えっちな撮影会、はじまるよー!

「よく聞きなさい、あんたは由羅ゆら先輩に、自分の写真を撮るように頼むのよ」

「俺の写真?」

 

 俺の口から出た疑問に対し、マリアはスラスラと答える。


「そう、あんたの写真。

 あんたがどっかで自撮りするにしても、現況、他に待たせてる人間がいる時点で現実的じゃない。だったら、〝あんた自体〟をアトラクションにすればいいのよ」

「つまり、由羅にとっては『俺の写真を撮るアトラクション』、水無月みなつきさんからすれば『俺の写メが送られてくるアトラクション』ってことか?」

「そういうこと。要は、水無月結に、時間を忘れさせればいい。あの人を釣るなら、あんたが一番でしょ?」

 

 最近、自分が生き餌みたいに感じてきた。


「しかし、写メが原因となって、淑蓮すみれたちとの遊園地デートが、水無月さんにバレるリスクが高まるんじゃないか?

 由羅の手を借りる以上、嫉妬しっとを煽りかねないし」

「知らない。そこら辺は上手くやれば?」

 

 丸投げフリースロー。


「それに、写真を撮るにしても、その程度じゃ刺激が足りないんじゃないか?」

「刺激?」

「由羅にとっても水無月さんにとっても、俺関係のアトラクションは大歓迎だろうが……奴らは生きている俺でマスクを作ったり、不法侵入を繰り返して、寝ている俺の顔面で画像フォルダを埋めるような連中だぞ?

 今更、ただの俺の写真程度で、水無月さんヤンデレの意識を逸らせるとは思えんが」

「……前から疑問だったんだけど、なんで、あんたは正気でいられるの?」


 最近、拉致監禁らちかんきんが、お友達の別荘に遊びに行くような感覚になってきたから。


「もう少し、刺激を増す方法はないか? ただ写真を撮るだけじゃ、ヤンデレ相手のアトラクションとしては不十分だ」

「写真で、刺激、刺激……あっ」

 

 電話口の向こうから、明らかな〝閃き〟を示す一音が届き、俺は「なんだ? なにを思いついた?」とせっつく。


「えっと……その……ただの写真を撮るんじゃなくて……え、えっちな写真を撮ってみる、とか?」

「えっちな写真? 例えば?」

「えっ……た、例えば……えっと、その……ちょ、ちょっと、鎖骨を出してみるとかは?」

 

 お前、絶対、処女だろ。


「その例えは、お前のフェチにかたよりすぎてる気がするが」

「は、はぁ!? お、男の子の鎖骨いいでしょ!? バカじゃないの!?」

 

 コイツのフェティシズムのせいで、この作戦自体が成功しないような気がしてきた。


「エロ写メ作戦……」

 

 しばしの間、思考を巡らせた後、マリアへと問いかける。


「それって、いけんの?」

 

 結果として、俺はその策をみ――由羅との対面を果たした。




「なら、まずは全裸になりましょうか?」

「えっ」

 

 俺からの『エロ写メ、撮って?』というお願いに対して、片目を隠した由羅は愛らしく微笑んでそう言った。


「エロティックな写真を撮るとなれば、アキラ様の性的アピールは必要不可欠となりますし、芸術的な観点から視てもアキラ様が全身を晒すことは必須となります。前々から、アキラ様の素晴らしさを伝えるには、何かが足りないと思い悩んでいましたが、ボクはようやくその何かがわかりました。

 エロです」


 急に流暢りゅうちょうしゃべりだすな。


「さ、脱いで下さい。お手伝いしますか?」

 

 髪の隙間からのぞく片目を爛々らんらんと輝かせた由羅は、ジリジリと俺との距離を詰めてくる。


「い、いや、あの……」

「そもそも、アキラ様は、先ほど『エロ写メ』とおっしゃっていましたが、どなたにお送りするのですか? お答えによっては、公式ファンクラブ会長として、メンバーの方々に送付する会誌の内容を書き換えなければいけません」

 

 本人に許可をとらずに、公式名乗るのはオカシイよね?


「ゆ、由羅」

「……え?」

「ゆ、由羅に、俺のえっちな姿を視てほしいんだ」

 

 エロライトノベルのヒロインになった気分!


「え……あえ……?」

 

 ぱくぱくと口を開閉させ――由羅の白白しろじろとした肌が綺麗な朱色をともない、彼女は自分の両手を頬に当てる。


「そ、そんな……ぼ、ボク……だ、だって……あ、アキラ様……え、えっちな……そんな……ボク……す、好き……こ、こんなの、ますます好きになっちゃいます……」

 

 やめて(切実)。


「だがな、由羅。さすがの俺も、この場での全裸には抵抗がある。だから、もう少し、チラリズムとかそう言ったものを重視して――」

「わ、わかりました……」

 

 夢現ゆめうつつのぽうっとした表情で、由羅は淫靡いんびな光を目に宿らせる。


「ぼ、ボク……アキラ様の――」

 

 とても良い笑顔で、由羅は言い切った。


「絶望の底に沈みきった、ぐちゃぐちゃの泣き顔が撮りたいです! チラリズムとして、衣服は98%カットで!」

 

 誰も、服の方のチラリズムは望んでねぇよ。


「さ、アキラ様」

 

 興奮で顔を赤らめる由羅が、息を荒げながら腕を伸ばしてくる。


「お、お洋服……ぬ、ぬぎぬぎ、しましょうね……」


 なるほど、コイツ、何が何でも〝チラリズム〟を軽視するつもりか――俺の中の熱い血潮フェティシズムが『それは許さない』と叫び始める。

 

「いいぜ、かかってこい」


 俺は覚悟を決めて、上着を腰から外し――


「俺とお前、どっちが俺のエロい写真が撮れるか――」

 

 社会の窓ズボンのチャックを全開にした。


エロ写メ三番勝負フォトバトルだ」


 本物のチラリズム、見せてやるよ。

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