第7話 新たな力


「ヒヒッ。これはなぁ。世界の一部と言ってもいい細胞だ……これをお前に注入する……どうなるか分かるか

「分からないわよ! それよりホントにただの治験なんでしょうね?! なんで血液なんか……」

 真白の部屋、口を開いたように割れている大きな立方体が鎮座している。その立方体に座る女性と横に居るれい

「お前は神になれるかもしれないぜぇ……ハハハッ!!」

 そう言って注射器で少量の液体を女性のの腕に注射する糺。そしてそれが終わればすぐさま割れた箱が閉じて完全な立方体となる。

「イレイザーの新たな段階だ……!」


「ここが新しい拠点……ですか」

 オフィスビルの最上階。今そこにれんは居た。

「正確にはいくつかある拠点のうちの一つ……だがね」

 そう語るのはアーサー・ワンだ。内装は前の本部と変わらない黒い一色に染められた人によっては不気味に思えるかもしれない場所だ。今はその中の会議室に居る。

 丸い大きなテーブルを挟んでワンと聯は対峙する。少し離れた隣にはハクが居た。腕には包帯が撒いてある。

「今回呼んだのは他でもない。君の力についてだ」

 ワンは語る。

「俺の力?」

「そう君の耐性。ファクターになるための力。しかしハクの細胞が盗まれた今。それだけでは足りないのだ」

「ハクの細胞にそんな力が?」

「そうだ。彼女の超感覚とでも呼ぶべきソレは、イレイザーを作る装置を持ってしても封じ切る事は出来ないほどに凄まじい」

「……超感覚……それって第六感みたいな?」

「そのような領域に達していると考えてもらっても構わない。そして今、その力がイレイザーに転用されようとしている」

「いや、でも今、その装置を使っても封じ切る事は出来ないって……」

「ハクだけ……ならばな、だが一部だけなら話は別だ。恐らくハクの細胞を別の人間に移植して超感覚の一部だけを手に入れさせようとしているのだ」

 聯は思案する。

「それが成功するとどうなるんです?」

「恐らくより強力なイレイザーが誕生する、完全に成功すれば――」

 聯が生唾を飲み込んでその先を語った。

「ホワイト・ゼロがまた起こる……」

 会議室が静寂に包まれる。しかし、そこでハクが声を上げた。

「でもっ! まだ方法はある! 防ぐ方法が……」

 聯は様子のおかしいハクを見やる。

「ハク?」

「そこから先は私が話そう」

 ワンが言葉を継ぐ事になった。会議室に備え付けられたモニターに図が表示される。

「君にハクの細胞を移植する」

 端的に言った。ひどく単純に聞こえ呆気にとられる聯。

「それで、俺の力が強くなるんですか?」

「なる。我々の理論が正しければ……アーサー・ツー」

 ワンはツーを会議室に招き入れる。がらがらがらと台車を引いて現れるアーサー・ツー。

「はいはーい。これがハクちゃんの細胞とタイプ:ライターの強化アタッチメントね」

 台車に乗せられていたのは注射器と見た目と描かれた文字から見て電卓のように見える装置だった。

「強化アタッチメント……」

「これを使えば常時、加速状態で動けるような強化が施される、無論、腕力や防御力も同じく強化される。しかし常人では耐えられない負荷がかかる。まあ常人ではまず変身する事さえできないのだがね」

「だけどハクちゃんの細胞と聯君の耐性があれば、その負荷に耐えられるはず。今までの戦闘データも含め、そう結論付けたわ」

 そうツーは語る。聯には一抹の不安が残る。しかしそんな事を言っている場合ではない。

(またホワイト・ゼロが起きるかもしれない)

