第6話 再会


 れんもファクターの任務が板についてが来た頃。

 いつものように車で家まで送ってもらったその日。ヤツは現れた。いやそこに居た。というのが正しい。

「え……」

 聯は自分の家のドアを開ける、するとそこにはすでに人が居た。一人暮らしのはずの聯の家に人が。

 最初は誰だか分からなかった。しかし忘れるはずもない。自分はずっとあの事故の事を忘れまいとブログを付け続けていた。の写真だって毎日眺めていた。だからすぐに理解した。

「……と、父さん?」

「あぁ……久しぶりだなぁ……聯」

「そんな父さんはホワイト・ゼロの時に死んだんじゃ……」

「死ぬ? 俺が? 有りえないだろ」

 半笑いで返す父であるれい

「じゃあ今まで何してたのさ!?」

 嬉しいはずなのに、死んだと思った家族が生きてて嬉しいはずなのに何故か相手の態度にふつふつと怒りが湧いてくる。

「何って……実験?」

「あんな事故があってなんの実験してたって言うんだよ!」

「事故? あーまあ、事故っちゃ事故だわなぁ。成功より天文学的数字くらい離れた成功だったからなぁ」

 その一言によって聯の怒りは恐怖へと変わる。

「成功? 何を言って」

 座っていた糺が立ち上がる。

「ホワイト・ゼロの事だよ。お前らが勝手にそう呼んでる。本当なら宇宙規模で世界を塗り替えるはずだったのによぉ」

 聯の身体が総毛立つ。何を聞いているのか分からなくなっていく。

「やっぱ核をにしたのは失敗だったよなぁ……まさか生き残って邪魔までしてくるなんてよぉ……やっぱ必要なのは」

『overwrite』

『OK overwrite to the factor』

 タイプ:ライターの電子音声が部屋に鳴り響く。

「あん? なんのつもりだテメェ」

『お前こそなんのつもりだ! 要するに全部アンタのせいってことだろ!? ホワイト・ゼロもイレイザーも! だったらここで俺がアンタを倒す!』

「ハッ! いっちょ前に言うようになったじゃないのガキが。でもいいのかなー? 生身の相手に向かってそんなの振りかざしちゃってぇ」

『生身だと……? どうせ配下のイレイザーでもいるんだろ?」

「いないんだなーこれが。で、どうするよ?」

『気絶させてAoBに連れて行く』

「エーオービー? はーん、なるほど。それがお前ら俺の邪魔をしてきた組織の名前か……で。どういう意」

 味と最後まで言わせなかった。顔面に一撃、拳を見舞った。衝撃で吹っ飛び壁に叩き付けられる糺。

 すると玄関からハクが入ってくる。

「今の音何……ってそいつは!?」

 思わず銃を構えるハク。しかしそれを制する聯。

『今終わったとこだから。AoB本部に連れて行こう』

 気絶した糺を担ぐ聯。父親に対する扱いとは思えなかった。思わずハクは聞く。

「聞いたの?」

『ああ、聞いた。ホワイト・ゼロを引き起こしたのはコイツだって。しかも俺を核に使ったって。ふざけてるよな……俺は被害者じゃなくて加害者だったんだ……』

「それは違う! 幼いあなたを無理やりイレイザーにしようとした糺が加害者で。あなたは何の罪もない被害者よ!」

『……ありがとう……それでも許せないんだ』

 家の前にAoBの車が到着する。糺をそれに押し込めた後。ファクターを解く聯。

「俺も連れて行ってもらえるんだよな? ワンさんと話がしたい」

「……ええ」

 そう言って二人は別に用意されていたAoBの車に乗り込んだ。乗っている間、一言も互いに口を利く事はなかった。社内は思い空気で満たされていた。


 AoB本部へ到着する。車から降りる。今だに気絶している糺をAoBのスタッフが抱えて降りてくる。そして中へ。


「まさか、こうもあっさりコイツが捕まるとはな」

 アーサー・ワンは四肢を拘束された状態の糺を見て語る。

「こいつがホワイト・ゼロの主犯だという事はもう聞いているそうだね?」

「はい……俺がその核になっていたっていう事も」

「ならば話は早いな。その後のイレイザー出現もコイツの仕業と十中八九思われていた。単なる自然現象であるはずがないとな」

「どうして今まで黙ってたんです。親父が犯人だって事」

「無用な情報だと思ったまでだ」

「あなたは俺が来た時、キセキの子供と呼んだ。だいたいみんな奇跡の少年とか呼ぶのに。あれって輝績糺の子供って意味だったんじゃないですか」

 半ば断言だった。

