第4話 もう一人のファクター
連戦から数日経ったある日、メディカルチェックを受けなさいと例の秘密基地に呼び出される
「別に、疲れたぐらいで、怪我とかしてないのになぁ」
そんな風に考えながら身支度を整えるといってもただ外行きの服に着替えるだけだ。
季節は、春、暖かくなってきたので少し薄手のシャツに袖を通す。
適当にジーパンを穿いて外に出る。
「おはよう」
「うおっ」
ハクがそこに居た。
そういえば監視されてるんだった。
「あー、おはよう。ハクってちゃんと寝てる?」
純粋な疑問だった。
「
つまり、いつもはほとんど監視しているという事だ。
思わず頭を抱えたくなるが、何とか我慢してハクへついていく。
アパートの下に車が止まっているのが、部屋のある四階から確認出来た。
「今日は車なんだ」
「バイクが良かった?」
ブンブンと首を横に振る。
聯の顔は少し赤くなっていたのだが、ハクは気づいていなかった。
「そ、じゃ、ほら乗って」
車に乗せられ、ハクが隣に座ってくる。
今回は運転もハクではないらしい。
「じゃ出しますねぇ」
運転席から聞こえる女性の声、なんだかテンションが軽い。
車が動き出した。
AoB本部、メディカルルーム。
一通りの検査を受けた。
精密検査だったので、少し時間がかかって疲れた。
これも引きこもっていた弊害だろうかと、日ごろの運動不足を悔やむ
「全数値、異常なし。流石だわ」
医療系のバックアップを担当しまとめている立場らしいという事を説明された。
「流石って言われても、よくわかんないですけど……そんなにすごい事なんですか?」
「変身も、必殺技も、それなりに身体に負担のかかる行為なのよ。本来ならね。でも君はそれを克服していると言ってもいいわ」
「はぁ……」
そう言われても
「……実はね、君の前に前任者がいたんだけどね」
「前任者って、ファクターの?」
そんな話はワンから聞いてはいない。
「そう、彼は自然消滅するはずだったイレイザーから出て来た少年だった」
「……つまりそれは……自然消滅したイレイザーって、中の人は、どうなるんですか?」
答えが喉元まで出かかって怖くなって疑問形になってしまった。
「消えるわ、ファクターが助けなければ、イレイザーの核となっている者は消えてなくなってしまう……」
「……だけど、その少年は、消えなかった」
予期していた答え、人の死と関わっているという事実が聯に重くのしかかる。
しかし、何とか話を続ける。
「そう、君と同じだ。彼には『適正』があったわけね」
「適正……だけど、負担が大きかった?」
話の終着点としてはそこだろう。
始まりが
「そう……彼は変身するたびにひどく疲弊していた。僕は身体面だけじゃなくて精神面も担当してるんだけど、彼のストレスを取り除く事は出来なかったの」
「ストレス? 負担が大きいから辞めたんじゃないんですか?」
思わず首をかしげる。
「彼はコンプレックスを感じていた、まともに戦えない自分を不甲斐ないだなんて考えていたんだ。そんな事、ないのにね」
悲し気なツーの横顔に、なんて声をかければいいか分からなかった。
「終わった?」
ハクが会議室で待っていた。
「あ、ああ。今終わったとこ」
「そう、じゃ送るわ」
「……ありがとう」
「だから、サポートは私の仕事、礼はいらない」
「いや、仕事って言ってもさ礼くらい言ってもいいじゃんか、俺はありがたいと思ってるんだし」
「……はぁ、もう好きにしたら? 今日、運転するの私じゃないのに」
そういや、そうだったと思うがもう遅い。
地下の本部を出ようとした時だった。
警報が鳴り、照明が赤に変わる。
スクリーンに映し出されたのは。
「イレイザー……!」
「残念だけど、家に帰るのはなしみたい、行けそう?」
「問題ない」
現場に着く。
腕がローラーになったイレイザーが辺り一面を白く塗り替えている。
「これ以上やらせるか!」
――overwrite
『OK overwrite to the factor』
文字を打ち込み、銀の鎧に身を包まれる。
まずはswordと打ち込んで武器を手にしようとしたその時だった。
――bomb
『OK bomb born』
聯ではない、別の場所からタイプ:ライターの電子音声が聞こえてくる。
イレイザーと自分の間に転がってきた丸い物体。
さっきの言葉通りなら――
『――爆発する!』
何とかしてその場から離れ、地面に伏せる。
轟音。
光と熱、聯は自分の出した必殺技を思い出していた。
起き上がり、様子を見る。
モロに食らったイレイザーが地に伏せている。
――restoration
『OK restoration start』
またしても自分のモノではないタイプ:ライターの音。
イレイザーが人間へと戻っていく。
煙でよく見えないがそれとは別の立っている人型のシルエットがうっすら見える。
『誰だ……?』
シルエットがこちらに向き直る。
そして駆け出してくる、煙の中から現れたのは。
『黒い……ファクター!?』
黒いファクターは、勢いのまま
『っとお!?』
すんでのところで躱す。
『先輩には、敬語使うべきだよ、なッ!』
今度は蹴りが飛んできた、何とか腕でガードする。
『先輩、って例の前任者!? 辞めたんじゃなかったんですか!?』
敬語を使えと言われ、暴力を振るわれている最中だというのについ言う事を聞いてしまう。
『ああ、辞めたさ、逃げ出したさ、タイプ:ライターを持ち出して、今じゃ俺はお尋ね者だ』
『はぁ!? いやいや、持ち出したって、いやでも、そんな話してなかったし、というかなんで俺を攻撃してくるんですか!?」
言いたい事はたくさんあったがそこに行きついた。
『お前が、妬ましいからだ』
はっきりと宣言する。
そう堂々と言われてしまうと、なるほど~と納得しかけてしまう。
『いや、だから、おかしいですって、なんか俺、あなたにしましたか!?」
『俺が出来なかった事を、ああも平然に! 俺はお前が羨ましい!』
言わせておけば好き勝手な事ばかり。
『俺だってねぇ! 苦労して』
――spear
『OK spear born』
槍を喉元に突き付けられる。
『自分だけが特別だなんて思うなよ』
その時だった。
その槍を弾くように銃弾が飛んできた。
『なっ!? 警察!?』
『ハク……邪魔をするな』
銃を撃ったのはハクだったらしい。
拳銃を握るハクの姿を確認する
「
『言ってろ、おい後輩、今日はこのぐらいにしてやるがな、次は潰す。俺の邪魔をするな』
ファクター・ブラックは一気に飛び上がり建物の上を飛んで現実でアクションゲームをやっているかのような動きで去っていく。
自動的にファクターの鎧が解除される。
「なんなんだよいったい……」
「
「好き勝手?」
「彼は何か知ってて隠してる。どうやらイレイザー絡み、だからイレイザーを倒しながら、その発生源を追ってる。だけど、それは本来、私達AoBの仕事」
「……AoBの邪魔をしてる?」
「正解、災難だったわね」
そう言いながら、
「……イレイザーの発生源」
知らない事が多すぎる。
聯は自分の境遇に一抹の不安を抱きながら、プリンの甘さに舌鼓を打っていた。
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