第3話
1日たった今でも私は項垂れていた。
その項垂れ様は酷く、負のオーラを身にまとった怪物と刑務所内でたちまち噂となった。
私の冒険者ライフはどこに行ったのか。
勇気を出してまで服を脱ぎ捨てたにもかかわらず上がるのは俊敏性ばかり。服の重さにも耐えられない体なのかと涙がでてくる。
幼き頃から夢見ていたハーレムライフなど影も形もない。
横にいるはずのボンキュッボンのエルフ美少女にはお目にかかることすらも出来ず、同じ牢屋に居たのは幼稚な体躯の少女であった。
「ハーレムライフよ、どこぞの冒険者について行ってしまったのだい。知らない人にはついて入っちゃダメとお母さんから教わらなかったのか」
自分が知らない人だということに気づかずに、ぶつくさと不満を垂れ流しながら亡きハーレライフを想い、土下座の体制で壁に頭を打ち付けていた。
「どうしたんですか、そんなに頭を壁に打ち付けて。あ、若ハゲですね。辛いでしょう辛いでしょう、哀れんであげますよ。でも頭に振動を与えても髪が増えるとは限りませんよ?」
黙るがいい絶壁が。まだ十六だぞハゲてたまるか。
…え、ハゲてないよね、ハゲてないよね⁉︎
私の不安を煽った後、彼女は話を変えるように、いや、思い出したように言い放ったのだ。
「そう言えば貴方、命中力がめっちゃあるだけで、その他のステータスがカッスカスだった人じゃないですか」
…………異議あり!!
「カッスカスじゃありません。2ありました、2もありました」
「自分で言ってて恥ずかしくないんですか?平均値の十分の1も満たしてないし、攻撃力に関しては三十五分の1ですし、、」
クッソ、 痛いところをつきやがる。
地味に計算早いのもムカつくポイントではあるが、低ステータスの私は何も言い返すことが出来ない。
今更ながら思うのだが、こんな低ステータスでは魔王はおろか、モンスターどもを倒すことは出来たのだろうか。
そもそも、弓も引けないこの筋肉で冒険者が務まるのだろうか、と。
(務まるんじゃよ)
いいや務まるわけがない。
(何を言うか、お主には特別な力があるだろうに)
そうか、私には特別な力がある。この力をもってすれば魔王なんて敵じゃない。
「(私は、強い!!!!)」
【スキル・ポジティブ】発動。魔力消費2。
ポジティブを使った私の頭の中は麗しくも悲しいお花畑となり、調子に乗った魔法のせいで数時間魔力が回復しないのであった。
そもそも、スキルであるポジティブはオートスキルであり鬱状態の予防、回復の効果を持つ。
通常の冒険者であれば、「魔力消費2?そんなんくれてやるよ」レベルの話であるが、私は違う。
「魔力2ごときが何やってるんですか、ニヤニヤと気持ちの悪い」
その通り。わたしの魔力2しかないのである。
「無駄なことに使いよって」と感じる人も少なからず居るとは思うが、間違ってはいけない私だって使いたくて使った訳では無いのだ。
情緒不安定である私のメンタルはまさに豆腐そのものであり、それを補うために魔法が自動的に発動してしまったのである。
しかし、たかがポジティブではあるが、されどポジティブである。
この時誰も知りえなかった、私ですら知らなかった。
ポジティブは感染する。
『スキル・ポジティブ 自身のナルシスト度の高さ、自身の愚かさ、メンタルの脆さにより効果が上下する』
「なんかあなたを見ていると、自分がものすごく強くなったように感じますねぇ。あれ、魔力が漲ってきた気がします。1発ぶちかましますか」
「ん?お前何をするつもりだ」
とてつもない嫌な予感、
「我が身に宿れ、黄金の怒槌。全てを飲み込む大いなる力」
「お、おい!」
彼女の周りに禍々しく膨大な魔力が形を成して渦を巻く。
「五代神よ、この世界に鉄槌を。究極特大龍滅魔導 アウト・オブ・スタンダァァァァァァドーーーー‼︎」
「ヤァんメロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「アンロック!」
? …アンロック。
カチャッ
牢屋の鍵が音を立てて開いてしまった。
クソッ、アイツやりやがった。
「おい、大層な前置きしといてアンロックかよ。しかもこのままじゃ脱獄犯じゃないか」
「あれれーおかしいぞぉ。アンロックを上級魔法とも知らない愚か者がこのあたしに反論をしているゾォ」
自分の魔法に酔っている彼女の勢いは止まることを知らず、高橋名人の連打の如く私に降り注ぐ。
まさに16連射である。
だが、私も負けてはいない。
名前も知らない彼女に対し、あることない事ほざいてみては、時たま大声であるはずのない幼少期の恥ずかしかった思い出を叫ぶのである。
実にタチが悪い。
しかし、我ながらいい才能である。
そんな無意義であり無意味な無価値戦争は白熱さを増し続け、他の牢屋の方々にご迷惑をかけるまでに発展した。
しかし、そんなことを許すような看守はこの国にはいらっしゃらなかったようで、すぐさま私たちを見つけてしばき倒し、独房へとおくって下さったのである。
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