第8話 黒の暗躍
モニターだらけの部屋、壁は真っ白に染め上げられ蛍光灯がそれを照らす。そんな場所に
「ハク細胞の稼働力は十分……あいつらも使ってきたがバックファイアに耐えられなかったらしいな……よし、これで十分データは取れた。マスターロットを使う。起動しろ」
糺の声と共に部屋の床がせり上がりポッドのようなモノが七つ現れる。それの一つに近づく。薄っすらと中に人がいるのが確認出来る。
「さて……どうなるかな……?」
無限に広がる宇宙。それ全て、星々の一つ一つ、それを構成する原子、分子。もっと注目すれば素粒子だって見えるかもしれない。それほどに感覚が広がっていく。その情報量に吐き気がする。もうこれ以上ここにはいられない――
「うっ?!」
思わず飛び起きる
「AoBの……新本部……?」
「その通り」
突然の声に驚く。若い男の人だ。黒衣を纏っている。アーサー達が着ている黒い白衣だ。
「あの……あなたは?」
頭を掻きながら男は答えた。
「アーサー・スリー……って名乗るのもおこがましいと思ってるんだけどね……一応メカニック系統は僕の担当なんだ」
「じゃあ、あなたがタイプ:ライターの開発者」
「そういう事になるね、基本理論はアーサー・ワンのモノだけど」
そんな事を話してるうちに当たり前の疑問にたどり着く。
「俺どうしてこんなところで寝てたんですっけ……?」
どうにも記憶が曖昧だ。直前まで何をしていたか分からない。
「あー……それはね、悪い! 僕のせいだ!」
急に頭を下げるスリー。驚く聯
「どういことです?」
純粋な疑問、それすらも苦しそうなスリー。
「強化アタッチメントが必要以上にハクの細胞からの情報を引き出してしまった。それが原因で君は負荷に耐えきれず倒れてしまった」
「強化アタッチメント……ハクの細胞……そうだ俺ティラノサウルスみたいなイレイザーと戦って……」
「記憶の混濁もあるのかい?! ああ、本当にすまない。全て僕の責任だ……」
慌ててかぶりを振る聯。
「そんな事ありません、アタッチメントが無ければ俺はきっとあのデカブツには勝てなかったです」
「聯君……」
涙目で見つめてくるスリー。どうすればいいのだろうか。そんなところに一人の来訪者。
「聯!」
「ハク?」
一瞬疑問に思ったのは彼女の白色の髪が真っ黒に染まっていたからだ。
「どうしたの、その髪の毛」
「そんな事より! 身体は大丈夫なの!? 変な幻覚とか見てない?!」
「だ、大丈夫だよ。ほら立てるし」
ベッドから起き上がる。特にふらつく事なく立つことが出来た。
「良かった……私のせいで……聯が死んじゃったらって……」
「え? いやいやそんなおおげさな」
「おおげさじゃない!!」
ハクが叫ぶ。思わず気圧される聯。
「ど、どうしたの」
「私は……ううん、なんでもない……元気そうなら良かった。はいこれ」
差し出してきたのはコンビニのレジ袋、聯の好きなコンビニスイーツだろう。
「ああ……今はいいかな……なんかお腹いっぱいっていうか……頭いっぱいというか……」
「っ!」
驚きに固まるハクの顔。彼女はそのままレジ袋を持って部屋を出て行ってしまった。
「俺なんかマズい事言いました……?」
スリーが気まずそうに言う。
「うーん。言ったには言ったんだけど……不可抗力というか、避けられない報告だったというか……そうか君は、君の脳や神経系、感覚がオーバーフローを起こしているらしい。今すぐにとは言わないけど。例えお腹いっぱいだと思っても何か食べたほうがいい。君のその満腹感は勘違いだ。いや感違いって言ったほうがいいかな、感じるの感ね。そんな言葉ないけど」
「はぁ……感違い……あんまりピンときませんけど……わかりました」
暗い路地裏。派手なファッションの若者たちがたむろしていた。
『実験開始だ。行け』
「……はい」
白い患者服に身を包んだ少女がスマホからの指示に従う。若者たちのところへ向かう。
「ん? なんだお前」
「その恰好……病院かなんかから抜け出してきたのか?」
「へへっ、俺達で良けりゃ遊んでやるよ」
「やめとけ病人だぞ、下手こいたら死ぬかもよ?」
それぞれが半笑いで掛け合っている。それを無表情に眺める少女。俯いて小さく呟く。
「……ごめんなさい」
「え? なんだってぇ?」
少女はうつむいたままさらに言葉を続ける。
「イレイズ
辺りが瞬く間に真白に包まれた。
それを眺める者が一人、
「やっと尻尾を掴んだぞ
――overwrite
漆黒の騎士甲冑が宙を舞う。真白の中心へと突っ込んでいく。
真白の中。そこに居たのは真白のウエディングドレスにも似た格好のイレイザーだった。唯一ノズル状の顔がイレイザーだという事を物語っていた。
『貰うぞ! お前の力!」
生み出しておいた銃で撃ち抜くファクター・ブラック。
『あなたは……誰?』
『ハッ! 敵扱いさえされていないとはな! だがそんな事はどうでもいい! 意識あるイレイザー! 間違いないお前はハク細胞を持っているな!』
『……それが狙いなら渡さない……それに誰であろうとファクターはイレイズ
『ハッ! そのイレイズ対象とやらに例外はそんざいするのか?』
『それは……』
何故か俯くイレイザー。しかし容赦なく銃を撃ち続けるブラック。しかし――
(ダメージが通っていない?)
