第12話 勝利への渇望
筋肉質のイレイザーとの戦いとの後。
そんなハクに向けて言う。
「大丈夫、次は勝ってみせるから」
乾いた笑み。ハクはかける言葉が見つからないようにただ頷いた。
自分がイレイザーになる、宇宙を白で染め上げていく。星の一つ一つから世界の構成要素まで全てを白で染め上げる。その空白を戦いの記憶で塗り替える。あの筋肉質にどうすればダメージを与えられるか考える。
意識が研ぎ澄まされていく。自分が戦闘マシーンになったような錯覚に襲われる聯。それでも意識を集中させる。それしかやる事がなかったから。ただひたすらに『勝利』をイメージする。あのイレイザーを倒すイメージを。
警告音が鳴り響く。イレイザーの出現を知らせる音。
「行きます!」
いつものようにヘリに乗り込む聯。ハクも付いてくる。
「ねぇ、本当に大丈夫?」
「ああ平気だ。今の俺には勝利しか見えてない」
ヘリが飛び立つ、ハクが不安そうにしているが聯はそれに気づかない。
目的地に到着する。今度は繁華街のど真ん中が白紙化現象に見舞われていた。
「どうしても後手に回る……それでも!」
――overwrite
『OK overwrite to the factor to the victory』
変身する、その姿は今までの強化形態と形が変わっていた。ゴツイ追加装甲はそのままに体に沿って巡ったパイプが無くなっている。代わりに文字が描かれている。『victory』の文字。そして頭の部分にはV字の角が付いていた。
「これは……」
ハクが驚いている。無理もない。強化した形態が変化するなど想像の埒外だろう。
『名付けてヴィクトリーフォーム……安直だったかな?』
「ううん、カッコいいと思う、ヴィクトリーフォーム」
『そっか、じゃ行ってくる」
ヘリから飛び降りる。目的地は白紙化の中心部。
筋肉質のイレイザーを見つける。ノズル状の顔をこちらに向ける。
『新手か? いくら新たなファクターを生み出そうとも――』
『いいや俺だぜ。リベンジマッチだ』
『
イレイザーが構えを取る。最初の勝負ではほとんど動かなかったヤツがだ。
『そっちも本気って訳か……面白れぇ!』
――knuckle
そう打ち込むとファクターの鎧と同じ素材で出来たグローブが手にはめられる。剣や銃ではない。今回の戦いはインファイトだ。あえて敵の得意な戦いに乗った。その上で勝つと心に誓った。
真白の大地の上、互いが一気に駆け出す互いが拳の射程圏内に入るのに秒もかからなかった。
互いの拳が交差し互いの身体にめりこむ。そこで終わらない。ラッシュが始まる。互いに拳と拳をぶつけ合う。何度も何度も何度も。
ヴィクトリー・ファクターの拳がイレイザーの顔面を捉える。
イレイザーの拳がファクターの腹部に直撃する。
互いに譲らない。一歩も下がらない。
終わりなき拳の応酬。果てまでたどり着けるかわからないほどの連打、連打、連打、連打。
一撃でも躱したら負けだ。一撃でも外したら負けだ。
拳を相手にあて続ける。ひたすらに当て続ける。
その時だった。ファクターのアッパー決まる。イレイザーの身体が宙に浮いた。その隙を見逃すはずがなかった。
アタッチメントの数字ボタン、七を三回『777』と押す。
『OK lucky strike』
V字の角が煌めき輝く。拳にエネルギーが渦巻いている。宙に浮いたイレイザーの腹部へそれを叩き込む!
イレイザーが吹き飛ぶ、あの時と逆、遮る物のない真白の上をかっとんでいくイレイザー。地面に落ちても転がり続ける。ファクターとの距離が十メートルほど離れたとこでようやく止まる。
『グッ……まさかここまで出力を上げてくるとは……』
『ある意味、お前のおかげかもな』
『嫌味を……だが私もこれで終わりではない!』
筋肉質のイレイザーが叫ぶとその身が鎧を纏った姿へと変貌する乱雑に巻かれたパイプ、今まで見て来たイレイザーの特徴そのもの。
『それがホントの本気か、だけどそれでも勝てない』
――victory
『OK victory strike』
V字の紋章が空中に浮かぶ。
文字列がイレイザーの動きを封じる。
『何!?』
V字まで飛び上がる、そしてイレイザーの下へと斜めに加速しながら降下する。V字の切っ先が真っ直ぐイレイザーへと向かって行く。Vがイレイザーに突き刺さる。
『ぐあああああああああああ!』
さらにV字は回転し攻撃力を増していく。
『これで「finish」だ!』
――finish
そう打ち込んだ。
『OK victory finish!』
タイプ:ライターの電子音声が鳴り響く。Vは光輝き爆発へと変わった。蹴り抜けるファクター。煙が晴れた先には大男が横たわっていた。
必殺技を使った後だというのに疲れが微塵もなかった。
――restoration
白紙化現象に飲み込まれた繁華街を元に戻す。そしてファクターを解除する。そこにハクが近づいてくる。
聯はハクにVサインを送った。しかしハクは聯を見て驚いた顔をしていた。
「聯……髪が……」
髪? 髪がどうしたというのだろう。繁華街の店の窓に映る自分を見る。そこには髪が真っ白に染まった自分が居た。
「ごめんなさい……私のせいで……」
ハクが謝る。しかし聯はかぶりを振る。
「いや、お揃いでいいじゃんか」
「え?」
「それとも嫌か? 俺とお揃い」
これで嫌と言われたら少し、いやかなり傷つくな聯は思っていた。
「ううん、嫌じゃない」
「そっかなら良かった」
AoBの車が大男を収容する。それとは別の車にハクと聯は乗り込む。妙な気恥しさから無言のまま本部まで帰ったのだった。
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