番外編 別世界の話

とある別世界の話・・・・・・。


ある男がキャンプ場で男の子と共にイスに座っていた。その男性の方は男の子を心配した様な顔で話しかける


「秋斗。ここまで来て勉強をするのかい?」


「・・・・・・うん。この問題を解くの面白いから」


「そうか。春人が戻って来たら、景色を見に行こうか」


「うん。分かったよ。でも春人大丈夫かな? お師匠さんが森の方に連れて行っちゃったけど・・・・・・」


「ああ、彼に任せていれば大丈夫だと思うよ」


恐らく日課の訓練をしているだけだから、心配しなくても良いだろう。と考えているに対して、秋斗と呼ばれた男の子は心配そうな顔で森を見つめていた。

もう気づいていると思うが、彼は倉本 春人の父親である倉本 甲二 なのだ。


ホント、春人とあの人のお陰で自分の幸せに気づけたんだなぁ。


遡る事数年前。彼は秋斗が自殺した場所で自らへの罰として、息子の様に橋の上から飛び降りて自殺した。までは良かった。


「・・・・・・ここは?」


み見渡す限り真っ白な空間。その不思議な空間の中で妙な浮遊感を感じる。


「あっ、やっと起きたんだねぇ〜」


『ッ!?』


俺が驚いているにも関わらず、不思議な青年はにこやかな顔で近づいて来た。


「なにもしないから、そんな警戒しないで。むしろキミの息子に感謝しているぐらいなんだから」


息子? 秋斗の・・・・・・いや、春人の事か?


「そうそう、キミの子の春人くんが僕の世界を救ってくれたんだよ」


『世界? 救った?』


目の前にいる青年が、なにを言っているのか分からない。


「なにを言っているのか分からないって顔をしているねぇ。簡単に説明すると春人くんは別の世界に飛ばされて、その世界で活躍して世界を救ったんだよ。

それと甲二くん、キミは橋から飛び降りて死んでいる事にも気づいているよね?」


『ッ!?』


そうだ! 自分の罪を償う為に飛び降りたんだ!


「そしてほら、その後こんな風になってるよ」


彼が観せてくれたのは、亡くなった俺の遺体の側で調べている警察と周りに群がる野次馬。そして画面が切り替わると俺の父親である甲信しかいない葬儀が始まる映像の様なものへと変わる。


「キミが自殺した後、こんな事が起きていたんだよ」


そうなのか・・・・・・って。


『ところでキミは誰なんだ?』


「ボク? さっきから神様って言っているんだけど、聞こえてなかった?」


『神様・・・・・・』


そう言われてみればそうかもしれない。


「半信半疑っぽいところ申し訳ないんだけど、そろそろ本題に入らせて貰うよ」


『本題?』


「うん、キミは人生を後悔しているんだよね?」


目の前にいる神と言う人の発言にムッとしたが、当たっているので俯いてしまった。


「なにも答えないって事は合っているって事だよね。そんなキミにチャンスをあげちゃうよ」


『チャンス?』


「うん、チャンス。時を遡る事は出来ないから、並行世界でやり直すチャンスをキミにあげるよ。時間はぁ〜・・・・・・春人くんと秋斗くんが生まれた日ね」


『春人と秋斗が生まれた日・・・・・・』


そうだ。その時の俺達夫婦は、秋斗と春人を平等に愛してあげようって思っていたのに。


「それが秋斗くんの才能を見て将来性を感じたから、あんな風になっちゃったんだね」


『えっ!? あの、どうして俺が考えている事が分かるんですか?』


「それはだってボクが神様だから、キミが考えている事が分かるに決まっているじゃん」


なんでもお見通し。という事なのか。でも、一つ気になる事がある。


『どうして俺にやり直すチャンスをくれるんですか? 春人がそう言ったんですか?』


「ううん。春人くんはそんな事全く言ってないよ。むしろなにも言わなかったから困ってたんだよ」


『なにも言わなかったから困っていた?』


一体どういう事なんだ?


