる。今日こんなにも頑張れたのはハクのおかげだ」

「~~~~!」

 名前に反して顔を真っ赤にするハク。聯はその様子を見ながら首を傾げていた。

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