「言葉遊びだな。大した意味もない」

「相手が父親だったら俺が戦えなくなるって思っていたんですか?」

 静かな怒りがそこにはあった。

「その懸念もあった。まあ現状を見るに、その心配はいらなかったようだがね」

「……でもこれで。こいつが捕まって、もうイレイザーも出なくなるんですよね?」

 ワンは重々しく頷く。しかし。

「それはどうかなぁ」

 気絶し四肢を拘束されているはずの糺が口を開いた。辺りは驚愕に包まれる。全員が警戒態勢に入る。ハクが銃を構える。

「会いたかったぜぇハクゥ! やっぱりお前じゃないとダメみたいなんだわぁ!」

「まだあの計画を進める気なのか糺!」

「あんだよ、邪魔してたのってお前だったのかよ秋山ァ……お前だって一緒に研究した仲だろう? だったら分かるはずだ。俺達の手で世界を塗り替える事が出来る! これがどれだけ素晴らしい事かを!」

「狂人め……もういい! ハク! 撃て!」

「おいおい生身の人間殺すのかよ……っと?」

 バァンという破裂音が本部内に鳴り響く。ハクが引き金を引いたのだ。頭を打ち抜かれた糺は頭から白い液体を垂れ流す。

「何が生身だ。イカレ親父!」

『overwrite』

『OK overwrite to the factor』

 再びファクターへと変身する。『sword』と打ち込んで『OK sword born』というう電子音声と共に現れた剣を握りしめる。

「あらら、バレちった。もうちょい引っ張るつもりだったんだけどなぁ。不意打ち気分でなぁ? でもまあいっか。敵の本拠地が分かっただけでも収穫だわな。後はここを沈めるだけだぁ!」

 頭の傷からだけではない。身体中から白を噴出させる糺。辺りが白紙化現象に飲まれていく。

 片っ端からそれを切り捨てていく聯だったが、相手の勢いの方がはるかに強い。

『何かないか……そうだ!』

 ――bomb

『OK bomb born』

 現れた爆弾を手に取って糺の下へと投げつける。黒い爆風。白の奔流が止まる。

「ゲホッゲホッ。やってくれたな馬鹿息子……でもこっちも手に入れるもんは手に入れたぜ」

 そんな糺はハクを片手に抱えていた。

『ハクッ!?』

「コレさえあれな後はいらねぇ……じゃあなぁ!」

 白煙、これも白紙化現象だ。

『ハク! ハクーッ!!』

 白煙を切り捨てて、糺を追いかける。しかし相手のスピードに付いて行けない。

「よしっ」

 ――acceleration

『OK acceleration start』

 加速する。なんとか追い付いてみせる。

『オイ! ハクを放せ!』

「放すも何も、元からコイツは俺のモンだっつーのぉ!」

 糺からの蹴りが入る。それを剣で受け止める聯。すると糺の足が裂けそこから白の奔流が噴き出す。

『全身白紙化現象で出来てんのか!?』

「半分正解、半分間違いってとこかなぁバカ息子」

『だったらこれが効くはずだよな!』

 ――writing smash

『OK writing smash start』

 文字列が乱舞する。文字列が糺を捉える。その瞬間を狙って剣を振るう。ハクを持っていた片手を斬り落とす。文字列の隙間から白の奔流とハクが零れ落ちる。

 ハクを片手でキャッチしてもう片方の手にはエネルギーが集束する。

『テメェに書き! 殴る!』

 渾身の力を込めた一撃。爆発が起きる。巻き込まれないようハクを庇う聯。糺は吹き飛びAoB本部の出入口を吹き飛ばして外まで飛んでいった。

『終わった……のか?』

「いいえ、まだ終わってない……」

『ハク?』

 ハクが顔面蒼白になっている。白い髪と相まって、その光景は思わず聯のトラウマを刺激した。

『うっ……ど、どうしたんだ一体』

「血を……取られた……」

 そういって見せられたハクの腕は確かに流血していた。死の心配をするようなものでもないだろうが。それでも血は小さく流れ続ける。

『それってマズい事なのか?』

「とてもマズい事になった……」

 ただ茫然と二人は立ち尽くすしか他なかった……。


「ひひっ ひひひひっ! やっと手に入れたぞぉ! 一部分だけとはいえこれさえあれば! あーはっはっはっはっ!!」

 糺の高笑いが夜中の街に木霊する。

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