この机と下駄箱がスゴイ!!

「……なんじゃこりゃ」

 

 ざわついている2-Cの教室内では、飾り立てられた〝俺の席〟が、光り輝く祭壇さいだんと化していた。

 

 爛々らんらん光明こうみょうを示す金箔の貼られたアキラ像が、俺の代替だいたいとして腰を下ろし、机上きじょうにベタベタと貼られた『アキラ様美辞麗句びじれいくシール(アキラ様スゴイ!! アキラ様最高!! などの文字を示したラメシール)』が、これでもかと存在をアピールしている。

 

 席の周囲をよくよく視てみれば、騒ぎ立てる観衆のようにして、色とりどりの蝋燭が取り囲んでおり、何故かソーセージらしきものが点々と配置されていた。


「ど、どうでしょうか……?」

 

 俺の後ろで前髪をいじくくりつつ、頬を染めている由羅ゆらは、チラチラと俺をうかがい視ながら尋ねてくる。


「あ、アキラ様の愛らしさと権威けんいを最大限に活かして、さ、祭壇を作ってみました……ぷ、プレゼントです……は、恥ずかしい……」

 

 生き恥を晒すのに、俺を巻き込むな。


「お前、ふざけ――」

桐谷彰クズ、ちょっとこっち」

 

 後ろから付いてきていた衣笠麻莉愛マリアは、俺の手を引っ張って、無理矢理に廊下へと連れ出す。


「なんだよ?」

「喜んで」

「は?」

「由羅先輩に悪気はないの。だから、喜んで」

 

 悪気なしに顔面殴るから、喜んでみろや。


「お前な、あの状態で、授業を受けろとでも言うのか?」

「そ、そこまでは言わないわよ! でも、あの仕込み、ふたりがかりで3時間くらいかかったんだからね!」

 

 手伝ってんじゃねぇよ。

 

 俺が無言で撤去作業てっきょさぎょうをしに教室へ戻ろうとすると、マリアは俺の腰を掴んで必死の抵抗を始める。


「お願い! お願いします!! 一回だけ! 一回だけでいいから、喜んであげて! あんたにめてもらいたくて、由羅先輩、頑張ったんだから!」

「バカ野郎。こういうのは一度でも許容きょようすれば、後を引くのは目に見えてんだよ。お前は雑魚モブだからわからんだろうが、ヤンデレってのはそういうもんだ」

「そ、そこを何とかするのが、プロでしょうが!」

 

 ヤンデレの達人証明書プロライセンスとか、誰が欲しがるの?


「何とかしたら、お前は俺に何かしてくれるのか?」

「え?」

 

 きょとんとして、マリアは俺を見上げる。


「等価交換だろ? 対価もなしに、俺が何かしてやるとでも思ってんのか?」

「だ、だって、あたし、あんたにあげられるものひとつも――」

 

 ハッと上げた顔を真っ赤にして、マリアは自分の胸を両手で覆い隠す。


「さ、さいてーっ! 人非人ヒトあらずクズ!! な、何考えてんの、アンタ!?」

「妙なコトを考えてるのは、お前だけだ。お前の微妙に盛り上がった隆起りゅうきなどに、人類が興味をもつわけないだろ」

「人類の総意そういを決めつけるな! あ、あたしの胸にだって、需要じゅようくらいあるわよ!!」

 

 胸の論議をするのがアホらしくなり、俺は腕時計に目をやって、そろそろ、水無月みなつきさんが教室に入ってくる時刻だと気づく。


「わかったよ。借りひとつだ、何時いつか返せ」

「え? あ、うん、ありがと……」

 

 アレを目にした彼女がどんな反応を見せようと、俺にるいが及ぶのは間違いないので、仕方なく譲歩じょうほの形を見せて教室へと入った。


「あ、アキラ様、ま、マリアと何の話を――」

「わーっ!(棒読み) すっごーい!(棒読み)」

「え、えっ……?」

 

 目をしばたたかせて、由羅は可愛かわいらしくはにかむ。


「おれのことをおもってつくってくれたんだなぁ(棒読み低音)。つくりてのきもちがあふれてて、こんなにうれしいことないよ(棒読み高音)。

 ありがとな、ゆら(棒読み最高音)」

 

 妙な噂が立たないように俺の身体で隠してから、由羅の頭を撫でてやると、彼女は上目遣いで「え、えへへ」と笑った。


「こ、コレで喜んで下さるなら、げ、下駄箱を視たら、も、もっと大喜びして下さるのでしょうか?」

「テメェ、俺の下駄箱に何しやがっ――楽しみだなぁ(棒読みロッド・リード)」

 

 先ほど、腰を掴まれた際に盗まれたのか、遊園地のペアチケット(俺の生命線)をマリアが笑顔で人質にとっていた。


「良かったですね、由羅先輩!」

 

 マリアが由羅に抱きついて頬ずりをすると、俺の机を仕立て上げた犯人は「う、うん」と嬉しそうな微笑ほほえみを向ける。


「ま、マリアが手伝ってくれたから……げ、下駄箱のほうも喜んでくれるかな……?」

「もちろんですよ! 8時間もかけたんですから!」

 

 下駄箱ごと廃棄はいきするしかねぇ!!


「おい、マリア」

「耳打ちしないでよ。耳に息がかかってキモい」

 

 めしゃぶってやろうかな?


「水無月さんが来る前に、とっとと片付けるぞ。

 そうしないと、マズい事態じたいに――」

「どうしたの? なんの騒ぎ?」

 

 教室のドアを開けて入ってきた水無月さんは、笑顔のままで目を細め、俺の机をめつける。


「……ねぇ? なんの騒ぎなの、アキラくん?」

 

 冷や汗を流している俺は、抱えていたアキラ像からそっと手を離した。

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