第3話 放て! 必殺技!
現場に到着する。
すでに白がまき散らされていた。
イレイザーが筆を振り回し、飛沫を飛ばしている。
「さあ、
「お、おう」
初めての二人乗りで少し緊張していた。
何とか、それを振り切って、イレイザーと対峙する。
「打ち込むワードは?」
ハクが聞く。
『overwrite!』
『sword』をタイプ:ライターに打ち込んで剣を持つ。
筆と剣が互いに構えを取って、にじり寄って行く。
最初に攻撃を仕掛けて来たのはイレイザーだ。
その白の飛沫を切り捨てる。
「楽勝!」
走り迫って、剣の一撃を見舞おうとする。
しかし、そこで筆のイレイザーが、虚空に筆を振るった。
すると真白の壁が生み出される。
『うわぁ!? なんだこれ!?』
「落ち着いて、空中にだって白紙化現象は起きる、空中にだって様々な粒子が飛んでいるんだから」
『ほんっと、理屈ばっかりだな、アンタ達は!? クソっ、どこ行った!?』
イレイザーを探すファクター。
しかし壁の裏に回っても、その姿は見えない。
その時、ハクが気づく。
「
ビルの外側に付けられている非常階段まで逃げていたイレイザー。
見つかった事に気づいて上から飛沫を降らせてくる。
必死に剣でそれをガードするファクター。
『どうしたら……!?』
タイプ:ライターが反応する。
『write shield』
『盾か! よし!』
打ち込むと虚空にshieldの文字が浮かぶ。
掴むとそれは大型の盾となった。
盾は飛沫を防いでくれる。
『よっしゃこれで近づける! サンキュー、タイプ:ライター!』
『You are welcome』
非常階段を駆けあがるファクター。
踊り場で再びイレイザーと真正面から対峙する。
剣を振りかぶる。
しかし、避けられてしまう。
『あれ?』
「あなたの戦い方じゃ盾を持ちながら、剣で戦うのは無理なんじゃない?」
ハクの言葉にむっとなる。
確かに、この巨大な盾は視界の邪魔だが、中世の騎士のごとく剣と盾で戦ってみせようじゃないかという謎の対抗心が
何度もイレイザーに向かい剣を振るうも当たらない。
壁や手すり、階段に当たって、手がしびれた。
イレイザーは再び壁を作り行方を晦ましてしまう。
「なにやってんのよ!」
『うっせー! あーもう、次はどこに行った……!? ハク、危ない!?』
恐らく非常階段から飛び降りたイレイザーはハクの後ろに回り込んでいた。
しかし、ハクは冷静に、その場から距離を取って、体勢を立て直した。
『……すげぇ』
「訓練してればこれぐらい当たり前、それより、私、攻撃手段とかないから助けてくれると嬉しい」
『わ、分かった。えーと、そうだ「gun」!』
『OK gun born』
虚空にgunの文字、掴めばそれは拳銃へと変わる。
『ハク! もっと離れてろ!」
非常階段の上から、狙い撃とうとする。
しかし、その銃撃は一発もイレイザーに当たらない。
「射撃訓練も受けてないのに銃は無理よ」
バッサリ切り捨てられた。
『ええいもう!』
イレイザーと同じように非常階段から飛び降りる。
しかしそれを待っていたかのように、イレイザーが筆を構えていた。
(しまった、空中じゃ防御が!?)