相手に反応はないうつむいたまま動かない。
『だったら……』
爆弾を生み出し投げる。黒い爆炎が相手に命中する。少しふらつくイレイザー。
『チッ、これも効果無しか』
『……これ以上いくらやっても無駄』
『それはどうかな……これだけ派手に暴れてれば……いくら路地裏でもアイツらが来るさ』
『アイツら……ハッまさかAoB!?]
示し合わせたように車のブレーキ音が聞こえた。路地の向こう。反応を探って来たAoBと聯がそこに居た。
『今ぶつかるのはデータ収集の邪魔になる……っ』
『おいおい全イレイザーがイレイズ対象じゃなかったのか?』
槍を生み出して退路を塞ぐブラック、その場に聯が到着する。
「ブラック……? それに人型のイレイザー……?」
『おい後輩。そいつをただのイレイザーだと思わない事だ』
「……なんだか分からないけどイレイザーなら倒すだけだ!」
――overwrite
銀の騎士甲冑、堅牢な装甲に整然と張り巡らされたパイプ。強化されたファクターの姿。しかしその時、聯は膝をついた。自分の手が真っ白なノズル状に変わっている。そんな幻覚を見た。
『チッ! やはりハク細胞をコントロールしきれていないか』
『そ、そんな事……ない!』
気合で立ち上がる。目の前の敵と対峙する。誰が敵で味方か分からないがとにかくイレイザーを倒すという意思だけで動く。
――sword
巨大な両手剣が現れる。イレイザーに向けて振りかぶる。しかしそれは真正面から受け止められる。
『こいつ……!』
『あなたと今戦う気はない……』
『っ!?』
思わず後ろに跳び退るファクター。
『喋った……? イレイザーが!?』
ブラックがイレイザーとファクターの間に入る。槍でイレイザーを突きながら語る。
『こいつはハク細胞を使った上に素体も特別性なんだよ! やっとヤツの尻尾が出て来たってわけだ!』
『ヤツ……親父の事か……!』
『糺博士の子供はあなただけではないという事……!』
ファクターの『親父』という言葉に反応したように、ファクターに迫るイレイザー。両手が剣のように鋭くなる。それを両手剣で受け止める。
『どういう意味だ……!?』
『敵の言葉を律義に聞いてる場合か!』
鍔迫り合いをしている最中の二人めがけて大量の爆弾が降ってくる。咄嗟に避ける事が出来ない二人。黒い爆炎が路地裏を埋め尽くしていく。煙が晴れた頃には二人は膝をついていた。
『容赦無しかよ……先輩……』
『これで貸し一つ返した事にしていいぞ後輩』
『ぐっ……戦線離脱……』
逃げようとするイレイザー。二人のファクターがその行く手を塞ぐ。狭い路地裏では移動する場所は限られる。イレイザーが上を向く、と思ったその瞬間。三角飛びで壁を蹴り上へと昇る。
『逃がすか!』
聯はタイプ:ライターの強化アタッチメントの記号、上の矢印『↑』を打ち込む。それだけでファクターの身体は宙に浮かぶ。空を飛びイレイザーに追いつくファクター。
『叩き落せ後輩!』
『いちいち言われなくてもっ!』
空中で縦に一回転するように両手剣を振りかぶる。見事に壁と壁を蹴り空中に居たイレイザーに当てる。イレイザーは両腕を交差させて防御するも。勢いだけはどうしようもない。地面に落下する。着地しようと身体を反転させようとした時だった。イレイザーは気づく。着地しようとしている地面には大量の爆弾。避けようにももう間に合わない。
黒い火柱が立ち昇る。またもファクターが巻き込まれかける。
黒い煤に汚れた様な有り様のイレイザー。
――over light
『OK over light born』
ファクター・ブラックが必殺技を構える。放たれる黒い極光。
狙っていた連撃。上から見ていたファクターも思わず関心してしまう。
『俺の事を完全に利用しやがった……』
まとも極光を喰らうイレイザー。なんとか腕でガードする事には成功したみたいだがじりじりと後ろに下がっていく。
『ぐっ……旧型の……必殺技程度で……!』
『ああ、だからその前に十分ダメージを与えておいた!』
極光が力を増す。イレイザーがその奔流に飲み込まれていく。
ファクターはただその光景を眺めている事しか出来なかった。
極光の放出が終わる。その先に倒れていたのは一人の少女だった。
地面に着地するファクター。
『えっ、まだ解除してないのに……』
『言っただろコイツは特別製だって』
少女の下に近づきお姫様抱っこのように抱え上げるブラック。
『……? おい何を』
『こいつは俺が貰っていく』
今度はブラックが壁を蹴り三角飛びで上へ向かって行く。
『おい待て!』
追いかけようとする。しかし。その瞬間に聯は意識を失った。
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