衣笠由羅の追憶③ と 空想の衣笠真理亜
「手紙、下駄箱に入れておきましたけど……ホントに良いんですか?」
野球部の掛け声が響き渡る放課後、マリアは不安気に真理亜のことを仰ぎ見た。
「ん、だいじょぶ」
「その……真理亜、先輩なんですよね?」
理解し
「家に帰って『
「ま、そうゆうことだよね」
別人のように性格が変わった真理亜を
「あたしと同じ名前なのは、偶然なんですか?」
「運命かもね」
真理亜は、愛らしくウィンクをする。
「
「運命……?」
「あの子の〝
彼女は
「だとすれば、あの子は〝現実〟を見つめ直す時なのかもしれない……そして、それをもたらしたのは『
「アイツ、昔から、トラブルメーカーですからね。女性絡みの
「……マリアって、落雷に当たったことある?」
「え、ハァ!? あ、あるわけないですよ!」
「そう、それが普通。でも、中には、〝七回〟も落雷に
確率的に言えば、22,000,000,000,000,000,000,000,000分の1」
「そ、そんなの有り得るんですか?」
「普通は有り得ない」
「でも、〝普通じゃなければ〟有り得る。そして、この世界では、普通じゃないのが普通なんだよ」
校舎裏にまで落ち葉を踏む音が響いてきて、思考に沈んでいたマリアはハッと顔を上げ音の鳴った方角に目をやった。
「そ、それじゃ、あたし行きます。ご
「ん、じゃね」
ひらひらと手を振って、走り去っていくマリアを見送り、彼女はそっと目をつむって告白の時を待ち望む。
一秒、二秒、三秒……足音が、背後で止まった。
自身の肌をなぞり上げるような恋心に耳を澄ませ、高鳴る鼓動に全身を痺れさせながら、息を吐いて振り向き――彼女は、立っている
「み、
「来ないよ」
ニコニコとしている
「彼、ココには来ない。
「伝言?」
「『男同士は無関心に過ぎないが、女同士は生まれながらにして敵同士である』」
「……は?」
「ショーペンハウアー」
黒髪を耳の後ろに
「……アナタは、告白する前にフラれたんだよ」
すれ違いざまに耳打ちされ――真理亜の中の由羅は、猛烈な勢いで暴れだし、
「そ、そっか、ボクは〝由羅〟だ……」
〝
「そ、それに、アキラ〝様〟は神様じゃないか……! そ、そうだ、そうだよ、ふたつも〝願い事〟を叶えて下さった……!」
幼少時代から、他人とのコミュニケーションを
だからこそ、彼女は
「そ、そうだよ……ぼ、ボクが、アキラ様に恋心を抱くなんて、恐れ多い話だ……彼に恋をしてる〝真理亜〟は、ぼ、ボクがココに来る前に〝走り去った〟じゃないか……!」
「由羅! 由羅、コッチを見て!! 由羅ッ!!」
頭を抱えながら校内をうろつく由羅に、鏡の中で叫んでいる真理亜の姿が視えるわけもない。
「そ、そうだ……あ、アキラ様を
彼女の両目に映っているのは――
「あ、アキラ様は……ぼ、ボクと真理亜を褒めて下さるかな……あ、アキラ様のために頑張れば、また名前を……呼んでくれるかな……」
神として
「ま、まずは、真理亜のところに行かなきゃ……あ、あの子なら、ボクのことを理解してくれる……理解してくれないなら、〝説得〟しないと……」
「ゆ、由羅、どこに行くの? そっちは家の方向じゃ――やめて!! あの子は、
演劇部から盗んだ
「由羅、お願い!! やめて!! 由羅、由羅ッ!!」
「あ、待って下さい先輩! 今、開けます!」
インターホンに呼ばれたマリアは顔を出し――
「い、一緒に、あ、アキラ様の教義を世に伝えようね」
笑顔の由羅に、〝引きずり込まれた〟。
「……バレちゃったか」
水無月さんの下に
「桐谷には、もうバレてるのかな?」
「首元のほくろを視るまでは、同一人物だとは思わなかったがな」
衣笠は、勢い良く顔を上げて叫ぶ。
「桐谷!
言えない。
「あぁ、(次の日に)読んだ」
その日は学校をサボって、家でゲームしてただなんて言えない。
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