人の心とノートは覗かない方が良い
俺は、水無月さんに膝枕されながら、フィーネを膝枕して、淑蓮の顎の下を撫でている。
水無月さんの住んでいるマンション。
そこで、俺は、作戦会議+餌付けを同時に行っている。金持ちの家だから居心地が良いし、風呂にはジャグジーが付いてるし、冷蔵庫には俺の好物が入っている。高圧電流が流れるペットケースさえなければ、拠点として文句のつけようはないだろう。
「それで」
幸せそうに、俺の頭を撫でている水無月さんはささやく。
「どうするの?」
「どうすっかなぁ……」
「はぁい、ローテーション!! ローテーションッ!!」
水無月さんを突き飛ばした淑蓮は、俺の頭を抱え込んで、顔面を胸で潰してくる。
「
般若心経が恋文(洗脳)として使われることになるとは、釈迦も思うまいよ。
水無月さんに蹴飛ばされて、床を転がっていたフィーネは、立ち上がって
「…………」
「…………」
俺の反応をちらちらと
「う、腕枕……」
「は?」
雑誌で顔を隠したフィーネは、顔を真っ赤にしてつぶやく。
「腕枕……して……欲しいかも……」
「じゃあ、気のせいだろ。失せな」
妹の脇腹に拳をぶち込んで、どうにか気道を確保する。狭まっていた視界が開けると、涙目のフィーネが下唇を噛んで立ち尽くしていた。
「ぐっ……ぅ……」
ほえ~、鬼の目にも涙~!
「アキラくん……腕枕くらい、してあげたら……あの子、アキラくんの前では、小学校高学年くらいの精神年齢なんだから……たぶん、このまま泣かせてたら、この後のパフォーマンスに響くと思うわよ……」
俺の上着に顔を突っ込みながら、水無月さんがまともなことを言ってくる。
仕方ないので、右腕を差し出してやると、嬉しそうにとてとてと近寄ってくる。衣擦れの音がして、そっと、彼女が俺に寄り添った。
「…………」
どれだけ、感情的に昂ぶっているのか、腕を通して心音が伝わってくる。異常なまでに速い。露骨なまでの視線を感じる。
「…………」
フィーネの方を視ると、ぷいっと、彼女は顔を背ける。
「…………」
そして、また、強烈な視線を浴びせられる。
横目で確認すると、フィーネの顔は、ものの見事にとろけきっていた。理想の王子様に巡り合った、純粋な少女のような表情。恐ろしいまでに整った顔立ちも、愛らしく朱が差すと、可愛らしく視えてくる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
こ、呼吸音が聞こえない……こ、コイツ、息、してねぇ……どれだけ、集中して、俺の顔視てるんだ……利用しやすくて良いね……!(いいねマーク)
このまま、ご褒美タイムを長引かせると、どんどん要求が大きくなると考えて終了を宣言した。俺のズボンをハサミで切り刻んでいた淑蓮や、注射器を取り出していた水無月さんがブーイングの声を上げたが無視する。
それに比べれば、フィーネは天使と言っても良かった。この俺の愛によって、フィーネは、ついに狂気の世界から抜け出したのだ。
「フィーネ」
褒めてやろうと声をかけると、彼女は反応を示さない。
どうやら、なにか、メモをとっているらしい。
フィーネは、一心不乱にノートへと、ボールペンを走らせている。瞬きひとつせずに、ガリガリと、紙面を削るようにして書き込んでいた。うっすらと笑みを浮かべていて、なんだか楽しそうだ。
「フィーネ、なにを書い――」
絞首斬首梟首切腹鋸挽き生き埋め沈河十字架薬殺杭打ち串刺し磔刑腰斬皮剥ぎ腹裂き凌遅抽腸烹煮四つ裂き八つ裂き石打ち火あぶり生き埋め釜茹で銃殺突き落とし車裂き電気椅子炮烙圧死猛獣刑蟇盆吊し刑引きずり回しノコギリ刑敲刑断指刵刑劓刑抉眼腐刑臏刑断手四解剖棺斬屍樽ファラリスの雄牛異端者のフォーク鉄釘の首輪ユダの揺りかご鉄の処女頭蓋骨粉砕機舌切りカタリナの車輪ネズミ拷問キールハウリングブレスト・リッパースキャヒズムセメント靴ギロチンアップライト・ジェーカーグリッドアイロンスパニッシュ・ティックラーコロンビアン・ネクタイ絞首斬首梟首切腹鋸挽き生き埋め沈河十字架薬殺杭打ち串刺し磔刑腰斬皮剥ぎ腹裂き凌遅抽腸烹煮四つ裂き八つ裂き石打ち火あぶり生き埋め釜茹で銃殺突き落とし車裂き電気椅子炮烙圧死猛獣刑蟇盆吊し刑引きずり回しノコギリ刑敲刑断指刵刑劓刑抉眼腐刑臏刑断手四解剖棺斬屍樽ファラリスの雄牛異端者のフォーク鉄釘の首輪ユダの揺りかご鉄の処女頭蓋骨粉砕機舌切りカタリナの車輪ネズミ拷問キールハウリングブレスト・リッパースキャヒズムセメント靴ギロチンアップライト・ジェーカーグリッドアイロンスパニッシュ・ティックラーコロンビアン・ネクタイ。
水無月結、桐谷淑蓮と中心に大きく名前が書かれ、その名前を塗りつぶすようにして、羅列されている処刑方法。
「…………」
俺は、笑顔のままで、フィーネから離れる。
水無月さんと淑蓮に対して、彼女は、ものの見事に嫉妬の情を抱いているようだ。ノートに書き込むことで、その衝動を吐き出しているらしい。
行動に移さないだけ、成長したね♡ 俺が対象じゃないなら、OKだよ♡
何回か、遠くから呼びかて、フィーネは正気を取り戻した。恥ずかしそうにノートを隠していたが、ちょっとその反応は違うかなと思った。
「渚くんとの勝負方法は、アキラくんが指定するんでしょう?」
ようやく、本題に入る。水無月さんの問いかけに、俺は頷きを返した。
「先生は俺の心を折るのが目的だから、むしろ、勝負方法を指定してもらったほうが有り難いでしょうね。
時には、有利が不利にもなる」
「なら、幾らでも仕込める時間はあるよね。コレって、もう、お兄ちゃんの勝利確定じゃないの?」
「一回、敗けてるけどな」
数秒間、沈黙が張り詰めて、フィーネが愛らしい声を上げる。
「Aww……どちらにせよ、アキラくんの得意分野を選ぶべきじゃない?」
俺は、目を閉じて――開ける。
「いや、逆だ」
そして、不敵に微笑む。
「先生の得意分野で勝負しよう」
三人は目配せし合って、俺は腰を浮かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます