第13話 三人目のファクター


「ファーストはファクター・ブラックに奪われ、セカンドはAoBに取られたか……まあいい、概ね予定通りだ。さて次はAoBお前らの十八番を借りてみようか!」

 モニターだらけの部屋の中、まだ開いていないポッドに近づくれい

「サード起動の時間だ」

 プシューッという音ともにポッドが開かれる。ふらふらと中から出て来たのは少年だった。

「糺博士……任務ですか?」

「ああ任務だとも、これを装着し戦え」

「これは?」

「タイプ:ライター・バックスペースバージョン……って言ってもわかんねぇだろ? 使い方だけ覚えろ、文字を打ち込めばその通りに白紙化現象が起こる装置だ。いいな分かったか?」

 少年はその差し出された機械をじっと見つめた後こくりとうなずいた。

「よろしい、ならば早速出撃だ『ファクター・ホワイト』」

「了解しました」


「ハクが解析部門に転属?」

「ああそうだ」

 AoB本部会議室。れんとアーサー・ワンが向かい合って座っていた。

「急になんで……確か今は、というか昔から俺の監視任務が仕事だったんですよね?」

「ああだがもうその必要はないだろう、それにこれはハク自身の願いでもある」

「ハク自身の?」

「もう後手に回りたくない。そう言っていた」

 聯はハクが自分の言葉を気にしていたのではないかと不安に陥る。

「俺のせいですかね。俺がそんな事言ったから」

「きっかけはそうかもしれん。しかし最後に決めたのは本人の意思だ」

 その言葉にどこか納得させられてしまう。これが大人というヤツだろうか。

「でも索敵って何をするんです? 今は機械で白紙化現象の発生を検知してたんですよね?」

「彼女の超感覚を使う」

 その言葉に衝撃を受ける聯。

「そんな!? あんな無茶苦茶な幻覚みたいな事、ハクにさせるっていうんですか?!」

「本人の強い意志だ」

「それでも止めるべきだ!」

「彼女の超感覚ならば白紙化現象を、いやイレイザーが現れた時点で発見出来る。これはもう決定事項だ。残念だが議論の余地はない」

 そう言ってワンは会議室から出て行った。一人うなだれる。

「早く、こんな事終わらせないと」

 固く誓う。ハクに少しでも無理をさせてはいけないと、そう心に決めた。


 そんな時、警報が鳴り響く。


『白紙化現象の発生を確認……現場にいるのは……嘘……でもこれは……』

 ハクの声、しかし様子がおかしい、だが白紙化現象が起きているならば行かなくてはならない。

 いつも通りヘリに乗り込んだ。だけど横にハクは居ない。


 現場に到着する。

 そこには不可思議な現象が起きていた。

「確かに白紙化現象だけど……これは……」

 あちこちに突き刺さった真白の剣。空中に文字で『ファクターを待つ』と真白の文字が浮かんでいる。

「これじゃまるで……」

『ファクターみたいですか?』

 バッと後ろを振り返る。そこいたのは吐き気がするほどの白い騎士甲冑。厚い装甲に乱雑にパイプが張り巡らされている。

「ファクター……なのか」

『ファクター・ホワイト。そうお呼び下さい糺博士のご子息』

「とうとうファクターの敵まで現れたって事かよ……だけど言っとくぜ。俺はもう負けない。絶対に」

 ――overwrite

『OK overwrite to the factor to the victory』

 V字の角が光る堅牢な騎士甲冑、victoryの文字が躍っている。

『それがセカンドを倒した力ですか……ならば私も』

 ――space blank

『OK space blank overwrite』

 ホワイトの姿が変わる。変わっていく、両手足に鋭いかぎ爪がある半人半獣のような姿になっていったのだ。

 半透明に見えるほどの白。その虚ろさにトラウマがここに来てぶり返し吐きそうになる聯。必死に堪える。

『どんなヤツだろうと勝つ。それが俺の使命だ!』

 駆け出すホワイトの下へ。ホワイトも返り討ちにせんとばかりに向かってくる。

 鋭い爪がファクターを襲う。それをギリギリで躱す。

 ――sword

 そう打ち込んで生み出した逆さV字の光の剣でホワイトへ斬りかかる。それをホワイトはもう片方の爪で受け止めて見せた。

『だったら次はこいつだ!』

 ――gun

 光線銃を生み出して放つ、光速の一撃は躱す事は不可能だ。まともに喰らうホワイト。

 しかしよろめきはしたものの大したダメージではない。

 ホワイトが反撃の一手に出る。

 ――arrow

 ホワイトの目の前から唐突に真白の矢が放たれる。躱そうとすると、なんとその矢はファクターの動きに合わせ追尾してきた!

 もろに矢の一撃を喰らう。

 これでダメージは五分五分。互いに譲れない遠距離戦が始まろうとしていた時だった。

『おいおい後輩共、そういう楽しい遊びには先輩も混ぜてくれよ』

 空から降って来た影、ファクター・ブラック。しかしその姿は今までのものと違った。それは――

『強化形態!? なんであんたまで!?』

『おいおい、俺もハク細胞を持ってんの忘れたのか?』

 アタッチメントも無しで強化形態になるなんて無謀すぎる。しかしそれをブラックは平然とこなしている。おかしいだって偶道然ぐうどうねんは変身の負荷に耐えきれず逃げ出したはずなのに。

 するとファクターの視界の端に少女の姿が見えた。白いワンピースの少女。

 そう彼女はブラックが攫った意思あるイレイザーの一人目だ。

 然の負荷の克服は彼女が関係しているのかもしれない。

 しかし、そんな考えも打ち切られる。

『三人のファクター勢揃いですか。いいデータ収集になりそうです』

『データデータってお前らそうやって使い捨てられて楽しいか?』

『データ……二体目の意思あるイレイザーも言っていた。お前ら何を調べてるんだ!』

 ホワイトはやれやれといったポーズを取る。

『教えるはずがないでしょう。しかしファーストあなたが裏切るとは思いませんでしたよ』

 ファーストと呼ばれたワンピースの少女は答えない。

『ま、いいでしょう。まとめてお相手します。かかってきてください』

『……先輩、アンタはどうするつもりなんだ』

『てめえら両方叩く。お前らの強化アタッチメントに用があるんだ』

 つまりこれは二対一ではなく三つ巴の乱戦という事になる。

(めんどくさい事になった……)

 聯の敵はあくまで白紙化現象を引き起こすイレイザーである。

 敵であろうとファクター同士の戦いに意味があるとは思えなかった。しかし否が応でも戦いは始まってしまう。

 ぼーっと突っ立っている事は許されない。

 

 今、戦いの火ぶたは切られた。

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