第32話

影の者の案内のお陰で偵察ポイントにたどり着いた。


「先ずは外の様子から見る事が必要だよね」


そう言ってから双眼鏡を取り出して砦を見る。


流石昔に作られた砦と言うべきか、ひび割れている個所がなく、しっかりしているな。


「う〜ん・・・・・・人っぽい姿がどこにも見当たらない」


「そうですね。でも、我々の仲間が出入りしているのを目撃しているので、あそこにいるのは確かです」


目撃証言があるのなら、あそこを拠点にしているんだろう。しかし・・・・・・。


「砦どころか周りは見晴らしが良くて近づき難いですね。でも逆になにもないのが不気味に感じる。もしかして探知魔法とか使ってるのかなぁ?」


「その可能性はありますね。確認をしたいところなのですが、ここからでは遠いので判断出来ません」


近づいてみないと分からない感じかぁ〜・・・・・・。


「近づいて確認しに行きたいところですが、軍と敵との間に入る形になるので、我々が巻き添えになってしまう可能性があります」


そうだよねぇ〜。味方の巻き添えを喰って死ぬ可能性あるもんねぇ〜。


「今の情報を軍の方に送った方が良さそうですね。他の情報は追加で知らせれば良いし・・・・・・」


「そうですね。ちょっと文を書いて送ります」


俺の側にいた影の者はそう言うと、俺から離れて手紙を書き始めた。


他に目新しいものは・・・・・・ん?


「砦の上に誰かが立っています」


「えっ!? 本当ですか?」


「はい。あそこの上をこれで覗いて見て下さい」


影の者に双眼鏡を渡すと、その場所を指でさし示す。


「本当だ! あの人は一体何者なんでしょうか?」


「フードを被っていてよく分からないんですが、どう考えても味方って感じではないですよね」


「はい・・・・・・あ! また一人増えました!」


「えっ!? 本当ですか?」


「はい、二人でなにかを話し合っているみたいです」


話し合っている・・・・・・もしかして!


「私達がこっちに来ているから、何か対策をしようとしているのでは?」


「そんな感じには見えません。後から来た人がその場にしゃがみ込みましたよ」


「えっ? しゃがみ込んだ? 一体なんの為に?」


「分かりません。もしかしたら、なにか魔法陣を描こうとしているのではないでしょうか?」


魔法陣・・・・・・。


念の為にもう一つ双眼鏡を取り出して、確認をし始める。


「・・・・・・確かに、それっぽい動きをしていますね。転移魔法で逃げるつもりなんでしょうか?」


「転移魔法で逃げるつもりでしたら、予め逃げ道用に用意した物を使うと思いますが?」


言われてみれば確かにそうだ。いざって時の為の逃げる手段をピンチな時に書くわけがない。


「そうですね、仰る通りです。それにしても、これだけ静かだと不気味に感じますね」


「・・・・・・はい、向こうは我々の事を察知していると思います。なのにこの状況は気になります」


やっぱり俺と同じで、この状況に不信感を感じているのか。


「この事を本部に連絡した方が良いかもしれません。相手は頭がキレますから」


「・・・・・・そうですね。鷹が帰って来たら、追加で連絡をします」


そのやり取りをした後も、彼らの行動を監視するのだが、魔法陣を描く手を止めない。


「これだけ長いと大規模な魔法陣を書いている可能性がありますね」


「大規模? もしかして高威力の魔法を放つつもりなんでしょうか?」


「その可能性は充分にあり得ます。ただ高威力の魔法を放つとなると、膨大な魔力を必要とするので、魔導師が一人や二人居て放てるものとは思えません」


「それに膨大な魔力を消費して一発放つよりも、沢山の魔法を一斉に放ったほうが良いと、私は思いますぅ!」


うん、ネネちゃんの言う通りかもしれないね。


「お姉様のジュウで撃ち倒せないでしょうか?」


「撃ち倒せそうだけど・・・・・・しゃがんでいてちょっとしか身体を出していないから、無理っぽい」


そう、砦の縁からチョコチョコ頭を出している程度なので、スナイパーライフルで撃つには難しいし、狙いを外してしまったら確実に俺達の居場所がバレてしまうのでハイリスクだ。


