第15話 三者三様


 何度目だろう。BoA本部の医務室のベッドの上でれんは目を覚ます。

「俺は、負けたのか」

 純然たる事実が残されていた。奪われた強化アタッチメント。逃げられたファクター・ホワイト。トラウマで倒れた己自身。聯はその全てをひとまとめにして負けと表した。

 周りには誰もいない。

 聯は少しAoB本部を見て回る事にした、許可など貰っていないが今更何をという感じだろう、これ以上何か隠し事をされていても困る。自分の父親が黒幕だったこと以上の衝撃があるとは思えないが。

 内装はいたって普通のオフィスビルのソレだ。様々な部署に分かれて部屋が割り振られている。聯が出て来た医務室、いつも使っている会議室、ハクが転属になったという解析室、ここに入ればハクに会えるだろうか聯はそんな事をを思うが首を横に振った。

「今、会っても何を言っていいか分からない……」

 そう小さく呟いた。

 他にも培養室やら実験室など様々な部屋があったが、その中から聯は技術室に入ってみる事にした。

 ノックをする。

「はい、どーぞ」

 中から声が聞こえる予想通りの人物、アーサー・スリーの声だった。。ガチャっとドアを開けて中に入る。

「あれ? 聯君じゃないか。もう大丈夫なのかい?」

「ええ、なんともありません……それより……」

「ああ……強化アタッチメントの件だね?」

「はい、すいません俺のせいでファクター・ブラックに奪われてしまって……」

「君が気にする事じゃない。あの大乱戦の中よくぞ生き延びた事をまずは喜ぶべきだ」

 そうスリーは励ましてくれる、しかし聯の気分は重いままだ。

「俺から言う事じゃないと思うんですけど、強化アタッチメントはまた作れるんですか?」

 どうしても聞きたい事だった。アレが無ければ聯は現状のイレイザーやブラック、それにホワイトとまともに戦えはしないだろう。

「……結論から言おう、もう一度作り出す事は出来る。ただしそれなりの時間がかかる。今、断言出来るのはこれくらいだ」

「……それなりって……どのくらい、なんですか……?」

「三日、四日、なんて期待はしないで欲しい……とだけ言わせてくれ」

「そう……ですか。ありがとうございました」

「もういいのかい? コーヒーぐらい淹れるけど……」

「いえ、俺、医務室に戻ってます。誰にも言わずに来てしまったので」

 頭を下げて、その場を後にした。


 ねんのアジトであるコンクリートむき出しの廃墟。

「まさかお前の細胞にタイプ:ライターの負荷を緩和する力があったなんてな! 良い拾い物だよ全く!」

「私は元々タイプ:ライターの適性者の一人だったから」

 はじめが若干俯きがちに言う。

「タイプ:ライター計画もそんなに昔から行われてたって事かよ。通りでれい側にもファクターが現れるはずだぜ、どうせアイツも一枚噛んでたんだろうからな」

「そんな事より細胞の話、私の細胞はハク細胞ほど感染力が強くない。強化アタッチメントまで使う以上、これからは適宜、私の細胞を使った方がいい」

「……ああ? いちいちそんな事しなきゃいけねぇのか……まあいい。了解したよ……しかし次からどう動くかだ。ファクター・ホワイトの野郎はしばらく再起不能と見ていいだろう、問題はAoBだ。はアイツらがアタッチメントを回収に来るかどうか……まあ来ないだろうな、戦力差は目に見えてる。新しく開発した方が合理的だ」

 はじめが首を傾げながら聞く。

「つまり?」

「俺達の自由時間フリータイムって訳だ。はじめ、いい加減話してもらうぞ。糺の奴の居場所を!」


「はぁ……ファクター・ホワイト、只今帰投致しました」

 目立った外傷は見当たらないものの、それでも満身創痍という言葉が似合いそうな様相を呈している少年。

 モニターだらけの部屋、ポッドがいくつか鎮座する真白の空間。そこに糺は居た。

「遅かったなサード。データは取れたか?」

「はい、ここに」

 タイプ:ライター・バックスペースを取り出すサードと呼ばれた少年。

「よし、そこの端末につなげ」

 何やら忙しそうにキーボードを叩く糺。その表情は笑みをこらえきれず唇をわなわなと震わせていた。

「よし、よし! あの時に出来なかった実地試験がようやく出来ている! 忌々しく思っていたAoBにも感謝しなくてはなぁ! やはり世界を書き換えるならばイレイザーとファクターの両方が必要だ!」

「ドクター糺、次はどう動くおつもりで?」

 サードが恭しく礼をしながら聞く。

「フォースを出す、大方ブラック辺りが攻めてくるだろう。その前に牽制として出しておく、そしてこの拠点は廃棄、次の拠点へ移動する。ここの痕跡消しは頼んだぞサード」

 一切サードの顔を見ずにキーボードを叩きながら命令する糺。サードはそれに対して。

「了解しました」

 と返すだけだった。

 

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