「うぅ〜ん・・・・・・簡単に説明すると、世界を救ってくれたお礼にキミの願いを叶えてあげるって言ったんだけどさ。

彼はね、なにも要らない。って答えたんだよ」


『なにも要らない?』


「そう。まぁ彼の生活を見てたら、理由は分かるよ。だってキミが亡くなってからの日々よりも、充実した毎日を過ごしているんだから」


充実した日々・・・・・・。


「そう、彼が頑張って手に入れた大切な居場所。彼自身が一番欲しかったものを自分で叶えたんだから、なんの願いもないよね」


『・・・・・・そうですか』


考えてみればそうか、俺達夫婦は秋斗ばかりを構っていて春人の居場所が何処にもなかった。


「・・・・・・っと、しんみりしているところ悪いけど、そろそろ決断してくれるかな? やり直す? それとも輪廻転生して新しい人生を生きる? その場合記憶が無くなるけど」


『やり直してみたいです』


俺の間違っていた人生をやり直したい。


「そう。エル・・・・・・春人くんと違って決断が早くて助かるよ。もう既に分かっていると思うけど恋愛シュミレーションゲームと同じで、同じ選択をすれば同じ末路にたどり着くよ。そこのところは大丈夫?」


『はい!』


もうあんな思いはしたくはない!


「うん、良い返事だよ。彼らを幸せにしてあげてね。そうそう、アドバイスとして奥さんの方は早め見切りつけた方がいいよ」


『え? それはどういう意味ですか?』


「その理由はキミの方が分かっていると思うよ。あっ!? そろそろ送らないとマズい事になる!」


『マズいことって一体?』


「まぁ気にしない気にしない! こっちの問題だから! じゃあね、今度こそ後悔のない様ね」


神と名乗る人が柔かな笑みを浮かべたまま手を振る姿を見た瞬間、視界が真っ暗になった。そして目が覚めたと思うのと同時に、ここが病院の待合室だと気づく甲二いた。


あの待合室から色んな事があたなぁ〜。前世で否定していた事業を軌道に乗せて会社をもっと発展させた。そして前世とは違ってみんなに感謝され、会社の人達と親しくなった。

春人達を産んでくれた妻の事だが、残念ながら前世と同じ性格だったので離婚して俺が二人を引き取った。今では春人と秋斗はいい子に育ってくれている。


「うぅ〜・・・・・・疲れたぁ〜」


昔の事を思い出していたら、春人が戻って来た。


「お帰り、修行の方はどうだった?」


「ヒドいったらありゃしないよ! あの森の中をランニングするなんて無理だって!」


「ランニングで済んで良かったんじゃないの?」


「木を避けて通るのに苦労するんだぞ?」


「森の中で戦闘訓練だったら、ボコボコにされていたよね?」


「そ、それは言えてるかも・・・・・・」


ちょっと引き気味に話す春人を見て、笑えて来たが我慢する。


「そういえば師匠は?」


「店の方があるから帰る。って言って帰ってった」


お店の事があるのなら、ここに来なくても良かったんじゃないか?


「今から帰るって、お昼過ぎに開店して人が来るの?」


「あの人にとって店は趣味みたいなものだから、気にしなくても良いんじゃないか?」


趣味かぁ・・・・・・そんな事よりもだ。


「春人が帰って来たんだし、少し散歩してみようか」


「俺もうクタクタだよぉ〜」


「もう少しだけ待って」


「さっき見かけた屋台に行くし、買い出しもしたいからさ」


実はお店に寄るのをうっかり忘れてしまった為、食材がない状態だ。


「ハァ〜・・・・・・分かったよ。買い出しに行こう」


「その代わり僕達にお菓子買ってね」


「分かったよ、二人共」


そう会話した後、三人で横並びになりながら仲良く歩くのであった。

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クラス転移したけど私(俺)だけFPSプレイヤーに転生 青空鰹 @aozorakatsuo

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