「軍がここにやってくるまで、狙撃できる様に準備をしますね」


「そうして下さい」


今は高威力、長距離それに連射性能の三つ要素が欲しいので、バレット M107A1 を取り出して狙撃の準備を進める。


「・・・・・・あの、お姉様」


「どうしたの、ネネちゃん?」


「どうして日影の方で寝そべっているのですか?」


「寝そべった方が安定するからだよ」


重いスナイパーライフルを持って構えるのは結構言ってしんどい。


「それは分かったのですが、日影の下にいる理由は?」


「日差しにいるとスコープのレンズが太陽の光を反射させちゃうんだよ。その反射させる光で位置がバレるのを避ける為に、日影にいるんだよ」


「へぇ〜、そうなんですかぁ〜」


キルフラッシュとか光の反射を抑えるパーツがあるのだけれども、パーツの方はハニカム構造か、スコープの枠を長く伸ばしてレンズに日が差し込まない用にしているかの二つなんだよなぁ〜。


「それよりもネネちゃん。射線に入っちゃいけないよ」


下手したら、ネネちゃんがスプラッタな状態になるし、そんな状態にさせたくもない!


「ゴメンなさい! 今すぐに退きます!!」


ネネちゃんはそう言うと、俺の目の前から退いてくれた。


「エルライナ様、軍から文が届きました。内容は、可能でしたらエルライナ様の方で対処して欲しいとの事です」


「それが出来たら、魔人達を倒しました。って文をもう送ってるのに・・・・・・」


俺の言葉に、影の者達も 本当にそれですよね。 と言いたそうな顔をさせた。


「どうします? エルライナ様」


俺がこの場で魔人を倒すかどうか、かぁ〜。


「狙撃可能だったら私の方で狙撃します。って伝えて貰えますか?」


「分かりました」


影の者はそう言うと、連絡を送る為に文を書き始める。そんな中、砦の上にいた魔人達が急に立ち上がりだした。


魔法陣が書き終わったのか?


そんな事を思っていると、儀式を始めるのか二人は両手を広げた。


「もしかして、これはマズい状況なのでは?」


「どうしたのですか?」


「魔法陣を書き終えたみたいで、儀式みたいな事を始めています」


「二人でですか?」


「はい。あ、もう一人の方が懐からなにかを出しました」


しかもばら撒いているし、一体なにがしたいんだ?


「あれは闇の魔石じゃないですか!」


「闇の魔石?」


「ええ、そうか。膨大な魔力を闇の魔石使って軽減させるつもりなのか。それに闇の魔石を使うとなると、彼らが使おうとしている魔法は闇魔法で間違いなさそうですね」


「あの・・・・・・彼らがなにをしようとしているのか分かるんですか?」


「彼らは闇の系統のモンスターを召喚して軍と戦わせるつもりなのかもしれません!」


なるほど、雑魚でも良いから頭数を揃えて戦うつもりなのか。


「ゾンビとかなら遅いし光系の魔法を習得している者がいるので大丈夫ですが、他の魔物だったら厄介かも!」


ああ〜、確かにそれはあるかもしれない。


「ここで撃ち倒して召喚を止めるか、このまま見過ごしてチャンスを待つのか・・・・・・」


「お姉様ぁ」


「エルライナ様」


二人は どうしよう? と言いたそうな顔を俺に向けてくる。


重要な決断を迫られている!


「・・・・・・ここで召喚魔法を止めよう」


立ち上がっている状態だから狙えなくはないし、次の狙えるチャンスがいつになるのか事態も分からないからな。


そう思った後、バレット M107A1 を構えて狙いを定め、撃つチャンスを待つのであった。

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