第16話 再起
「あっ! どこに行ったのかと思ったのよ?」
少し怒っている。聯は後頭部を掻く。
「ごめん、ちょっと本部を見て回ってた……そういやここの事よく知らないなぁって」
「それならせめて誰かに言ってから……はぁ、もういいわ。起きていきなりお説教は嫌でしょう?」
「もういきなりじゃないけど、まあその方がありがたい……かな」
「……座って聯」
ベッドをポンポンと叩くハク。促されるままに座る聯。その前に椅子を持って来たハクが座る。
「何か落ち込んでる?」
いきなりの直球ストレートだった。そう聯は落ち込んでいた。あの乱戦の末の敗北に心を折られかけていた。
「顔に出てた?」
「少しね。でも私なら分かる。ちょっと前まであなたの監視役だったんだから」
「超感覚じゃなくて?」
「そんなもの使わなくたってわかるわ」
「そっか。やっぱ改めて聞くと恥ずかしいな。監視されてたなんて……俺にファクターの適正があるからっていくら何でもやりすぎなんじゃないか?」
「……ファクターの適正があるって事は、イレイザーになる可能性もあるって事だから」
驚きの事実……でもないのかもしれない。聯は思い出す、ファクターもイレイザーも原理は同じなのだとアーサー・ワンが言っていた。
「そっか、まあ俺はホワイト・ゼロの原因だもんな」
「それ、まだ気にしてるの? ホワイト・ゼロは聯のせいじゃ――」
かぶりを振る聯。
「違うんだ。これは俺が背負いたいと思って背負う十字架なんだ」
「聯……ねぇ聯、すごく不謹慎な事言っていい?」
俯くハク。聯は首を傾げる。
「構わないけど。急に何?」
「私はホワイト・ゼロの核が聯で良かったと思ってる」
「!?」
確かに不謹慎で衝撃的な言葉だった。だがどうしてだろう不思議と怒る気にはなれなかった。言葉の続きを待つ聯。
「私が核になってホワイト・ゼロが起こっていたら、今の世界は無かった。他の適正の高い被験者が核になってたらもっとひどい被害になってたかもしれなかった。聯じゃなかったら、ただ一人あの中から生き延びる事が出来なかったかもしれない。そう思うと本当に今、この場所に聯がいるのは奇跡で、だけど聯のおかげで起きた必然なんだって思えた」
その言葉に動揺する。それは綺麗事でしかなかった、かもしれない、もしかしたら、なんていう可能性の話でしかなかったからだ。
「それは……親父が偶然、俺を選んだだけの話だろう?」
「私は聯がみんなを守ったんだと思ってる」
「被害が出てるんだぞ!?」
「それでもっ!!」
ハクが深く息を吸う。
「私はあなたのおかげで今、ここに居る」
その言葉に、なんて返せばいいか聯には分からなかった。聯はただ悔やんでいた過去を、白のトラウマを、抱え込んできた思いを、そんな風にとらえられた事をどう処理すればいいか分からないでいた。
「ごめんね聯。これは私のわがまま。でも、それでもずっとこう思い続ける」
ごめん、その言葉に聯はハッとさせられる。謝る必要なんてない。ハクは聯を励まそうとしているのに。
この期待に答えなければならない。聯は強くそう思った。
「ハク」
「何? 聯」
「俺、もう負けないから……どんな敵が相手でも、どんなに目の前が真っ白に染まっていても、歩き続ける。戦い続ける。平和ってヤツが来るまで」
「聯……ごめんなさい、私あなたに――」
「謝らないでくれハク、俺は君のために戦う。俺を救いだと言ってくれた君のために。だから謝らないで」
聯はハクを真っ直ぐに見つめていた。ハクの顔はどこか全体的に赤い。
「あ」
ハクが言葉をこぼす。
「あ?」
聯が続きを促す。
「ありがとう……」
少し俯きもじもじとしながらハクは聯に言った。聯はそれを喜んで受け取った。
「こちらこそありがとうハク」
その後、しばらく謎の緊張感が漂う沈黙が続いた。目の前に対峙する二人。流れる空気はどこか甘酸っぱいような……そんな時だった。
白紙化現象の発生を知らせる警告音が鳴り響く。
「しまった! 私、解析室に居なきゃいけなかったのに!」
「大丈夫だハク。俺が必ず止めてくる」
「……うん!」
そうして二人は共に出撃のためのヘリコプターに乗り込んだ。
「ハク!?」
「もう白紙化現象は起きちゃったもの、だから私の仕事はあなたのサポート……ダメかな?」
「構わない! 一緒に行こう!」
そうしてヘリは二人を乗せて現場へと飛んだのだった。
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