下駄箱攻防戦
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本文:今日! デートしたいな!
「ゆいとデートに行けるなんて嬉しいなぁ!」
「あ、アキラくん、声大きいよ……ば、ばか……」
ココで二人が
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本文:放課後に行こう! 相談したい! 今直ぐ、下駄箱に行って!
由羅の目がぱぁっと光り輝き、ドア越しに携帯電話を大事そうに握り締めて、こくこくと何度も頷く。
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本文:アキラ様、大好きです!
わかったから、とっとと失せて!!
「アキラくん? 汗、どうし――ポケット」
水無月さんの声質が変わって俺の背筋が凍りつき、薄暗い瞳の彼女がゆっくりと俺のズボンへと手を伸ばし――俺は仮止めしていた糸を
「わっ!」
驚いたふりをして後退、床に落ちる音を誤魔化すために机にわざとぶつかり、同時に
「あ、アキラくん! 大丈夫? ご、ごめんね、ゆい、ポケットにずっと手を入れてるのが気になって……」
「大丈夫ですよ、ゆい。少し、驚いただけですから。
あっ!」
「え?」
水無月さんがドアの方へと振り向いた瞬間、
「ゆい、よく見て下さい……アレ……!」
「どうしたの? あの女がいるの? 大丈夫だよ、アキラくんは、ゆいが一生守ってあげるから」
「すみません、見間違いでした」
「そっか、なら良かった」
「それじゃあ、片付けちゃおうか?」
「えぇ、ありがとうございます」
ココから下駄箱まで行くのには、1~2分はかかる。由羅が辿り着くまでに十分に時間はあるし、ホームルームが始まる時間帯を見計らって、こちらからプリセットメールを送れば事案回避だ。
コレで、当面はだいじょ――息を切らし、上気した顔の由羅が、教室のドアに手をかけているのが視え、俺は無言で携帯電話を耳に当てる。
「え? アキラくん?」
「下駄箱で待っててくれって意味だよぉ!! 今直ぐ、行って戻ってこいなんて誰も言ってないよぉ!!」
ドアの向こう側まで聞こえるような大声で叫ぶと、水無月さんは
慌てて携帯電話を取り出そうとしていた由羅は、俺の叫び声を聞くと、ハッとした表情をして忠犬のように廊下を駆けていった。
「アキラくん、今のなに?」
「あぁ、すみません。母親です。弁当箱を忘れてしまったので、下駄箱まで届けに来てくれたみたいなんですが……やり取りに勘違いがあったせいで、また家まで戻ってしまったみたいです」
「あ、そうなんだ。なら、また下駄箱に来るのかな? せっかくだから、ご挨拶を――」
両肩を掴んで無理矢理に振り向かせると、何を勘違いしたのか、水無月さんは口元をあわあわと動かし、ぷいっと赤い顔を
「きょ、教室ではダメ……めっ、だよ……」
教室じゃなくても、お前は『めっ』だよ。
「そういうのは、ちゃんとした機会に行いましょう。下駄箱で俺の母親と初対面なんて、あんまりよろしくないんじゃないですか?」
「そ、そうだ、ですね……」
テンパれ!! 一生、テンパってろ!!
「ホームルーム始めるぞぉ、席つけ~」
ナイスタイミング、
「あ? 桐谷、なんだその席? まさか、また、新しいのが出たんじゃないだろうな?」
ヤンデレを幽霊のように扱うそのスタイル、嫌いじゃない。
「いや、ただの日常です。
すいません、片付けてるんで、ホームルーム始めてて下さい」
「……手に負えないようなら相談しろよ?
よし、始めるか」
朝のホームルームが始まって、俺はようやく
「もしもし? ママ? うん、うん……あ、そうなの! 私、間違えて、お兄ちゃんのお弁当箱をもってきちゃったみたいで!」
計画的に兄の弁当箱を
「え? お兄ちゃん、お弁当箱を持って行ったはずだって? アハハ! アレ、中身、
うん、大丈夫。うん、うん」
にこやかな笑顔で、彼女は言った。
「私、お兄ちゃんのお弁当箱、今、届けに行ってるから。うん、先生も許可出してくれたから問題ないよ」
当然、教師が中学生を一人で外出させるような判断をするわけがない……例え、一時間目が自習だとしても。
「お兄ちゃん、私が来たら、喜んでくれるかなぁ?」
スキップしながら、淑蓮は由羅の待っている下駄箱へと向かって行った。
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