 それを許すことは聯にとっては絶対にあってはならない事だった。

「俺、やります。強化でもなんでも。それで白紙化現象から色んな人を救えるのなら」

「よろしい。ならば早速始めよう」

 そこから本当に単純だった腕を出し、そこにハクの細胞を注射する。そしてタイプ:ライターに強化アタッチメントを取り付ける。

 本当にこんな簡単でいいのかと思うほどだった。

 強化が済んだ。その瞬間、計ったかのようにイレイザー出現の警報が鳴り響く。

「テストも無しのぶっつけ本番かぁ……ワンさんどうします?」

「仕方あるまい。聯君。いやファクター行ってくれるね」

「はい!」


 オフィスビルの屋上に上る。そこにはもう既にローターを回したヘリコプターが用意してあった。ハクが大声で言う。

「乗って!」

「了解!」

 ヘリに乗って現場へと向かう。


 そこに居たのは明らかに今までと違うイレイザーだった。ノズルのような頭と機械のようなパイプの連なりがかろうじて今までのイレイザーと一致している特徴だった。だがそれ以外がまるで違う。まず人型ではなかった。

「あれはティラノサウルス!?」

「違うわイレイザーよ……私の細胞によって強化された……」

「……気にするなハク。俺がアレを止めてみせる」

「聯……」

 ――overwrite

『OK overwrite to the factor』

 その時、ドクンと胸の内から身体中に響くような感覚が駆け巡った。それは一瞬だったが思わず膝をつくほどの衝撃だった。

「聯!? 大丈夫!?」

『ああ……もう大丈夫だ。問題ない……それよりこれって』

 ファクターの騎士甲冑のような姿が変わっていた。新たに追加された装甲に各所にイレイザーのようなパイプが、しかしイレイザーのように乱雑な並びではなく整然と

して身体に沿って張り巡らされていた。

『これが新しいファクターか!』

 ヘリのドアが開く。ハクが大声で叫ぶ。

「今のあなたなら着地の衝撃にも耐えられる! 行って聯!」

『任せろ!』

 ヘリから思いっきり飛び出す聯。しかし内心、落ちる事への恐怖感が無かったといえば嘘になる。


 街中の交差点、ティラノサウルスイレイザーはノズルから白を噴き出しながらそこら中を白紙化させていた。

 聯は空中で軌道を修正してみせる。文字を打ち込まなくてもそれぐらいの事が出来るほどにタイプ:ライターの力が強化されていた。

 落下の速度も加えた一撃をティラノサウルスイレイザーに叩き込む。

 思い切り地面に叩き付けられるイレイザー。その反動を利用し器用に大きく弧を描くようにバック宙で着地するファクター。

 ――sword

『OK sword born』

 現れたのは今までとは違う巨大な両手剣、しかし今のファクターなら扱える。地に伏せたイレイザーに向かって振り下ろす。

 すんでのところでソレを躱すイレイザー。しかし剣が振り下ろされた先には大きな衝撃で地面に巨大な亀裂が走っていた。

 たまらず逃げ出すイレイザー。しかし一瞬の内に相手の前に回り込むファクター。両手剣を振るう。イレイザーの腕が千切れ飛ぶ。さらに振るう。足が斬れ、腹が斬れ、喉が斬れ、頭が斬れる。横になって完全に倒れ伏すイレイザー。

『新しいイレイザーってこんなもんかよクソ親父』

 吐き捨てるように言う聯。強大な力を手にして気持ちが昂っているのか。

 ――restoration

『OK restoration start』

 打ち込んで数秒、中から女性が出てくる。

 そして聯もファクターを解除した。その時だった。

「ぐっ!?」

 胸を貫くような苦しみが聯を襲う。耐え切れず地面に伏してしまう、

 ハクが近づいてくる。

「聯!? 大丈夫!?」

 地面に倒れているから見えないはずなのに、なぜかハクの表情まではっきりと見える気がした。いや感じ取れる気がした。

 聯はそのまま意識を失った。


「イレイザーもAoB もハクの細胞に手を出したか……」

 遠くから双眼鏡で戦いを覗いていた然が呟く。

「俺も対抗手段を得なければ……」

 そういって路地裏の暗闇へと去って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る