クズで良いから!! ホントにクズで良いから!!

「……ようやく思い出した。あの時の女の子か」

 

 水無月みなつきさんはボソリとつぶやいて、衣笠きぬがさ拘束こうそくから解き放つ。


「せっかくの〝後輩からの親切〟、無駄にしちゃったんだ……可哀想かわいそうに」

「え?」

「下駄箱、見ればわかるでしょ? アキラくんが登校してたかしてなかったくらい」

 

 愕然がくぜんとして、衣笠はゆっくりと目を見開いた。


「まさか……そんな……手紙、読んでなかったの……?」

「いや、読んだ」

「〝ゴミ箱の中〟にあったのを拾い上げて、細切れになったのをわざわざ修復したんだよ! お兄ちゃん、家にまで行ったのに! 『来てくれなかったの』~じゃないよ!」

 

 あ、マズいわ。嫌な流れを感じるわ。


「ど、どういうこと?」

「手紙を入れるなら、自分でやりなさいって話」

 

 ため息をいて、水無月さんは首を振る。


「実際は心のなかで猛反発もうはんぱつしてた後輩に任せたら、そういう結果になるとは思わなかった?」

 

 立ち上がった衣笠は、あまりの衝撃しょうげきによろめいて――落ちている黒髪ウィッグをつけて唖然あぜんとする。


「ぼ、ボクは……だ、だって、真理亜は……い、家にまで来てたなんて、し、知らなかった……!」

「落ち着け、由羅ゆら。クールダウンしろ。好きなお菓子、100円までなら買ってやるから」

 

 聞く耳をもたないのか、彼女は頭を抱えてブツブツと呪言じゅごんを放ち始める。


「わかった!! 150円まで買ってやるから!!」

「お兄ちゃん、値段の問題じゃないと思うよ」

 

 嘘だろ?


「う、裏切られた……と、友だちだと思ってたのに……う、裏切り者……しゅ、粛清しゅくせいだ……粛清だ……!」

 

 急に走り始めた由羅に反応し、この場からの離脱もねて、俺は全速力で追跡ついせきを開始する。


「ね、アキラくん」

 

 俺の全力疾走ぜんりょくしっそうに涼しい顔でついてくる水無月さんは、ニッコリと笑う。


「手紙をゴミ箱に入れたのは、あの後輩の女の子……なら、手紙を細切れにしてあげた功労者こうろうしゃはだーれだ?」

水無月結ヤンデレ!!」

「当たり! せっかく読めないようにしてあげたのに、アキラくんったら、かんが良いんだもん!」

 

 ご褒美ほうびに、溶鉱炉ようこうろに沈めてやろうかな。


「ね、お兄ちゃん、放っておいたら? くわしい経緯けいいは知らないけど、あっちが勝手にお兄ちゃんに好意をいだいて自爆したんでしょ? どうして、お兄ちゃんが悪いことになるの?」

「俺が悪者のほうが、丸くおさまったからだよ!!」


 お陰様かげさまで、死亡確率上昇キャンペーン実施中じっしちゅう!!

 

 衣笠を追いかけて辿たどり着いたのは、俺が彼女にまんまとだまされてやって来た一般住宅だった。


「ど、どうして、ぼ、ボクを裏切ったんだ……!」

「あぁ、やっぱり、わたしをつけてきてた信者おんなのこか……どこかで見たことがあると思った」

 

 ゆったりと腰掛けて、由羅と対峙たいじしているマリアは、こうなるとわかっていたかのように泰然自若たいぜんじじゃくとして構えている。


桐谷彰ソイツが――」

 

 アキラ教の信者をよそおっていた彼女マリアは、憎悪ぞうおこもった視線で俺を射抜いぬく。


「クズだからですよ!」

「はぁ?」

 

 みっつの返答が重なって、擁護ようごされている俺は、もう死ぬんだろうなと思った。

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