三人のヤンデレを追い払え!!

 差出人:桐谷淑蓮きりたにすみれ

 宛先:桐谷彰きりたにあきら

 件名:

 本文:お兄ちゃんの淑蓮が、下駄箱までお弁当箱を届けにいきまーす(≧∇≦)

    お兄ちゃんが持って行ったお弁当、実はからなんだよ(笑)




 考える中で、最悪の状況が舞い込んできたわ。

 

 朝のホームルームの最中に届いた死亡フラグメールは、俺の思考速度を加速させて生存ルートを模索もさくさせる。




 差出人:桐谷彰きりたにあきら

 宛先:桐谷淑蓮きりたにすみれ

 件名:

 本文:ありがとうな。でも、昼はパンにするから大丈夫だ。




 とりあえず、帰れ!! 帰って下さい!!




 差出人:桐谷淑蓮きりたにすみれ

 宛先:桐谷彰きりたにあきら

 件名:

 本文:私が来ると、何か不都合でもあるのかな( ̄ー ̄?)




 ぁあ~、見抜かれてるぅ~!!


「アキラくん? 顔色悪いけど、大丈夫?」

「そ、そうですね。ほ、保健室に行こうかな」

 

 とりあえず教室から離脱りだつして、下駄箱前から由羅を引き離――


「なら、ゆいが付きそうね?」

「急に全快しました」

 

 何かしらの〝都合〟がないと、水無月みなつきさんの監視をくぐり抜けられない……かと言って、メールだけで由羅ゆらか淑蓮を下駄箱から遠ざけられるとも思えない。

 

 淑蓮が下駄箱まで行けば、由羅から〝ココにいる理由〟を聞き出すのは明白。妹はブラコンをこじらせているし、由羅の狂気的な信仰が消えた現状でも、何かしらの〝面倒ごと〟が起きるのは目に見えている。




 差出人:桐谷彰きりたにあきら

 宛先:桐谷淑蓮きりたにすみれ

 件名:

 本文:あと何分で着く?




 差出人:桐谷淑蓮きりたにすみれ

 宛先:桐谷彰きりたにあきら

 件名:

 本文:ニ分ぐらい?




 下駄箱まで走れば約一分。残り60秒で水無月さんを出し抜いて、教室から下駄箱まで向かうのは不可能――だとしたら、〝一緒に〟向かうしかない!!


「すいません、ゆい。やっぱり、具合が悪いみたいで……保健室までってもらえますか?」

「え、う、うん! もちろん! 汗を舐め――身体拭いてあげるね!!」

 

 妖怪あかなめかよ、お前。


「さ、さ、行こ! は、はやく!

 せ、先生! アキラくんが具合悪いみたいなので、身体を拭いたり、えっと、アレもしたいしコレもしてきます!!」

 

 年末年始に戻って、煩悩ぼんのうぎ落としてこいや。


「お、おう。水無月が冗談を言うなんて、珍しいな」

 

 クラス内が明るい笑い声で包まれ、水無月さんが恥ずかしそうに顔を赤らめる中、俺だけが真顔で突っ立っていた。


「じゃ、じゃあ、アキラくん、行こっか?」

 

 水無月さんに保健室まで誘導されながら、俺は校内の見取り図を頭のなかに思い浮かべ、一階にある保健室から下駄箱までは、走って30秒程度でたどり着けることを確認する。


「あ、あのね、アキラくん。お願いがあるんだけど……聞いてくれる?」

 

 聞いてくれないって言っても、言うこと聞かせるんでしょ?


「なにかな?」

「しゃ、写真撮影したいの」

 

 信じがたいことに、まともなお願いだったわ!!


「この首輪をつけた全裸のアキラくんの写真を1000枚くらい」

 

 そんなわけねぇわな!!


「あとね、アキラくんの綺麗な肌に、油性マジックで『水無月結』って書きたいの! 何回も書きたいの! 全身! 余すことなく! ゆいのものだってことを示すために! 結の手で! 何回も何回も何回も何回も何回も何回も!! アキラくんの白くて柔らかいお肌に、ゆいの名前を書いてあげたいの! だって、ゆいのものだもん! アキラくんの全部は、ゆいだけのものだもんね!?」

 

 アクセル全開で、頭が事故っとるわコイツ。


「い、いいかな?」

 

 どうして持ってきたんだろう? と疑問に思っていた鞄から、ゴツいデジタル一眼レフカメラを取り出し、呼吸の荒い水無月さんが、黙っていれば可愛らしい顔を歪めて「ハァハァ」と俺に詰め寄ってくる。


「すみません……もちろん、恋人であるゆいに書いてもらいたいのはやまやまですが……本当に具合が悪くて……」

「そ、そっか。ご、ごめんね。こ、今度にしようね? ゆ、ゆいと二人で、こ、今度、しようね?」

「もちろん」

 

 しねぇよ!!

