人生っていうのは、どんどん詰んでいくようにできている
「協力しろ」
昼休みに呼び出した
「きょ、協力しろって……なにを?」
「お前は俺に借りがある上に、
お前は俺に協力する義務がある」
「だ、だって、水無月結に見られてたとは思わなかったし!」
「結果として見られていた。どれだけ少ない可能性だろうと、ヤンデレに俺の弱みをひけらかしたのはお前だ。
俺はヒモになるために手段も方法も問うつもりはないが、誰かを犠牲にしてまで目標を達成するつもりはない。ラブアンドピースが俺の信条だ。だから、ヤンデレ同士の争いは避けたいし、平和裏に事を収めたい」
「いや、ヒモがラブアンドピースって……そもそも、あんた、あたしのこと散々使い走りに使ったでしょうが……」
「あの程度は、犠牲に含まないだろ?」
「アハハ、死ねよクズ」
小さな弁当箱を膝に広げていたマリアは、キョロキョロと辺りを見回し、それから俺の手をとって歩き出す。
校舎裏までやって来て、ようやくマリアは息を吐いた。
「話はわかった。確かに遊園地の件は、あたしの責任もある。正直、呼吸範囲内にあんたが存在して欲しくないけど……協力してあげてもいい。
でも、条件がある」
「わかった、命は保証してやる」
「あたしに、なにさせるつもりだった!?」
「冗談だ。早く、条件を言え」
「あんたが言うと、冗談に聞こえないのよ……」
「
「どういう意味だ?」
「そのままの意味よ。なんでか知らないけど、由羅先輩はあんたに
「良いだろう。別に問題はない」
「なら、遊園地デートは、由羅先輩と一緒に――」
「いや、それは無理だ」
「はぁ?」
マリアは怒りを
「落ち着け。単純に期間をズラして、由羅とも水無月さんとも一緒に行くだけだ。新しくチケットを書い直せば、それで済むだろ?」
「あ、そっか、そういうことね……ごめん、勘違いした。
なら、とりあえず、新しく買うチケットの値段、調べてみるね」
マリアはスマートフォンを取り出し、素早い指の動きで検索を終わらせ――急に真顔になった。
「おい、どうし――」
「完売してる」
ニコッとした作り笑顔で、マリアは唇を震わせた。
「ゆ、遊園地の入園チケット……ぜ、全部、完売してる……」
一秒、二秒、三秒――俺は
「ふ、ふざけんな!! ど、どういうことだ!? え、えぇ!? そ、そうなる!? そうなっちゃう!?」
「お、おおおおお落ち着きなさいよ! だ、大丈夫、金券ショップで手に入――な、なに、この値段!?」
学生ではまず手の届かない
「あ、あのチケット……限定的に売り出された、プレオープン用のプレミアチケットだったのよ……市内に遊園地が出来たのは風の噂で聞いてたけど、グランドオープンはまだだったってことね……」
「落ち着くな!! お前、俺を残して落ち着くな!!」
親に金を借りてチケットを買うか――無理だ、
「わかった。方法がひとつある」
「え? なに?」
俺は満面の笑みで言った。
「お前、
「よし、落ち着いたわ。まぁ、なんとかなるだろ」
「突然、とんでもなく冷静になるのはやめて!! 置いて行かないで!!」
しがみつかれて身体を揺らされ、俺はゆらゆらと切り替わる視界の中で、思考回路を整えていく。
「
「雲谷先生から感想を聞かれて、由羅先輩が素直に答えたら、絶対にどこかで食い違いが出てバレるわよ!? それに、水無月結にあんたがチケットを渡してる場面を由羅先輩は見てるんだから、どこかで勘付かれてもおかしくない!」
あれれ~?
「しかも、プレオープン期間は、来週一週間……そこから、グランドオープンまでは一ヶ月以上ある……」
「それまでに、この額の金を
それに、今日の放課後、由羅とのデート次いでに、アイツの服を買いに行く約束までしてるしな」
「は、はぁ!? なんで、そんな約束してるの!? バカじゃないの!?」
「馬鹿とはなんだ」
俺は携帯を突きつけて、愛する妹からのメールを見せつける。
「しかも、放課後、
やったね!!(ヤケクソ)」
「……あたし、ちょっと二週間くらい
逃げようとしたマリアの両肩を押さえつけて、俺は笑顔でささやきかける。
「お前は、俺の協力
恐る恐る、振り向いた彼女は、何もかも
「契約成立だ」
こうして、俺たちの長く辛い戦いが始まった。
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