落ちながらイレイザーに銃で狙いを付けて発砲する。
当てずっぽうの一撃だったが、何とか一発ヒットした。
それにひるんだイレイザーは空中にいたファクターへの攻撃を中断せざるを得なくなる。
ファクターは再び装備を剣へと変更する。
筆で虚空に描かれる模様を次々と切り落としていく。
『初めからこうすりゃよかった』
しかし、あと一手に欠ける。
前回のふらふらと動くイレイザーと違い、このイレイザーの動きはとても機敏だ。
壁を描かれては切り落とし、その隙に移動したイレイザーを探し、見つけ出して斬りかかろうとすれば壁を張られる。
『キリがない!」
その時、ファクター内部に通信が入る。
『
『ハク? どうしたんだ。何か打開策があるのか!?」
『あるには、ある。ファクターには「必殺技」があるの」
必殺技、この言葉に、心奪われない男子がいようか。
かくいう
『お、おう、必殺技ね、必殺技……それってどんなの? かっこいい?』
『かっこいいかどうかは知らないけど……今のイレイザーには有効なはず、ただし、
ファクターは相変わらず戦闘を続けながらも、かっこつけて言う。」
『必殺技を撃てるなら、多少の負担ぐらい乗り越えてやるぜ!』
『そ、そう。じゃあタイプ:ライターにこう打ち込んで』
表示された文字列は『writing smash』
(……ん? 書き、殴る?)
これはダジャレの一種なのではと思ったのは、必殺技が発動した後だった。
『OK writing smash start』
ファクターの周りを大量に浮かぶ文字の乱舞。
『これを、どうしろって!?』
『それでイレイザーを拘束して!』
ハクの言葉。
文字で拘束しろとはどういうことだと思いつつ、ええいままよと身体を動かす。
すると、それに呼応するかのように文字達も、動きを変える。
ファクターは手をピストルの形にしてイレイザーを指し示した。
『行けぇ!』
一斉に動き出す文字の乱舞。
それは先ほど、ファクターを囲んでいた時のように、その周りをぐるぐると回る。
いや違う、その回転の範囲は狭まり、まさしくイレイザーは文字に拘束された。
『よっしゃこれで、倒せる!』
『OK writing smash!』
タイプ:ライターの音声と共に身体が勝手に動く。
拳に文字列が集まる。
ファクターの鎧越しにも熱を感じるほどのエネルギーの集束。
(これがハクの言っていた負担だろうか)
そんな事を考えながら、思いっきり振りかぶる。
全力で、ぶん殴る……いや。
『全力で! 書き殴る!』
文字を纏った拳が、文字に囲まれたイレイザーへとぶつけられる。
すると、拳の文字が、拘束していた文字にその熱量を波及させていく。
黒い文字列が赤へと変わる、灼熱がイレイザーを包み込む。
『writing smash end』
タイプ:ライターが終わりを告げる。
爆発。
その閃光は目の前にいたファクターも思わず目を細めるほどで。
その熱は身が焼けるかと錯覚するほどで。
だが、まだ完全に倒したわけではない。
『えっと、確か「restoration」だっけ』
『OK restoration start』
イレイザーが文字に完全に飲み込まれ、残ったのは、髪の毛や髭を乱雑に伸ばした男性だった。
ハクはどこかへ行ってしまった。
『終わった……はぁ……なんか、どっと疲れた』
「そりゃ、それが必殺技の負担だからね」
いつの間にか近づいて来ていたハクが言う。
ファクターの鎧が自動的に解除される。
「……それって、どういう意味?」
「必殺技はファクターの生命エネルギーを消費して放たれる。だから疲れるのは当然。はいコレ」
ビニール袋を渡される、それは白い、だがさっきまで白い怪物と戦っていたのだ。
ビニール袋がなんだ、と
「……シュークリームだ」
「好き、なんでしょ?」
コレを買いに行っていたのかと思い、感じた事をそのまま言葉にする。
「優しいんだな」
「戦っている人間をサポートするのが、私の仕事、これは当たり前の事をしてるだけ、はいカフェオレ」
ペットボトルを渡される。
これも、好みのブランドだった。
ありがたく受け取る。
シュークリームを食べて、カフェオレを飲む。
それだけの事が、さっきまで戦っていた緊張感と、疲れから、少し
「ありがとう」
「言ったでしょ、当たり前の事をしてるだけ、礼なんて必要ない」
「それでも、ありがとう」
ハクはそっぽを向いてしまう。
「変なの、当たり前の事なのに」
「それでも嬉しかったんだ、お礼くらい言わせてくれ」
「あーもう、わかったから。元気になったんなら家まで送るわ。大丈夫?」
気を取り直してハクが聞く。
「シュークリーム、まだ食べ終わってなくて……」
「はぁ……」
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