 

 ようやく保健室に到着すると、保健室の先生は不在で、俺は「空気を入れ替えたい」と言ってごく自然な動作で窓を開ける。


「か、身体、拭こうね……ゆいの舌で拭こうね……」

「まず、服を脱ぎますから。脱ぐところを見られるのは恥ずかしいので、カーテンを閉めてもいいでしょうか?」

「う、うん、早くしてね!」

 

 俺は手早く服を脱ぎつつ、衣擦きぬずれの音をボイスレコーダーに録音し、わざと上着をカーテンの下の隙間に落として〝盲点もうてん〟を作り出す。

 

 リピート再生にしたボイスレコーダーを枕元に置いた後、俺はカーテンの下をくぐって窓側まで行き、窓から外に出ると同時に猛ダッシュで玄関口まで向かった。


「ゆ、由羅!!」

「あ、アキラ様」

 

 由羅の元まで辿り着くと、妹らしき人影を校門付近で目視もくしし、俺は彼女の手を引っ張って下駄箱から離れる。


「今日の放課後! デートだ! 遊園地に着ていく服を買いに行こう! 異存いぞんはないな!? 『はい』と言え!」

「は、はい……で、でも、水無月結にどうして遊園地のチケットを――」

「アレは誤解だ。そして、その説明はデートの時にする。俺とのデートは嫌か?」

 

 論点のすり替えをらえや!!


「い、嫌なわけ、あ、ありません……あ、アキラ様と一緒なら……ぼ、ボクはどこにでも……」

「よし。なら、教室まで戻って、放課後を待ち望め。

 いいな?」

「は、はい! た、楽しみにしてます!」

 

 階段を上がっていくのを見守ってから、俺はうんざりとした気持ちを抱え、玄関口まで走って向かう。


「あ、お兄ちゃん!」

「お弁当をありがとう!! 俺はお前が大好きだよ!!」

 

 三十倍の速さで頭をでてやると、淑蓮は「もー、髪の毛、崩れちゃうよぉ」とデレデレとした顔で文句を言う。


「すまんが!! 直ぐに授業があるんでな!! お兄ちゃん、教室に戻るな!! 大好きな妹は、聞き分けがいいからわかってくれるよな!?」

「もちろんだよ! でも、その前に……んーっ」

 

 目をつむって唇を突き出す妹の額にキスをすると、緩みきった顔つきで「お兄ちゃんったら、シスコンなんだからぁ」とへなへな声でつぶやく。


「お兄ちゃん、メールするから! 返事してね!」

「あぁ!!(大嘘)」


 帰っていく妹に手を振りながら、俺は己の最大速度をもって職員室に飛び込み、ホームルームを終えていた雲谷うんや先生に叫ぶ。


「先生!! 保健室の先生がいなくて、薬の場所がわからないので、今直ぐ保健室に来て下さい!!」

「え? あ、あぁ、わかっ――」

 

 職員室の窓から飛び出て先生たちが目を丸くし、保健室まで突っ走った俺は、慎重に窓から入ってカーテンの内側まで戻る。


「……アキラくん? ねぇ、さっきから、無視してるの? ねぇ?

 アキラく――」

「ゆい」

 

 ボイスレコーダーを止め、服を脱いで汗をぬぐった俺は、笑顔でカーテンを開ける。


「お待たせしました」

「そ、それじゃあ、早速、舌で――」

桐谷きりたに、大丈夫か?」

 

 雲谷先生が入ってきて水無月さんが舌打ちし、俺はやり遂げた達成感でガッツポーズを取りそうになって――




 差出人:桐谷淑蓮きりたにすみれ

 宛先:桐谷彰きりたにあきら

 件名:

 本文:一緒に帰りたいから、放課後、校門前で待ってるね?

    お兄ちゃん、大好きだよ♡




 神を呪った。

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