ダーリン、監禁ゲーム(クソゲー)
「アッハッハ、僕、ゲームは苦手だなぁ」
アロハ・カニオ(武器)を構えた俺に対して、鋭利なナイフをもったフィーネは、笑顔のまま室内に踏み込んでくる。
「大丈夫だよ、楽しくて簡単なゲーム」
テーブルにナイフを突き刺した彼女は、笑ったまま言った。
「『ダーリン、監禁ゲーム』だよ」
ゲーム名だけで、ろくでもないクソゲーだということがわかるわ。
「それじゃあ、早速、ルールを説明するね」
参加表明もしてないのに、ルール説明を始めるな。
「ダーリンはこの島のどこかに隠れて、絶対に見つからないように息を潜めるの。参加プレイヤーであるフィーネとウンヤは、ダーリンを探し求めて、この島を彷徨い歩き……先に見つけた方のプレイヤーが勝利。
敗北したプレイヤーは――」
月光を浴びた
「死ぬ」
金づる同士のデスゲームとか、わくわくすっぞ!!
「つまり、ダーリンは、『生かしたい』プレイヤーに見つかればいいの。逆に『死んでもいい』と思ったプレイヤーには見つからないように努力して」
「なんで、そんなことをするんだ?」
「……呪いかな」
親指に描かれた顔を視たフィーネは、どこか哀しそうにつぶやく。
「フィーネはね、ウンヤに勝たないといけないの。勝たない限りは、〝あの頃〟から一歩たりとも進めない」
「復讐か?」
「違う」
微笑んだ彼女の美貌は、月の魔力を超えて、雲上の天使に至ったかのようだった。
「コレは、〝愛〟だよ」
絶対的な勝利を確信しているかのように、ふたつの
「思えば……
第二婦人? なんの話?
「思い出話は終わり。ウンヤがこの島に入ってきた以上、フィーネとの確執は避けられなかったんだよ。
さ、ダーリン、逃げて」
「いや、逃げるのは良いんだが……俺のメリットはなんだ?」
「え?」
呆けているフィーネを前に、腕組みをしている俺は応える。
「逃げると体力を使うよな? 体力を使ってまでお前らから逃げて、俺に何のメリットがあるんだ? そもそも、楽しくて簡単なゲームとか抜かしてたが、逃げる俺にとっては何が楽しいゲームなんだよ?」
「……フィーネたちに見つからない状態で、一秒が経つごとに100ドル贈呈するよ?」
俺はフィーネの脇を通り抜けて、勢いよく窓から飛び出しながら反転、窓枠を掴んで勢いを殺し着地と同時に受け身をとる。
「えっ」
驚愕で身動きがとれないフィーネの死角をとるために、俺は斜め右方向へと全速力で駆け出し、島の中心部に向けて森の中に踏み込んでいった。
「だ、ダーリン! ちょ、ちょっとストップ!! 今回の趣旨は、ダーリンがどちらを選ぶかっていうことで――」
「2.7時間」
「え?」
闇夜に隠れた俺は、声の方向で位置がばれないように、ゆったりとした動作で移動しながら叫ぶ。
「2.7時間で100万ドルだ。
現代サラリーマンの生涯賃金の平均は、大卒で定年まで働いたと仮定すると、退職金と合わせて2億7492万円。つまり、2億7492万円を稼いでしまえば、人はそれなりの生活で一生を送ることができる。
この島に来る前にチェックした時は、1ドル109円だった。そう考えると、100万ドルは1億900万円。5.4時間逃げ切れば、2億1800万円だ。家族をもたない〝俺一人〟で考えれば十分な額面」
溢れ出る幸福が口から漏れ出て、俺は思わず一人で微笑む。
「5.4時間だ。5.4時間、お前らから逃げ切ってやる。
契約は守れよ、フィーネ。もし、嘘をついたら、俺はお前のことを嫌う。今後、絶対に愛することはない」
「そ、そんな……だ、ダーリン、それだけは……」
「アーハッハッハッ!! だったら、公言したことは遵守するんだなぁ!!
じゃあな、フィーネ! 5.4時間後に会おうぜ!!」
颯爽と走り出した俺は、柔らかいなにかにぶつかって後方に尻餅をつく。
凄まじい殺気を肌に感じ、嫌な予感をひしひしと感じて、俺が恐る恐る顔を上げると――ソコには、
「よう、桐谷」
悪鬼のような面をした雲谷先生は、年齢という名の壁を感じさせる威圧感をもって、微笑み混じりにこちらを見下ろす。
「せ、先生」
このままでは殴られると悟った俺は、両腕を封じるために先生に抱き着く。
「うぇえ!! 怖かったよぉ!! しぇんしぇい、しゅきしゅきぃ!! しゅきぃ!!」
嘆息を吐いた先生は、大好きホールドする俺を抱えたまま、屋敷の方へとゆっくり歩いていった。
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